アイルの戦い 2
「それじゃあ皆さん、準備はいいですか?」
「ああ」
「ええ」
「おうともよ」
トニー、ビリー、ミリアの三人と共に、アイルは馬車を降りていた。
彼らの視界の先には、むしゃむしゃと獲物を頬張っている一匹のアースリザードがいる。
まだこちらに気付いた様子はない。
トニーとビリーは前衛に飛び出し、ミリアとアイルは後ろに下がる。
その様子を、試験官であるエルナはジッと見つめている。
まったく変わらない様子を見て、果たしてこれでいいんだろうかとアイルは少しだけ不安になる。
(ダメダメ、今はしっかりと意識を切り替えなくちゃ!)
アイルの事前の話に従い、今回試験生たちは協力してアースリザード討伐にあたることになった。
前衛2、魔法使い1、ヒーラー1という、冒険者パーティーとしてはかなりオーソドックスな構成だ。
「エンチャントライト、エンチャントライト……はいっ、これで数分は持ってくれるはずです」
「おお、エンチャントまで使えるのか……嬢ちゃん、ヒーラーとしてはかなり優秀だな」
「わしらがアースリザードを倒せなくても、お嬢ちゃんだけ受かっちゃいそうじゃね」
「……そうでしょうか?」
使えないと言われ続けてきたせいで、こんな風に言われることには慣れていない。
まあ適当にお世辞を言っただけだと思い、適当に愛想笑いを浮かべておくことにした。
ステータス
アイル レベル18
HP 86/86
MP 105/105
攻撃 25
防御 48
素早さ 41
魔法
レッサーヒール
ヒール
マジックバリア
ライトアロー
ライトジャベリン
エンチャントライト
ハイヒール
ライトウィップ
気付けばアイルも、かなりレベルが上がっている。
ここ最近があまりに怒濤のように過ぎていたので、彼女からすればずいぶんとあっという間だった。
チェンバーのように前に突っ込んでいく、自分の命を省みないスタイルの相棒を持っているせいで彼女が抱える苦労は多い。
チェンバーは放っておけば、自分の目の届かないところで魔物とガチンコでバトルをし始める。
成長しているのは見た目だけで、心はどこまでも子供のままであるチェンバーについていくには、自分も一緒に戦うしかなかったのだ。
そのせいで、というかそのおかげで戦闘経験はかなり積めたし、彼の『レベルアップ』によって色々と強くなり、新たな魔法もいくつも覚えられた。
色々と感覚が麻痺してきている気もするが、自分も強くなっている……はずだ。
「ギャアアオッ!」
覚悟を決めていると、アースリザードがこちらの存在に気付く。
――戦闘、開始だ。
「ほっほっほっ、まずはわしから行くぞい」
最初に接敵したのは、双剣使いであるトニーである。大剣を扱うビリーより動きが速い。
彼が剣でアースリザードの足下を斬り付ける。
「ギャアアッッ!?」
アースリザードは痛みに耐えながら、ドスンッと足を地面に下ろす。
すると土がぐにゃりと変形し、地面から土の槍が生えてくる。
「ほっと」
トニーは攻撃をひらりと交わす。
再度接近しようとすると、土から棘が生えてくる。
「くっ、これじゃ近付けんわい」
「おおおおおっっ!」
ビリーは少し大回りをし、棘の範囲から外れたところから攻めていく。
彼の横薙ぎに対し、アースリザードは魔法で迎撃しようとするが――。
「フレイムアロー!」
「ライトジャベリン!」
「ギャオッ!?」
ミリアとアイルの魔法が、アースリザードに突き立つ。
集中を邪魔されたアースリザードは痛みに呻き声を上げることしかできない。
そしてそこに、ビリーの一撃がヒットする。
アースリザードが大きく吹っ飛んだ。
着地した地点は棘の範囲外。
トニーは再び接近し、足を執拗に痛めつけていく。
アースリザードが土の魔法を使って距離を取れば、アイルとミリアがより精度の高い魔法で削り。
そして隙を見てはビリーとトニーが斬撃を加えていく。
あっという間にアースリザードはズタズタにされ、動かなくなった。
「ふぅ……ずいぶんと簡単だったな」
「……ちょっとアイル、あんたのライトジャベリン、威力どうなってんのよ?」
「どうなってるって……どういう意味ですか?」
何を言われているかわからず思わず首を傾げるアイル。
見たところ、フレイムアローとそれほど威力は変わらないように見えるが……。
「なんでヒーラーのあんたが、本職の魔法使いの私と同じ威力の攻撃が出せるのよ!? おかしいでしょ、常識的に考えて!」
「あ、あはは……」
「っていうか近付いてよく見たら――あんたの魔法の方が深く突き刺さってるじゃない! ちょっと、話聞かせなさいよ!」
試験の魔物に苦労せず圧勝できた四人は、勢いそのままにアースリザードを四匹倒した。
魔物討伐の試験の方は、無事に終わった。
そして戦っているうちに仲も深まり、大分打ち解けることもできるようになっている。
四人の戦闘の様子を見ていた試験官のエルナは、手に持っているボードにかきかきと何かを書き付けている。
「よし、それじゃあ次は盗賊討伐だ。近くの林に盗賊の根城があると推定されている。こいつを見つけ、倒すまでを試験内容とさせてもらう」




