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 肉を持てるだけ持っていこう、そしてあわよくば干し肉も保存しよう。

 俺達は可能な限り肉を持っていき、そして余った肉はとりあえず日差しのあるところに置いておくという強欲な選択肢を取ることにした。

 幸いレベルアップも進んだから、この山を再度上る時にかかる手間は行きよりもずっと楽になるだろうしな。


「め、めぇ……」


「そう嘆くな、俺だって重いんだから……」


 当たり前だが、普通に考えれば運べる量などたかがしれている。

 俺とアイルの持つ鞄とリュックは、ワイバーンの金になりそうな部位を入れるだけでパンパンになってしまっている。


 なので重量のある肉に関しては、俺とメイで分けて可能な限り持ち帰ることにした。

 メイは身体にロープをくくりつけ、俺はロープを両手で持って肩に引っかける形で、ズリズリとワイバーン肉を引っ張っている。


「でもこうやって見ると、やっぱりチェンバーさんも既に人間やめてますよね……」


「魔物のメイより力持ちだからな」


「めえっ!」


 自分も負けないと元気いっぱいなメイが引っ張っているのは、大きなブロック肉。

 そして俺が引きずっているのは、そのブロック肉をいくつもまとめて、グルグル巻きにした肉の塊だ。馬鹿でかいチャーシューのように見えなくもない。


 たしかに前の、必死になって鉄のメイスを振ってた時と比べると何もかも全然違う。

 レベルアップを続けたおかげで力がついてる実感はあるんだが……今度同業者と力比べでもしてみようかな。


「しっかし、臭いがひどいな……」


「そりゃあ軽く血抜きしただけの肉を大量に運んでればそうもなりますって、ちなみに私はもう慣れました」


 ワイバーン肉は、血の臭いと獣臭の交じった、鼻が曲がるようなひどい臭いを周囲に撒き散らしている。


 おかげでさっきから血の臭いに敏感な魔物達に何度も襲われている状態だ。

 正直、肉を捨てて今すぐ街に戻りたいという気もしてきた。


 けどそこまで金に余裕があるわけではないので、金になるものは残さず持ち帰らなければならないのだ。

 げに世知辛い、冒険者稼業よ……。




 それは何度目かの魔物の襲撃を斥け、そろそろ山の麓が見えてくるという時のことだった。

 登山時も下山時も人っ子一人いなかった山に、人影が現れたのだ。


 ローブを着ており、全身を隠している。

 フードを目深に被っているので、男か女かもわからなかった。


 他にパーティーメンバーらしき人もおらず、一人のようだった。

 俺達とは逆で、山を登ろうとしているようだ。

 腕に自信のある冒険者、とかなんだろうか。


 なんだか妙な人だけど……一応挨拶くらいはしておいた方がいいかな?


「……」


 そんなことを考えているうちに、そのローブの人はがこちらの方へ上ってくるようだ。

 音もなく歩いていたその人物は俺達に気付いたのか、首を動かしてこちらを見上げた。


 陽光を浴びてチラリと顔が見えたその瞬間――ぞわりと、背筋に寒気が走った。


 顔の半分をびっしりと覆うように彫り込まれている刺青。

 それを見たときの感覚に、俺はひどく覚えがあった。


 ワイバーンの時のような漠然とした感覚じゃない、確信と言ってもいい。

 あいつは間違いなく……邪神の加護を受けている。


 ギロリと、男が俺を睨む。

 それだけで、全身を針で貫かれたようだった。

 とてつもない悪意、今まで感じたことのないような剥き出しの邪悪な心。


 何もされていないのに、呼吸が荒くなる。

 気付けば俺の身体は、小刻みに震えていた。


「芽を出したばかりの雛を、潰されること自体は惜しくはないが……」


 一瞬のうちに、男が移動する。

 瞬間移動をしたんじゃないかと思えるほどの早業だった。

 動作の起こりが、まったく捉えられない。


「その力、果たして如何ほどのものか……見せてもらおうか」


 フッと、男の姿が消える。

 防御姿勢に入るだとか、迎撃をするだとか……そんな次元の話じゃない。


 圧倒的な差を前に、身体が硬直してまともに動かないのだ。

 俺にできるのはトールを構えることだけだった。


「チェンバーさんっ!」


「ふむ……この程度か」


 胸に、見知らぬ男の貫手が突き刺さっている。

 口からごぽりと溢れてくるナニカ。

 思わず吐き出すと、それは血の塊だった。


 全身から力が抜けていく。


 圧倒的な力量差。

 勝ち目なんか微塵もない。

 一撃を食らっただけで、それがわかってしまった。


 ……おいおい、聞いてねぇぜ神様。

 なんでワイバーンを狩った後に、こんなとんでもない奴が出てくるんだよ……。



 ドサリと倒れる。

 口と胸からドクドクと血が流れ出していた。


 身体から、熱が失われていく。

 寒い……。

 俺、死ぬのかな……。


「芽を潰せたのはのはまぐれか……これしきの力では、利用することもできまい」


「チェンバーさん! チェンバーさんっ!!」


 アイルが近寄ってくる。

 ハイヒールを使ってくれているのがわかった。


 けれどそれでも、命は流れだしていく。

 もらった一撃が、致命傷だったんだろう。

 アイルの必死の看護虚しく、身体からはどんどんと力が抜けていく。


「力無き者は、無様に地べたを這いつくばるのみ。弱者はただ、強者を見上げることしかできない……」


 それだけ言うと、男はくるりと振り返り去っていく。

 ぼやける視界には、男の背中と泣きじゃくりながら俺にヒールをかけるアイル、そして俺に必死に身体を擦りつけるメイの姿が映っていた。


 どうやらアイルとメイには手は出さなかったみたいだ。

 少しだけ……ホッとしたよ。


 でも、なんだか眠いな。

 ちょっと、だけ、眠らせ、て……。









『レベルアップ! チェンバーのHP、MPが全回復した! チェンバーのレベルが21に上がった!』

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