帰っていい?
というわけでギルドを出た俺は、メイを引き連れてブルドの街を歩いていく。
一応事前に下調べをして目星はつけているので、足取りはよどみない。
「おうメイ、売り物にならない野菜食べてくかいっ?」
「めえっ!」
野菜の芯や見てくれが悪くて売り物にならない物を片っ端から平らげていくメイ。
正直皆が餌付けをしてくれてるのは家計的には結構助かっていたりする。
こいつ結構食べるから、餌代がバカにならないからな……。
餌代を浮かせるためには、メイが餌付けされてペースダウンするのも我慢しなくてはいけない。
でも今回のワイバーン討伐の報酬で、こんな生活とはさっさとおさらばできるようになるといいんだけどな。
ちなみに俺が今回武器防具屋を選ぶ基準にしたポイントは二つ。
一つは当然ながら、きっちりと仕事をしてくれるということ。
そしてもう一つは、素材をちょろまかしたりせずに真摯に仕事をこなしてくれるってところだ。
今回俺が持ち込むのは、あまり前例のない黒いワイバーンの素材だ。
実際の強度なんかはわからないけど、稀少価値は結構高いようだ。
ギルドの受付さんも買い取る流れに持っていきたがってたしな。
当然ながら俺は鱗で鎧を作ってもらいたい。
けどいわゆる鱗で作った鎧――いわゆるスケイルメイルってやつだ――には大量の鱗を使う。
鎧を削って使ったり曲げたりと色んな加工をするって話だけど、ぶっちゃけ俺は鎧作りなんか素人だからさ。ば鎧作成で手を抜いて適当に鱗を懐に入れられてもまず気付けない。
こちらの無知やバカさ加減につけ込んで稼ぎを増やすのが商売人ってやつだし、ちょっとくらいは大目に見るが。
それでもできることならそういうことをあんまりしない、まともな職人に作ってもらいたいわけだよ。
というわけで俺がやってきたのが、この街で唯一ドワーフであるダゴンさんが経営しているという武器防具屋『ダゴンの店』なわけだが……。
「これは……言われなくちゃ絶対店だってわからんわ……」
そこはどこからどう見ても、普通の一軒家だった。
煙突から黒い煙がもくもくと出ているから、人がいるのは間違いないんだろうけど……。
店の前に看板すら置いていない時点で、もう商売っ気がどうこうとかそういう次元の話じゃないぞ。
ダゴンさんは偏屈ジジイとして有名な人で、自分で認めた人間にしか自作の武具を渡さないらしい。
腕だけは一級品でダゴンさんの武具を求めてやってくる冒険者や貴族の人間なんかまでいるらしいが、彼はどれだけ金を積まれても、断固として自分の態度を変えないらしい。
……いいよな、そういう頑固な人ってさ。
多分ダゴンさんにとって、人からどう見られるかとか、世間的に成功してるかなんてものは本当に興味のないものなんだろう。
ただ武具を作ることが好きで、それだけを突き詰めている人なんだろうな。
そういう昔気質の職人は嫌いじゃない。
俺だって、似たようなもんだしさ。
男ってさ、いつまで経ってもガキのまんまなんだよ。
俺は最強の冒険者になるっていう、五歳児の子供でも思いつくような夢を未だに追いかける、大人になれない大人だ。
だからなるべくなら、ここで鎧を作ってもらえたらって思う
「とりあえず怒らせないように、ここに置いてくからな。ちょっと待ってろよ」
「めぇ~」
俺はメイを家の脇のスペースで待機させてから、中へ入ることにした。
さて、昔ながらの職人のダゴンさんはっと……。
「うっひょおおおおおおっっ!! こ、この裸婦像はすごいぞおおおおおおおおおおっっ!!」
中に入るとそこには、鼻の下をだらしなく伸ばしながら鼻血を出しているおっさんがいた。
そして彼の手には、こちらを振り向いている金髪のねーちゃん(裸)の絵が握られている。
……俺もう、帰っていい?
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