最奥
洞穴の中に入っていく。
中はアリの巣を巨大化させたようになっていた。
丸い居住区画と、各区画を繋いでいる細長い通路。
その繰り返しで、気を抜いたらすぐに道に迷ってしまいそうだ。
外から見た感じじゃ全然気付かなかったけど、思ってたよりずっと中は広いみたいだ。
「ぶひいいいっっ!?」
そしてその小さな部屋の一つ一つに、オークたちの姿がある。
侵入者に気付いたらしく、既にオークたちはグループで行動し始めていた。
だが別に、やることは変わらない。
とりあえず目についたオークを鏖殺していく。
「――よし、これで終わりっと」
「めえっ!」
イーブさんが観察しているため、前を進むのは俺とメイだ。
時折道を間違えたりしながらも、目印を彫って同じところへ進まないよう気を付けながら、先へと進んでいく。
「少しずつ、広くなっていってる気がしますね」
「恐らく下に行けば行くほど、オークソルジャーやオークリーダーのような、より強力なオーク種の魔物が住んでいるんだと思う」
「なるほ……どっ!」
トールでオークを叩き潰しながら答える。
「シッ!」
イーブさんも時折戦闘に参加することがあるが、それは一瞬で終わる。
今も俺が二匹のオークを倒している間に、六匹のオークが腹を裂かれてやられている。
「その斧も、魔剣なんですか?」
「人に得物のことを聞くのは、あまり行儀が良くない」
死体から魔石をほじりながらも話す。
いくらオークの巣穴を潰すのが目的とは言え、もらうものはもらっておかなければいけない。
試験監督であるイーブさんも、自分が倒した分の魔石はしっかりと回収していた。
これくらい図太く強かでなくちゃ、冒険者というのはやっていけない。
「魔斧ヘルグレイブ。効果は血を吸わせた分だけ持ち主の火力と速度を上げる、ちなみに上限はないけど、十分間血を吸わせないと上昇値がリセットされる」
「滅茶苦茶強くないですか!?」
「代償型だから」
初めて聞く単語なので首を傾げていると、討伐証明部位をショルダーバッグに入れながらイーブさんが教えてくれる。
どうやら魔力の込められた武器というのには、いくつかのタイプがある。
そのうち効果を発動させるためになんらかの工程が必要なものを、代償型というらしい。
剣を振れば振るだけ俺の速度に補正をかける雷剣トールも、この代償型に分類されるらしい。
代償型はただ使うだけで発動するものよりも効果が高いことが多いのだとか。
「どうして教えてくれたんですか?」
「一応、共闘する相手だからね。でもスキルは教えない」
優しいのか優しくないのか判断に迷うが、とりあえず礼を言っておく。
だがそんなものは不要なようで、イーブさんは洞穴の先を見つめている。
「ここから先が本番……油断せずに行く」
「おっす!」
俺とイーブさんの武器は、どちらも全力を出すために溜めが必要になってくる。
そんな俺たちにとって、群れを成して襲ってくるオークたちは非常に相性がいい。
まずは近付いてくる、手下のオークたちを潰しながらギアを上げていき、本命のオークリーダーといった、より上位のオーク種の魔物と戦う時には全力を出せるようにしておく。
あらかじめ用意を整えて挑めば、Cランク相当のオークリーダーであっても問題なく倒すことができる。
「めえっ!」
オークリーダーが振り下ろした大剣の一撃を、メイが角で受ける。
そしてその隙に後ろから飛び出した俺が、思い切りトールを叩きつける。
「ぶひいいっっ!」
相手は攻撃を食らいながらも、なんとか体勢を立て直してこちら目掛けて剣を振ってくる。 けれど既にその場に俺はおらず、一撃を受けるのは再びメイだ。
そしてメイが戦っているうちにオークリーダーの横や斜め後ろといった、意識を向けにくい位置へと移動し、隙を見て攻撃を続ける。
この戦法をとれば、そこまでダメージを受けることなく、安定して戦うことができる。
「ぶ……ひ……」
ずずぅんと音を立てて、オークリーダーが倒れ込む。
お見事というイーブさんの声を聞きながら、素材を回収する。
「多分次の大部屋が、オークキングのいる場所。チェンバーはオークキングの討伐に集中して。私はそれ以外を担当するから」
ごくりと唾を飲み込んだ俺は、気付けばトールの握りを確かめていた。
土で汚れた様子のメイの頭をそっと撫で、頷く。
よし……行こうか。
イーブさんの推測は見事に当たっており。
次の部屋にやってくると、そこにはオークリーダーより更に体格の大きなオークがいた。
あれが……オークキングか。
「ぶうううううっっ!!」
周囲にいるのは、両手では数えきれないほどのオーク系の魔物たち。
オークメイジにオークソルジャー、オークプリーストにオークリーダー。
なるほど、相手にとって不足はない。
俺は気合いを入れて、オークたちへと吶喊していく――。




