Bランク昇格試験
次の日。
俺はBランク昇格試験を受けるため、ギルドへやって来ていた。
特に待たされるようなこともなく、スムーズに案内される。
冒険者は結果が全て。こんな風にすんなりと通れるのは自分の頑張りなのだと思うと、少しだけ勇気が湧いてくる。
「というわけで私が試験官のイーブ。今から討伐依頼をこなしに行く」
「了解しました」
試験官のイーブさんは、紫色の髪をした小柄な女の子だ。
言葉は舌っ足らずで、態度はぶっきらぼう。
でもそんな風にかわいらしい見た目とは裏腹に、彼女は立派なBランク冒険者だ。
背中には自分の身長とそれほど変わらないくらいの大きさの斧を背負っている。
両刃で、かなりの業物なのか凄みのようなものが武器に宿っていた。
トールと同じ魔剣なのかもしれない。
いや、魔斧って言った方がいいのかな?
そんなことを考えながらギルドを出て、外につないでいたメイを引き連れて歩き出す。
お代はギルドが持ってくれる馬車に乗り、ブルドの街を出て行く。
何を討伐するのか聞いてみたが、イーブさんは答えてはくれなかった。
事前情報なしでBランクの魔物を倒せるかというのが今回の試験になるようだ。
(ふっふっふ……けどそこら辺は抜かりないぜ)
ブルドの街から日帰りで行ける地点にいる強力な魔物というのはある程度数が決まっている。
事前にあらかた情報は調べていたので、候補は大体三つに絞れていた。
エンヴィーレイス、アンガーバッファロー、ジェネシススライム。
ソロでBランクの昇格試験をするとしたら、討伐するのは、この三体のうちのどれかになると思われる。
「チェンバーはテイマーなの?」
「はい、そうですが……何か問題がありましたか?」
「めえっ?」
『自分羊だけど、何か問題ある?』という感じで首を傾げるメイ。
改めて申告はしていないが、俺はメイを従えるテイマーということになっている。
下手に勘付かれないよう、俺もスキルもテイマー系統のものだということを匂わせるようにしていた。
「テイマーなのに前衛って、珍しいよね」
「スキルがわかるまではずっと前衛張ってたので、そのまま気付いたら……って感じですね」
「なるほど、よくある話」
自分には剣の才能があると思って剣技を磨いていたら得られたスキルが『火魔法』だったなんて話はザラにある。
ちなみにそういう場合、そいつには三つの選択肢がある。
無理して剣士を続けるか、それともあっさり未練を断ち切って魔法使いに転身するか、どちらも取ろうと魔法剣士になるかだ。
俺は前衛もテイマーもやってる三つ目の選択肢の範疇に入ることになる。
ちなみに冒険者ギルドとしては二つ目の、スキルを伸ばす方へ転身することを強く進めている。
基本的にスキルのある人間とない人間ののびしろが違いすぎるからだ。
「めぇ……」
「触っても平気?」
「メイは人なつっこいんで、羊毛を引っ張ったりしなければ大丈夫ですよ」
イーブさんはメイに触れ、もこもこを堪能し始めた。
メイは触られて気持ちよかったのか、うとうとし始める。
こののどかな触れ合い風景を見ていると、今から魔物討伐に行くことを忘れそうになる。
俺は今の装備を確認する。
『そんなぼろっちい装備じゃまともに活動もできねぇだろ、装備ができるまではこいつを仕えや』
そう言ってダゴンさんが渡してくれたのは、ファイアリザードという魔物の皮を鞣して作った革鎧だ。
元々はビビッドな赤色のはずなんだけど、革鎧の色味は落ち着いたオレンジ色をしている。
竜泉花の花粉を取ってきてくれるならという条件付きで、なんとタダで貸してもらえた。
装備更新の間の間に合わせの防具に金をかけるのはちょっと嫌だったので、お言葉に甘えさせてもらっている。
ガタゴトと揺れる馬車に乗られながら窓の外を眺め、向かう場所を予想する。
けれど外に見える景色は、俺が想像していたどれとも違っていた。
「……え?」
頭に疑問符を浮かべながら、馬車に乗られることしばし。
イーブさんに言い渡された試験の内容とは――。
「実は森の奥の方に、オークキングが集落を作り始めている。これを私と一緒に殲滅することが、今回の昇格試験」




