ミヤダケ
霊峰ミヤダケに出てくる魔物は、そこまで強くはない。
俺達がワイバーン討伐をした山脈地帯なんかよりも、魔物の討伐ランクははるかに下だ。
だがミヤダケの攻略推奨ランクはB。
つまりは魔物以外の部分の難易度がめちゃくちゃ高いってことだ。
「さ、先がまったく見えない……」
「すごい霧ですねぇ……」
「めぇ……」
視界いっぱいに広がる、真っ白な霧。
一歩先の足下すら定かではないほどに濃密な白の中を、おっかなびっくり歩いていく。
霊峰ミヤダケには、天然のトラップがいくつも存在している。
今俺たちを出迎えてくれているのは、そのうちの一つである濃霧だ。
これは一合目と二合目あたりにまで広がっている。
霧が出るというのは、ただ視界が確保できないだけではない。
当然ながらその影響は他の部分にも現れる。
「ブーツを買っておいてよかったな」
足下の地面は、霧と高い湿度のダブルコンボのせいでぬかるんでおり、非常に歩きづらい。 事前に購入した滑り止めつきのブーツがなければ、歩くもしんどかったと思う。
「蹄のみのストロングスタイルのメイちゃんがちょっとかわいそうかもです……」
「めめめっ!?」
ずってーん!
とメイが面白いように転んで体勢を崩す。
もこもこの羊毛が泥にまみれてしまい、悲しそうに鳴くメイ。
羊用のブーツがあれば良かったんだがな……すまんメイ。
オーダーメイドで靴を作れるほどに経済的な余裕のない俺たちの懐を恨んでくれ。
「グギギッ!」
「ガガッ!」
メイをなだめていると、突如として魔物たちが現れる。
どうやらこの霧は音を吸い取るような性質があり、こんな風に本当のギリギリになるまで接敵に気付けない。
当然ながらここは魔物の生息地帯。
一歩先までしか見えない濃霧の中でも魔物は活動しており、こうしていきなり遭遇戦になるのである。
今回の魔物は二匹のゴブリンだった。
魔物がそこまで強くないのが、せめてもの救いだろうか。
ただ歩きづらく先が見えない中に魔物の危険も混ざるのだから、たしかになかなかに気が抜けない。
「シッ!」
「ライトアロー!」
俺の一撃がゴブリンを真っ二つにし、アイルの魔法が脳天を打ち抜く。
一瞬で敵を無力化させた俺たちは、魔石を抜き取ってから再び歩き出す。
「しかし、音が聞こえないのが厄介だな……」
この霧は不思議なことに、音を集音する特性がある。
そのため足音や鳴き声から襲撃を事前に察知することはできない。
視界と聴覚が大きく制限されたこの霧の中を歩き続け抜けなければならない。
ミヤダケを上る冒険者には、突発的な事態が起こった際の対応能力が求められるというわけだ。
こんな状況だから、休むのだって一苦労だ。
襲撃方向の少ない壁際や、霧が入ってこない洞穴を探さなければおちおち休憩もできやしない。
こんな感じでまだまだ一合目なんだから、先が思いやられるぜ……。
というか方向、これで合ってるのかな……。
結局、方向は間違っていた。
同じところをぐるぐると回ること三回。
自分たちの足跡を見つけてげんなりした俺たちは、まだ先は長いからと使うのを渋っていたボビンを使うことで、無事迷うことなく先へ進むことができた。
そこで俺たちを待ち受けていたものとは――。




