アイルの戦い 1
チェンバーがダゴンの下へ武器を作りにもらっている間も、アイルは馬車に乗られ続けていた。
彼女はCランクへの昇格試験を行うために現場に向かっている真っ最中である。
(一人でいるのは……ずいぶんと久しぶりな気がしますね)
アイルの隣にはいつもチェンバーがいてくれた。
最近ではペットのメイも増えたおかげで、毎日は一層賑やかになっている。
なので誰とも話さずジッとしているだけで、妙に寂しさを感じるのだろう。
アイルはすることもないので、周囲の様子をキョロキョロと見つめた。
馬車の中には、自分と同じく試験を受けに来た者たちがいる。
冒険者は実力主義。
中にいる人間たちは、自分と同じぐらいの者女の子から明らかに年を取っているおじいちゃんまで、実に様々だった。
ちなみに数は、自分を入れて四人である。
そして馬車の右奥には、先輩冒険者が座っている。
赤い髪をしたキツそうな顔つきをした彼女はエルナ――今回の試験の監督を行うBランク冒険者である。
エルナは馬車に乗り込む前に、試験を受ける者たちにこう告げていた。
『試験は既に始まっている。以後お前たちの行動は全て加点、減点の対象になると思え』
Dランクに昇格するまでは、基本的にただ討伐をこなしてきた魔物の量が一定数に達したら、本当に倒せるかどうかの試験をするだけだった。
ヒーラーとして回復魔法が使えるアイルは直接的な戦闘をすることもなく、仲間の補助に徹するだけで合格ができたのだ。
けれど今回はそうはいかない。
チェンバーは既にCランクなので試験に同行はできない。
そのためアイルはこの昇格試験を、自分一人で行わなくてはいけないのだ。
アイルは先ほどの試験官の言葉の意味を考えることにした。
下手なことをしないのは当たり前だが、自分はヒーラー。
ヒーラーである以上、皆に助けてもらいながら皆を助けなくてはならない。
積極的に行動するべきだと思い、周囲の人間達と挨拶を交わす。
今回の試験内容はアースリザードという土魔法を使う魔物の討伐と盗賊の討伐だ。
Cランクの魔物が倒せるか否か、そして人を手にかけることができるか否かを問われる試験である。
「私はアイルと言います」
「私はミリアよ」
「トニーじゃ」
「俺の名前はビリー、ひょんなことからCランク昇級試験を受けることになっちまったどこにでもいる普通の冒険者だ!」
トンガリハットを被った女の子のミリアは魔法使い、双剣を持つおじいちゃんのトニーは軽剣士。
そして長々と自己紹介をしたビリーが、大剣を使う重剣士だ。一体何がどうなったら、ひょんなことから昇級試験を受けることになるんだろうか。
「とりあえず皆で力を合わせて魔物を討伐しましょう」
「……そうじゃな」
こくりと頷くトニー。
ミリアとビリーの方は、言っている意味がよくわかっていないようだった。
アイルは後ろから試験官のエルナの視線を強く感じながら、二人に説明をすることにした。
「まず今回の試験は、それぞれがアースリザードを倒すというだけの試験ではありません」
「え、そうなのか?」
「私も初耳だけど」
「……今回の試験にはヒーラーのアイルちゃんが入っとる。その意味を考えればわかるはずじゃ」
トニーの呆れたような声に、アイルは頷く。
今回の試験は、冒険者としての総合力を試されている。
先ほどのエルナの言葉を聞けば、ただ戦闘の結果を見られているだけではないというのは明らかだ。
事前に伝えられている対魔物の戦闘試験の内容は、アースリザードを一人一匹狩ること。
もちろん個人の武勇を示すために一人で倒してもいいのだが、恐らくそれでは落ちるような気がしていた。
そもそもアイルは未だギルドからは、ただのヒーラーだと考えられているはずだ。
直接的な戦闘能力のない(と思われている)アイルにアースリザードを倒せというのはずいぶん酷な話。
つまりこの試験というのは――。
「即席のパーティーでCランクの魔物を協力して倒せるか……そんなコミュニケーション能力と適応力を試してるんだと思うんです」




