目的地
実はもう一匹装備を作ってほしいやつがいると聞くと、そいつも連れてこいと言われる。
今は俺とメイが、ダゴンさんの視線に耐える時間だ。
「ふむふむ……こいつは珍しいな。雷の魔剣か」
「ダゴンさんから見ても、やっぱりそんなに珍しいのか」
「ああ。魔剣を作れる奴――魔刃打ちになれるやつは、鍛冶師の中でもほんの一握りだからな」
ちなみにダゴンさんも一応、魔剣を作れるらしい。
ただ彼の満足いく水準で作るためにはとてつもなく高価な素材が必要らしく。
そうやって魔剣を作るくらいなら、そのままダンジョンにでも潜った方がいいということで基本的に仕事は引き受けていないらしい。
「そんで原種ワイバーンの素材か……」
「原種、ワイバーン……?」
「ああ、どちらかと言えばドラゴンに近いワイバーンのことだな。それにこいつぁ……ふむ」
ダゴンさんはごそごそと鞄を弄ったかと思うと、中から真っ白な杭を取り出した。
「傷つけてもいいか?」
「ああ」
ガインッ!
杭と鱗がぶつかり合うにしては妙な音がなる。
見てみると杭は、ぶつかる寸前で鱗が出している黒いオーラのようなものに阻まれていた。
「こいつぁ邪神の神気がついてやがるな……」
「神気?」
「ああ、お前さんが『天授の儀』でネア様からの加護をもらったのと同様、こいつも邪神の加護を受けてる。そのせいでこのままじゃあ、まともな素材としては使えそうにねぇな。このまま鎧を作れば、間違いなく呪いがついちまうだろう」
「え……マジ?」
「マジもマジ、大マジよ。こっちの爪もおんなじだ。ほらよく見てみな。邪悪なオーラみたいなもんがうっすらと立ち上ってるのが見えるだろ?」
「めぇ……」
加工してメイに装備させようとしていたワイバーンの爪を、メイがじいっと見つめている。
折角今までで一番いい素材が手に入ったのに、このまま完全に死蔵かよ……。
どうしよう、俺達の装備更新計画が完全に白紙になってしまった。
一応キマイラ素材も持ってきてるから、そっちでなんとかできないだろうか……なんて考えていると、ダゴンさんがコンコンッと鱗を指で叩いた。
「――けどまあ、やりようがないわけじゃねぇ」
「え、そうなのか?」
「ああ。要はこの邪神の悪しきオーラを消せる素材を使って、鎧が纏っている神気そのものを消しちまえばいい。ネア様の神気を纏っているアイテムさえ持ってきてくれりゃあ、鎧は作れるぜ」
「お、おお……?」
ネア様の神気を纏っているアイテム……?
そんなの聞いたことがないけど……。
「例えばこの辺だと……霊峰ミヤダケの山頂で採れる聖御影石なんかがそうだな。神気をの籠もった御影石が採れるから、あそこの山頂には神々が訪れだなんて言われて、名所スポットの一つにもなってるぜ」
「霊峰ミヤダケか……結構遠いな」
ここから多分、馬車で半月とかかかる。
けど背に腹は代えられない、か……。
それにブルドの街の目の上のたんこぶだったワイバーンを倒したせいで、最近何かと話しかけられる機会が多く。
ぶっちゃけ今のブルドの街では、常に誰かに見られているような気がして、非常に暮らしづらいのだ。
少し時間を空ければこの騒ぎも落ち着くだろうし……それにワイバーンを倒して、特に次にすることもなかった。
むしろこれは、渡りに船かもしれないぞ。
「よしっ、それなら行ってくるよ」
「おうっ、まあ原種ワイバーンを倒せるなら問題はねぇだろうが、一応気を付けろよ。あとついでに、あそこで採れる竜泉花の花粉も採ってきてくれ。あれがあると火力が上がって、鋼が作りやすいんだよな」
……もしかして、それが本命だったりする?
じとーっとした視線を向けると、ダゴンさんはぷいっと顔を逸らされる。
「――聖御影石が一番いい素材なのは、嘘じゃないぞ」
どうやらただのお使い目的、というわけでもなさそうだ。
素材のことはダゴンの方が専門家だろうし、とりあえず彼の言う通りにやってみよう。
アイルが帰ってきたら、彼女も連れて行ってみるか。
こうして俺の次の目的地が決定するのだった。




