英気を養う
「えへへ……ブイッ!」
帰ってきて早々、こちらにピースサインを向けてくるアイル。
どうやら結果は上々だったらしい。
そして適当に駄弁っていると、すぐに試験結果が張り出された。
文句なしの合格、これでアイルも俺と同じCランク冒険者だ。
「まあ、俺がすぐにまた一つ上に行くんだけどな」
「ズルいですよチェンバーさん! 私もBランクにしてください!」
「それができたら苦労しないんだよなぁ……」
合格祝いも兼ねて酒場に向かう。
原種ワイバーンは討伐したし、他の魔物たちからも魔石はたっぷり稼げたので、懐には随分と余裕がある。
いつもより高い店――それこそ女の子が喜びそうなオシャレだけど高い店だ――を予約し、久しぶりにコースを食べることにした。
ドレスコードがあるので一度着替え、物欲しそうにしているメイに干し肉をやってから店に向かう。
よくわからない素材のキッシュをもっきゅもっきゅと食べてから、次の料理が出てくるのを待つ。
ウェルカムドリンクとして出てきたスパークリングワインを飲んだ俺は思った。
ワインに炭酸を入れる必要は、別にないなと。
「というわけで、次は俺の番だな。まあさっきはああ言ったけど、俺が受かればBランクパーティーの依頼は受けられるわけだから、応援しといてくれ」
俺が受かれば個人のランクがBになれば、Bランクまでの依頼が受けられるようになる。 そこでパーティー全体でBランクの依頼をこなせるようになれば、俺たちのパーティーがBランクとして認められるようになるという仕組みだ。
ただランクの仕組みは、ぶっちゃけギルドマスターや貴族のさじ加減で決まるので、ギルドマスターの権限でなんとかなるCランクくらいまでは、結構いい加減だったりする。
同じランクでも強さは随分と開きがあるし、たとえばランクは高いがそれが未発見のダンジョンを発見したからなんてパターンもあるしな。
ランクは純粋な強さだけでは決まらないのだ。
なんでこんな仕組みなのかは……俺も知らん。偉い人に聞いてくれ。
「あ、そうだ。そう言えば今日武器屋に行ってきたんだけどさ」
アイルが酒を飲んでへべれけになる前に、話をしておくことにした。
二人の装備を新調するためには、素材を集めるために霊峰ミヤダケに向かわなくちゃいかん。
そして霊御影石を手に入れ、竜泉花の花粉を渡してダゴンさんの機嫌を取らねばならないのだ。
「遠いですね……」
「ランブルからブルドの街くらいの距離だな。途中村を何個か挟むかもしれない」
「でもせっかく苦労して倒したワイバーンの素材をそのまま売っちゃうのもあれですし……いいですよ、行きましょう!」
メインであるムール貝のパスタを食べながら、アイルが許可してくれた。
普通ならもっとごねたりするだろうが、ちょっと奮発しておしゃんな店を予約したのが効いたらしい。
というわけでアイルの同意が取れたので、問題なく遠出ができるぞ。
明日は俺のランクアップ試験だから、申し訳ないがアイルに買い出しは頼むことにした。
ちなみにメイは俺の従魔扱いなので、Bランク昇格試験に連れていくことができる。
二人とも前に出るタイプなのでちょっとバランスが悪いが……まあなんとかなるだろ!
「きゅうぅ……」
俺は何杯をワインをおかわりして完全に酔っ払いと化したアイルを介抱してから眠りに就き、明日の試験に備えることにするのだった――。




