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樹々


 枝葉がぶつかり合うほどに木々が密生した森だった。

 先ほどまでの濃霧が嘘のように晴れており、天気は非常に良好。

 ただし、霧の代わりに鬱蒼と茂った森が広がっているため、視界は相変わらずあんまりよろしくない。


「うげ、この中を入っていくのか……とりあえず霧が晴れたのは助かるけど、一難去ってまた一難ってやつだな」


「個人的には足下のぬかるみがなくなったのがありがたいです」


「めえっ!」


 転ばなくなって上機嫌なメイを戦闘にして、森の中を歩いていく。

 木々は密生してはいるが、横幅のメイが通れるくらいのスペースはある。


 だがあり得ないことに足跡どころか、生き物の痕跡がまったく残っていない。

 これもまた、事前に話を聞いていた通りだ。


 この森は、誇張でもなんでもなく生きている。


 生き物の死骸は森の養分となり、少し見ないうちに消えてしまう。

 そして人や獣が通った場所は、かさぶたが傷を覆うように、新たな草木に覆われてその痕跡を消し去られてしまう。


 帰らずの森は、マッピングを行うのが非常に難しい。

 魔物の生活区域の移動や、植物の受粉などによって日々森の内容は変わってしまうため、行きと帰りでは同じルートが使えないという程度のことは日常茶飯事らしい。


 話に聞いた時はどれだけ活発なんだよと思ったが、実際に歩いていればそれも頷ける。

 この森の木々の生命力が非常に高いのだろう。

 大して日光が当たっていない樹高の低い木ですら、その葉はみずみずしく綺麗な緑色をしている。


 だがもちろん、冒険者だって迷ってばかりでは仕事にならない。

 有志達の活躍によって、この帰らずの森は既に攻略法が確立されている。


「だからボビンを使うのが大事ってわけだな」


 そう言いながら進む俺の手には、ボビンが握られている。

 糸は入り口付近にあった樹に取り付けてあるので、これで安心だ。


 ちなみに使う糸も、普通の糸ではダメだったりする。

 この森由来の物を使わないとすぐに吸収されてしまうからだ。


 なのでオレンジの街で植物糸を大量に購入している。

 値段はかなり張ったが、幸い懐にはまだ余裕があるため別段問題はない。


 ただ、細かく糸を結ぶのは面倒だ。

 ボビンは小売りになっていたので、糸が途切れる度にいちいち繋ぎ直さなくちゃいけないので手間がかかる。


 ちなみに魔物も普通に出てくるが、一合目二合目と同様そこまで強い魔物は出てこない。

 口から酸を吐くアシッドスネイクや木々の間に蜘蛛の巣を張るフォレストスパイダーなんかがいるが、どれもこれもDランクくらいの魔物ばかりだ。

 ただ、戦えば苦戦はしないんだがとにかく面倒な奴らが多い。


 この帰らずの森の魔物達は、驚くほど自然に森と同化している。

 頭上から魔物が降ってきたり、蜘蛛の巣の粘着罠で動きが鈍るのは当たり前。

 その極めつけは、樹そのものに擬態するトレントの存在だ。


 こいつはもう樹だ。

 どこからどう見てもただの樹。

 動き出して初めて表面に顔らしき模様が浮かび上がるが、それまではマジでただの樹にしか見えない。


 トレントを見分ける手段はないため、冒険者達は細かく樹を斬り付けることで地道に確認していくしかない。

 と思っていたが、ラッキーなことにそんな作業をする必要はなくなった。


「めえっ!」


「ここか……? ただの樹にしか見えないけど……おらっ!」


「ギイイイイヤアアアッッ!!」


 なんとメイが、樹とトレントを一瞬で見分けることができることが判明したのである。

 こいつは魔物に関する嗅覚が異常に鋭く、風景に上手く擬態した魔物も一瞬で看破できる。

 いつ襲われるかわかっているんなら、ここにいる魔物を相手にするのは大してキツくない。

 おかげで想定よりずっと早く攻略することに成功。

 俺たちは四合目である惑いの谷へと辿り着くことに成功したのだった――。




拙作『豚貴族は未来を切り開くようです』第一巻が6/25に発売致しました!


挿絵(By みてみん)


作品の今後にも関わってきますので、書店で見かけた際はぜひ一度手に取って見てください!


また書店ごとに特典ssも複数あり、電子書籍版もございますので、ぜひ気に入ったものをご購入いただければと思います!

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