後
戦闘が終わったことを示すかのように、ファンファーレの音が鳴る。
どうやらあの黒いワイバーンは相当な経験値を持っていたらしい。
ほとんどあいつ一体だけでレベルが上がった。
『レベルアップ! チェンバーのHP、MPが全回復した! チェンバーのレベルが18に上がった! レベルアップ! アイルのHP、MPが全回復した! アイルのレベルが18に上がった! レベルアップ! メイのHP、MPが全回復した! メイのレベルが14に上がった!』
ステータス
チェンバー レベル18
HP 141/141
MP 5/5
攻撃 82
防御 76
素早さ 44
魔法
ライト
レッサーヒール
ステータス
アイル レベル18
HP 86/86
MP 105/105
攻撃 25
防御 48
素早さ 41
魔法
レッサーヒール
ヒール
マジックバリア
ライトアロー
ライトジャベリン
エンチャントライト
ハイヒール
ライトウィップ
ステータス
メイ【アングリーシープ(ユニーク個体)】
レベル14
HP 189/189
MP 0/0
攻撃 33
防御 61
素早さ 18
魔法
なし
魔物スキル
物理ダメージ軽減(特大)
おお、激戦を乗り越えたからか、皆のステータスの伸び幅がすごいな。
一番多いのだと、一気に8も上がってるのがあるぞ。
HPを回復してくれたのも、正直ありがたい。
俺達皆、HPもMPも危険水域だったからな。
そういえばHP回復って言ってるけど、レベルアップの時って傷も全部治るよな。
そもそもHP自体は、攻撃を受ける時に変わりで受けるバリアみたいなもののはずなのに。
この微妙な差異の理由って、あったりするんだろうか。
「めえ~」
疲れたよぉ、という感じでメイが近寄ってくる。
そして泥だらけになったもこもこの身体を俺に擦りつけてきた。
たしかに……疲れたな。
難しい話を考えるのは、もっと余裕がある時でいいか。
「まずはこの山を、なんとかして下山しなくちゃな」
「え、ワイバーンの素材はどうするんですか?」
「……完全に忘れてた」
戦いが終わったせいで、どうも集中の糸が切れたらしい。
俺はあんまり回らない頭をなんとかして動かして、とりあえずワイバーンの死体へ近付く。
かなりの巨体だ、当たり前だが全部は持って行けない。
今ではそこらへんの力持ちよりパワーのあるアイルとメイ、そして俺が気合いを入れれば自分達で消費する分くらいは運べるはずだ。
それにこんだけのワイバーンを倒したんだ。この山に暮らす他の魔物達に食われてもつまらないじゃないか。
「ワイバーン素材を使えば、今よりずっとましな防具ができるはず。とりあえず使える部分は全部剥いで、そこから肉を持ってける分だけ持ってく感じにするか」
俺たちは疲れの取れぬ身体に鞭を打ち、ワイバーンを解体するのだった。
俺はわりと大雑把だから、皮を剥いだら肉まで一緒に削いでしまう。
なので俺がざっくり剥いでから、それをアイルが綺麗にしていく感じで解体は進んでいった。
でもこのワイバーン、どうしてこんなに全身が真っ黒なんだろうか。
何か呪いにでもかかったり……なんてな。そんなわけないか。
必死に使えそうな部分を剥ぎまくっていると、なんとか終わった。
空を見ると既に太陽が沈み始めていた。
というわけで一旦休憩を取って、明日下山することに決めた。
幸いこのワイバーンがかなり威張り散らかしてくれていたおかげで、山頂付近にはまったく魔物が出てこない。
なので少々の危険は覚悟で、俺たちはバーベキューをすることにした。
饗される用意は、もちろん大量にあるワイバーン肉だ。
「そもそもワイバーンの肉って美味いのかな?」
「前に精肉屋で見た時めちゃくちゃ高かったですよ。多分ですけど、美味しいんじゃないでしょうか」
高ければ美味しいに違いないとキラキラと目を輝かせる。
その単純な思考回路に敬意を表し、優しい笑顔で彼女の頭を撫でた。
そして何か言いたげな彼女をよそに、薪を集めて火をつけ、肉を焼き始める。
「めぇ~」
解体の最中、特にすることもなくめぇめぇ言いながらひなたぼっこをしていたメイ。
ご飯はちゃっかりといただこうとするあたり、こいつも随分強かになってきたと感じる。
多分……というか間違いなく、良い変化だろう。前はほとんど自己主張のできないやつだったしな。
「だが食べるのは俺が最初だぁっ!」
そして俺は物欲しそうにしているメイの目の前で、香ばしい匂いを発している肉を思い切り頬張ってやる。メイは泣きそうな顔をしていた。
まったく……。
――物欲しそうな顔をしているやつの前で食う肉は旨ぇなぁ!
「めええええええええっっ!」
けどこのワイバーンの肉……マズくはないけど、究極や至高って感じではないな。
なんだろう、高級な鶏肉って言い方が正しいんだろうか。
岩塩しか持ってないけど、このバカみたいにデカい肉に岩塩を振って食べるこのワイルドな感じが野性味溢れていていい。
ここが山っていうのも、雰囲気作りに一役買ってくれている。
「どうどう、冗談だって。メイもいっぱい食べな」
ずっと意地悪をしていると流石にかわいそうになってきたので、メイにも肉を食べさせる。
アイルももぐもぐとリスみたいに頬を膨らませながら食べていた。
「美味しい……」
「めえめえっ!」
どうやらアイルもメイも満足なようだ。
自分達で倒した肉を食べているっていうのもあるからか、俺も非常に満たされていた。
ただこれ、確実に食べきれないな。
俺に燻製の知識とかないし……とりあえず運べるだけ運んでいくか。
そんなに暑い気候じゃなのが幸いだ。多分ブルドの街へ戻るくらいまでなら、腐らずに持って行けるだろう。
楽観的に考えていた俺達だったが――。
「チェンバーさんっ!」
「ふむ……この程度か」
胸に、見知らぬ男の貫手が突き刺さっている。
口からごぽりと溢れてくるナニカ。
思わず吐き出すと、それは血の塊だった。
全身から力が抜けていく。
圧倒的な力量差。
勝ち目なんか微塵もない。
一撃を食らっただけで、それがわかってしまった。
……おいおい、聞いてねぇぜ神様。
なんでワイバーンを狩った後に、こんなとんでもない奴が出てくるんだよ……。
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