人間
役立たずの人間をパーティーから出すのは、間違ってはいない。
ただ別れるにしても、やり方っていうものがあるよな。
追放とかするんじゃなくてさ、もっと円満にさよならする方法があると思うんだよ。
俺は自分が円満とは言いがたい方法で追放されたからこそ、そんな風に考えるようになっていた。
手をかけていたドアを再度引き直し、振り返る。
そこに居たのは、四人組のパーティーだった。
数は男が二で、女も二。
その構成が『暁』と同じせいか、なぜだかずきんと胸が痛んだ。
「もう限界よ! あんたのスキル、弱すぎるから!」
「俺のスキルも別にそこまで強くはないが……ちょっとさすがに、な……」
「もっといい場所があるでしょ、じゃあね」
「え、あ、ちょっと待っ――」
ただ俺の時とは違い、追放されようとしているのは女性だった。
男二人と女一人は、そのまま彼女の方を振り向くことなく歩き出す。
残された女の子はほんの少し手を伸ばし……中空でその手を止めた。
まるで、自分が足手まといになるとわかって、ねだるのを踏みとどまったように見えた。
そんな姿まで、どこかの誰かさんと重なる。
三人組は、ドアに手をかけたままの俺の方へと歩いてくる。
彼らの顔を見て、あの少女の、俺と違う点を見つけてしまう。
追放されたあの女の子には……俺にとってのジェインのような、仲の良かった奴がいないのかもしれない。
三人とも、彼女を追放したことになんの抵抗もないよう様子なのだ。
むしろせいせいしたと、清々しげな顔をしているように見える。
「あの子を、追放するのか?」
「ん? ……ああ、そうだよ。いくらなんでもあんな外れスキルじゃあ、一緒に冒険もできない」
「『神託』スキルって聞いた時は大当たりだと思ったんだけどねぇ……」
「クソどうでもいい情報しかよこさないんだよ、あいつのスキルは」
あの女の子の場合も、俺と同じで外れスキル持ちだったってことか。
有用そうなスキルを授かったから一緒に組んだが……使えないとわかったら即ポイってわけか。
救いのない、悲しい話だ。
笑えねぇな、まったく面白くもない。
「もしよければ、あんたが面倒見てあげたら? ほらあの子、実力はないけど顔はかわいいし」
「……」
追放された女の子は、泣きそうな顔をしていた。
けれど怒ったり、必死になって追いすがろうとはしていなかった。
こちらの話し声は、果たして聞こえているだろうか。
聞こえてないといいな、と思った。
俺が横にズレると、三人がギルドを後にする。
後にはぽつんと残された女の子と俺、そしてまばらにいる冒険者達が残るのみ。
誰も彼女と話をしようとはしていなかった。
冒険者としては正しい判断だ。
使えないとわかっている冒険者と組んでも、自分の死期を早めるだけだからな。
けど俺は、チェンバーという人間は、冒険者である前に……一人の人間だった。
自分と似た境遇に落とされた人を見て、そのまま見て見ぬ振りを決め込むような真似はできない。
しかも実は有用だった俺とは違って、彼女のスキルは既に使えないことが判明しているらしいし……今後のことを考えると、色々とつらかったりもするだろう。
(……ま、まあもしかしたらその『神託』スキルとかいうやつが実は特定の状況下でものすごい効果を発揮するようなものかもしれないし? もしかしたら途中で覚醒したりする可能性だって、ゼロじゃないし?)
俺は見捨てる理由ではなく、話しかける理由を必死に見つけ……彼女の方へと歩き出した。
そして中空に浮いたままだった手をそっと掴んで、なるべく相手の心を傷つけないように気を付けて口を開く。
「俺も君と同じで、追放された口なんだ。もしよければ、話聞くよ」
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