自分の武器
トールと杖がぶつかり、ギャリギャリという音が聞こえる。
杖の攻撃方法は、剣と比べれば動きが読みやすい。
杖自体がかなり重いため、予備動作が必要になるからだ。
振りかぶって、叩く。
攻撃が飛んでくる方向こそ違うものの、オークキングの攻撃はその一種類しかない。
単純で……それ故に、強力だ。
「ぶひいいいいいっっ!」
オークキングは杖の下の部分を持つと、そのまま力任せに叩きつけてくる。
避けるか、迎撃か。
判断のために許された時間は一瞬。
瞬きよりも速い刹那の間に、俺は迎撃を選んだ。
お互いの攻撃が、激突した。
周囲に衝撃波が散り、洞穴自体が揺れ、パラパラと土が落ちてくる。
(ちっ、やっぱり攻撃力は同じくらいか……)
相手の攻撃のモーションと、それに伴う体重移動。そこらから計算すると、俺とオークキングの腕力は大体同じくらいだ。
押し合いをしても、どちらかが押し負けるようなことにはならない。
向こうの方が体躯がデカく、武器に重量があるため、一撃の威力自体はあちらの方が出る。 けれどその分こちらの方が動きが身軽だし、トールによる補助という強みもある。
「シッ!」
持ち手を浅くし、オークキングでは対応できない速度で斬り付ける。
トールの帯電による素早さ強化があるおかげで、相手の攻撃を避けながら攻撃を入れることはできる。
だが……。
(やっぱ浅いか……攻撃が内側まで届いていない)
斬り付けても、中までダメージが通らない。
表面の皮を裂くことはできても、その先に筋肉に辿り着く前に脂肪の層に邪魔されてしまい、攻撃が奥まで届かないのだ。
どうやら防御力に関しても、あちらに分がある。
こちらは、一撃を食らうわけにも行かない状態だ。
振った後に生じる余波で風が吹き付けてくるような攻撃を、食らうわけにはいかない。
「だとしたらとにかく……速度で翻弄するしかないよなっ!」
オークキングの周囲をグルグルと回転し始める。
残像が見え出し、土煙が足下あたりまで充満し始める。
「おらっ!」
そのまま攻撃を加えていく。
軽く斬り付けてから、そのまま駆け抜けて周囲を旋回。
突いを放っても更に奥まで突き込もうとはせず、すぐに引く。
威力は高くなくていい。
ただ相手が反応できないような速度を重視する。
一方的にこちら側の攻撃が続ける。あちらに手番は渡さない。
大剣の持ち手を浅くすれば、斬り付ける攻撃は簡単になる。
その分力は乗らないが、それでいいのだ。
「ぶひいいいいっっ!」
相手はこちらよりはるかに能力の高い魔物。けれどその知能は、所詮人間には遠く及ばない。
フェイントを織り交ぜ、中にカウンターを入れていく。
虚実であれば、分があるのはこちらの方。
オークキングが俺の動きに面白いように釣られ、杖を力任せに横に振る。
その大振りの直後にできた空白に、攻撃を差し込む。
杖の下の間隙を縫うように放った一撃は、今度はさっきまでより深く相手の肉を抉った。
「ぶぅうううううう!!」
攻撃を食らって更に苛立ちのボルテージが上がっていく。
オークキングの攻撃は精彩を欠くようになり、俺の攻撃を完全に度外視して、無理やり攻撃を当てようとしてきはじめた。
もうそうなったらこちらのものだ。
俺はゆであがったタコのように激情しているオークキングを冷静に観察し、きっちりと攻撃をヒットさせていく。
隙の多い大振りの攻撃を無理に繋ごうとすれば、それが祟って歪みが生まれる。
その歪みに攻撃をねじ込んでやれば、そこから更に歪みを広げることは容易だ。
「ぶぅっ! ぶうおおおおおっ!!」
次々と生まれていく刀傷。
傷の上に新たな傷が生まれるようになり、とうとう攻撃が筋肉にまで届きだした。
俺のことを脅威と認識し出したのか、オークキングの動きが変わり出す。
オークキングは俺を真似たのか、杖の持ち方を変えて戦い方に工夫を凝らしてくるようになった。
浅い牽制用の攻撃と、狙いの本命の攻撃をしっかりと分けて対応してくるようになってきている。
なかなかに学習能力が高いな。
……最初から戦闘経験を積んできていたやつだったら、やばかったのかもしれないけどさ。 後ろにふんぞり返って、全てを舐めて、部下に任せる王様で助かった。
これで――トドメだっ!
トールの袈裟斬りが、オークキングの背を切り裂いた。
血が弾けるように飛んでいき、そして……。
「ぶ……ぶぅ……」
オークキングは地面に倒れ……そのまま起き上がることはなかった。
こうして俺のBランク昇級試験は、無事合格という形で終えることができたのだった――。
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