仕事じゃない
無事ランクが上がった俺達は、名実共にBランク冒険者パーティーとなった。
この街にいるBランクの数は、片手で数えられるほどしかいない。
つまり俺たちは、ブルドの街の中でも五本の指に入る冒険者になったというわけだ。
そりゃあ、街の有名人にもなるというもの。
ランブルの街でゴブリン退治に勤しんでいた時は、良くも悪くも森とギルドを往復するだけの日々だったから、誰かに話しかけられることもなかった。
だが今は、俺達がブルドを悩ませていたワイバーン退治をしたこともあって、そこら辺を歩いていれば声がかけられる。
実際にこういう立場になってみると、むずがゆいというかなんというか……有名になるのも、いいことばかりじゃないんだなって感じる。
人の目があるから、その辺でしょんべんとかもできないしな。
……いや、もちろん例え話だぞ?
実際にするわけないじゃないか。
まあ何にせよ、ブルドでは良くも悪くも俺らは目立ちすぎてしまった。
おかげで身の丈に不相応なほどの対応をされてしまっている。屋台のおっちゃんとか、商品をサービスでくれたりするしな。
このままでは天狗になってしまいそうだったから、街の外に出るタイミングとしては、はちょうど良かったのだと思う。
俺たちは一路、霊峰ミヤダケへと向かい馬車を乗り継いでいくのだった――。
「こじんまりしてて、いいところだな」
「ですね。私はごみごみしたところより、こういうところの方が好きです」
ブルドからミヤダケに向かうまでには、一つの街を経由する。
オレンジという、ブルドと比べると小さな街だ。
霊峰ミヤダケは、稀少な素材が多く採れるわりに、出てくる魔物の難易度自体はそこまで高くない。
なので実力に不安はあるが金を稼ぎたい冒険者なんかが、一攫千金を狙ってやってくることが多い。
オレンジはそんな風にやってくる冒険者たち相手の商売をして成り立っている街だ。
宿屋やよその人向けの食事処が多く立ち並んでおり、価格設定はなかなかに強気だ。
ミヤダケの焼き印が入った作られた焼き菓子なんかまで売られている(もちろん値段も高めだ)。
なかなかに商魂たくましいな……なんだか観光地にでもやってきた気分になってくる。
「なあ、アイル」
「なんでしょう?」
「めぇ?」
立ち並ぶ露店で品定めをしていて、俺の脳裏に天才的な閃きが浮かんだ。
なぜかアイルを真似て首を傾げているメイの頭を撫でながら、俺はその悪魔的発想を告げる。
「聖御影石……この街で普通に買えるんじゃないか?」
「えぇ……そんな邪道な……」
採取クエストという形でギルドを通して受注したなら、当然ながら実際に行って採ってくる必要がある。ズルしたのがバレたら、ランクが落とされたり、場合によっちゃあ冒険者資格が剥奪されたりするしな。
だが今回の場合は、防具作りに必要な素材を集めるのが目的なだけだ。
あくまでもダゴンさんとの個人的な口約束をしたに過ぎない。
もちろん竜泉花の花粉も用意しなくちゃいけないが、こんだけなんでも揃ってる場所なら、どっちもありそうな気がするんだよな。
俺は気が進まない様子のアイルを引き連れて、オレンジの街にある店を回ることにした。
「聖御影石に竜泉花の花粉……そんな危ないもん、うちには取りそろえてないさね」
「え、竜泉花の花粉ですか……? 失礼ですがうちは、合法的な素材しか取り扱っておりませんので……」
「んなもんないよ、冷やかしなら帰んな!」
結果は散々だった。
どこにいっても、聖御影石も、竜泉花の花粉も売っていない。
だが何軒か回るうちに、その理由がわかってきた。
どうやら聖御影石っていうのは、かなり貴重な素材らしい。
まあたしかに、邪神の神気を取り除けるものが、そうぽんぽんと出てくるわけないよな。
なんでもこいつは浄化や解呪なんかに使えるらしく、発見されれば教会や貴族たちが買い取りにくるらしい。
なので一般にはほとんど流通していない。
そして竜泉花の花粉は、それよりも更にヤバかった。
こいつは火にかざしたりすると粉塵爆発を起こしたりするらしく、また花粉を炙った際に出てくる煙は幻覚作用があるらしい。
その取り扱いは国で厳しく定められており、許可を取っている人間以外が所持していると罰金刑を食らうということだった。
ただ火力が爆上がりしてミスリルみたいな稀少金属も鍛造できるようになるらしく、鍛治師の間では、こいつをちゃんと扱えるかどうかが一流二流の線引きになるんだと。
あのおっさん、とんでもない物を持ってこさせようとしやがって……そりゃあそんなヤバいブツじゃあ、ギルドから卸してもらうわけにもいかないわな。
どっちとも、出回っている物を入手するのは困難極まる。
どうやらやはり、霊峰ミヤダケまで行って採ってくるしか手段はないらしい。
「はぁ……」
「ふふふ、まあそう落ち込まないでください。素材を集めているうちに、魔物を倒して強くなっていくはずですし」
渾身のアイデアがスカってがっくし来ている俺の肩を叩くアイルは、なぜか笑顔だった。
まあたしかに、金の力で解決するってやり方はあんまり冒険者らしくはない。
レベルを上げながら、ついでに稀少な素材を集めていく。こっちの方が俺たちっぽいっちゃぽいよな。
二つとも、どうやらかなりのレア素材みたいだから、腰を据えて探していく必要があるだろうし。
俺はオレンジにある程度滞在する覚悟も決めながら、据える冒険に必要な物資の補充にとりかかるのだった。
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