手がかり
「おいおい、なんだよあれ……」
ズリズリと大量の肉と素材を引きずりながら、ブルドの街へと帰ってくる。
レベルアップを繰り返して聴覚が上がっているからか、こちらを見てひそひそと話している門番達の声まではっきりと聞き取れる。
ふふんどうだ、すごいだろう。
……って、いかんいかん。
調子に乗っちゃいかんと自分を戒めたばっかりじゃないか。
「冒険者か……一応ギルドカードを確認させてもらうぞ」
「ああ」
門番のおっちゃんが俺のギルドカードを確認し、そのままアイルのものも確認。
そして最後にメイの頭を撫でた。
俺がこの街で顔を覚えられるほどの活躍をしたわけじゃないが、門番は俺達のことを知っている様子だったが……メイのファンだったか。
メイを飼っている飼い主として覚えられてるのは、なんかちょっと複雑だ。
「なぁ、見たことない鱗だけどよ。もしかしたら素材って……?」
「ああ、ワイバーンから剥ぎ取った鱗だよ。なぜだか色が黒いけど」
「おお、マジか! Cランクなのにすげぇな!」
隣のフランクなおっちゃんは囃し立てている。
声がデカいので、後ろにいるやつにも聞こえていたようで、ざわめきが大きくなるのがわかる。
この街を行き来する商人達にとってワイバーンによる人攫いや商品の強奪は悩みの種だったようで、商人達は指笛を吹いたり、今日は宴会だとなんだか楽しそうだ。
俺もご相伴にあずからせてくれないだろうか。
「とりあえずまずはギルドに報告に行こう。依頼は受けられてなかったけど……これを見れば話は聞いてもらえるだろうからな」
「ですね、それが終わったら装備も整えたいです。チェンバーさんの鎧、完全に壊れちゃいましたし……」
「だな、さっさと報告を済ませに行こう」
「めえっ!」
そう言えば、とりあえず剥ぎ取れる鱗は全部持ってきたから、多分一人前のスケイルメイルくらいなら造れるよな。
ワイバーン装備で全身揃える……考えただけで、なんだかわくわくしてくるぜ!
俺達はズリズリと引っ張りながら、肉屋にワイバーン肉を卸した。
一応肉はギルドでも買い取ってもらえるけど、こういうのは専門家に任せた方がいいからな。
今回はここ最近ブルドを悩ませてきたワイバーンの肉という事情も乗っかって、かなり色がつくという話だった。
細かい値段交渉をする時間が惜しかったので、代金は売り上げの二割という形で手を打つことにした。
多分だけど、門で俺達に指笛を吹いていた陽気な商人達は、どれだけ高くてもこの肉を買うだろう。
今まで俺達を散々苦しめてきたこいつを血肉にして食らってやろう、的な感じで。
ブルドの街の人達にワイバーン肉を売れば買い手も鬱憤発散できて、肉屋もウハウハ、歩合でもらえる金が増える俺らもウハウハという、誰も損のない取引になってくれるだろう。
あの肉屋のおじさんには、是非とも高値で肉を捌いてもらいたいところだ。
俺らはアングリーシープの討伐からメイの育成、そのままワイバーンを倒しにとあまり街でゆっくりする機会はなかった。
だがどうやらブルドの住人にとってあのワイバーンはかなり色々と思うところのある魔物だったらしい。
未だ抱えきれず引きずっていると、誇張抜きで三歩歩けば声をかけられた。
「ありがとよ、あんたらのおかげでようやくブルドの街が元に戻る!」
「あのワイバーンに卸す果物全部パァにされた時は腸が煮えくり返ったから、スカッとしたぜ。……ほらよメイ、リンゴ食べな」
「メイの飼い主さん、ありがとーっ!」
メイへの反応が多い気がしなくもないが、そこは気にしたら負けというやつだ。
ランブルの街ほどじゃないにせよ、これで俺の名前もある程度認知されたような気がする。
別に名前を知られたくて戦ってるわけじゃないが、知られといて損はないしな。
俺達が皆に細かく対応してペースがゆっくりだったからだろう。
ギルドに着いた時には、既にワイバーンを討伐したという情報の方が回ってきていた。
俺達を見た冒険者達の反応は様々。
「おお、こいつらがワイバーンを……」
「見ない顔だな……余所から遠征で来たのか?」
「Cランクか……けっ、どうせマグレだろ」
失礼なことを言っているやつも多かったが、冒険者なんざ常識の欠落した頭のおかしなやつらの集まりなので別になんとも思わない。
俺達は早速ワイバーン討伐の報告を行い、ワイバーンの素材をドカドカとカウンターの上に並べていった。
どうやらワイバーンは、右側の奥歯の上下ワンセットが討伐証明になるらしい。
ここで火花を散らして、火炎袋の気体を着火させるからということだった。
それ以外の素材の売却は一旦待ってもらい、とりあえず査定に出す。
その間に話はトントン拍子に進み、俺達はギルドマスターと直に会うことになる。
そして……。
「謎の男、か……もしかしたらそいつは『邪神教団』の幹部かもしれないわね」
俺達が対峙したあの男の正体の手がかりを掴むのだった――。




