邪神教団
「『邪神教団』、ですか……?」
「ああ、簡単に言えば国から邪教認定されている、邪神を信奉する信者達が作った団体ね」
「また邪神ですか……」
ブルドの街のギルドマスターは、女性だった。
唯一会ったことがあるランブルのギルマスが大柄のおっさんだったから、なんだか新鮮な感じだ。
彼女――名前はエレーナさんというらしい――の言葉に敏感に反応してしまう俺。
ここ最近、邪神って言葉に妙に敏感になってしまっている。
あのゴブリン然り、ワイバーンと謎の男然り、俺が戦ってきた強敵って何かと邪神と関係してるっぽいんだよな……。
『芽を出したばかりの雛を、潰されること自体は惜しくはないが……』
ふと唐突に、あの男の言葉が脳裏をよぎった。
エレーナさんに話してみると、それならまず間違いないわねと太鼓判を押してくれる。
こんなに嬉しくない太鼓判を押されるのは、生まれて初めてかもしれない。
『邪神教団』の詳しい活動内容は不明、団員数や根城の場所、首領の正体も不明。
……要は何一つわかってないってことだな。
破壊活動や暗殺騒ぎなんかを起こされた後になって、目撃情報から教団の関与が判明するっていうパターンがほとんどらしい。
ただ何もわかっていない教団ではあるが、どうやら最終的な目標だけは判明しているらしい。
その目標とは――邪神の復活。
かつて世界を混沌に陥れて、めちゃくちゃにしたらしい邪神。
そんなものを復活させようっていうんだから、まあ間違いなく碌な団体じゃないだろう。
……俺もただ顔を合わせただけで、殺されかけたわけだしな。
「団員の中でも強力ないわゆる幹部と呼ばれている奴らは、皆邪神の加護をその身に宿しているわ。かなり強いから、冒険者も返り討ちに遭うことが多くて……。一応邪教認定はされてるから倒しても罪には問われないんだけど、個人の力で倒すのはほとんど不可能って言うのが実状ね」
邪神の加護を持つ人間――考えただけでゾッとする。
要はあのゴブリンやワイバーン達みたいな奴らが、平気な顔をして人間社会に交じってるってことだろ?
刺青はそこまで珍しいものでもないからなかなか見分けもつきづらいだろうし。
だがどうやら色々とパワーアップをする分、スキルの力は持っていないらしい。
邪神の加護を持ってるから、スキルを与えてくれる女神のネア様の加護はないって理屈みたいだ。
にしても『邪神教団』か……。
できれば関わりたくはないけど……凶悪な魔物騒ぎや事件を起こすことも多いらしいから、俺たちが強くなろうと強敵と戦っていく上で、まず間違いなくぶつかることになるよな。
「でもよくやられずに済んだわね」
「……なんとか見逃してもらえたって感じですね、力量差がありすぎて何もできませんでした」
「そういえば、その男の顔は覚えてる?」
「ええ、まあ……至近距離から覗いたんで」
「ほ……ホントッ!? ちょっと待ってて、今職員呼んでくるからっ!」
どうやら『邪神教団』の人間を、人相書きを描けるほどに見れた人間というのは今までは一人もいなかったらしい。
ものすごい勢いで飛び出していったエレーナさんが連れてきた絵心のあるギルド職員に俺の説明を頼りに絵を描いてもらう。
ギルド内で教団員の人相書きが出回るのは初めてらしく、エレーナさんがすごい興奮している。
もっと鼻を高くとか、刺青の模様はこうだとか指摘をしては修正ということを繰り返すことしばし。
ようやく人相書きが完成した。
「これでまた一つ『邪神教団』の手がかりが掴めたわ! ワイバーン討伐と併せて、領主様から直々の言葉をいただいたりするかもしれないわよ!」
「……ありがたくちょうだい致します」
正直全然ありがたくはないが、そう言っておくのが処世術ってものだ。
「にしても、これでまた一つ教団撲滅のための手がかりが揃ったわね。最近拠点の内の一つを潰してくれた冒険者がいたみたいだから、上の方はほくほくだと思うわ」
なぜかふと、俺の頭に浮かぶのはジェインの姿だった。
あいつたしか、ここ最近魔物が活発になってる原因を探すとか言ってたよな。
「……もしかしてそれって、ジェインってやつだったりしませんか?」
「あら、耳が速いのね」
うっそだろう……マジか。
その『邪神教団』の拠点のうちの一つを潰したのは本当にジェインなのかよ。




