総力
ワイバーンから飛翔という選択肢が消えた。
けれどそれはワイバーンの強みのうちの一つが消えたに過ぎない。
「ギャアアアオッ!」
接近しようとする俺を牽制するように、尾がしなりながらこちらへ飛んでくる。
ワイバーンの尾の毒はなかなかに強力で、解毒するまでに時間がかかる。
解毒魔法が使えない現状、俺達がこの毒攻撃を食らえば常に回復魔法を使わなくちゃいけなくなる。
だから絶対に、食らうわけにはいかない。
トールと尾を打ち合わせる。
先端が針のように鋭く尖っているワイバーンの尾は、攻撃力はそこまで高くない。
俺の打撃は尾を弾き飛ばし、それに引っ張られる形でワイバーンの重心が少しだけ右にズレた。
「めええええっっ!」
そこに角にエンチャントライトを施したメイが突っ込むことで、更に体勢が崩れた。
ワイバーンは転ばぬよう体勢を保ちながらメイにも攻撃を加えるべく、翼と一体化した腕を振った。
風を切って放たれるその一撃を、メイはモロに食らう。
「めえええっ!?」
そしてボヨンボヨンとバウンドしながら、ものすごい勢いで後ろに吹っ飛んでいった。
けれどメイへ一撃を入れにいったことで、俺への意識がおろそかになっている。
その隙をついて一撃。
無事に命中し、ワイバーンの小指の爪に振り下ろしを当てることに成功した。
「ギャアウッ!?」
「ハハッ! たとえワイバーンだろうと、ここは痛いだろっ!」
そのまま呻きを上げるワイバーンの足目掛けて二撃、再度振りかぶってから今度は更に挙げて腿に一撃、最後に今度は足の甲を叩いてから離脱。
流石に感じたことがないほどの痛みだったからか、ワイバーンはもんどり打って倒れた。
再度接近し振り下ろし、振り上げる。
かち上げ、横に叩き、すり潰すように回転を加え、隙あらばスタンを狙うべく頭部へ打撃を叩き込む。
基本的にタッパは相手の方がデカい。
だから俺が攻撃できるのは基本的には下半身だけ。
相手がこちらに攻撃してきた場合、そこにカウンターを合わせる。
足への集中攻撃で相手が体勢を崩せたら、衝撃が徹れば強い頭部やそもそも攻撃に弱い目なんかを狙う。
これを基本的な戦法にして、徹底的に繰り返す。
アイルからの援護は回復魔法とエンチャントライトがメインになり、光の攻撃魔法は飛んでこなくなった。
彼女がターゲティングされ、俺とメイが二対一で支援ありきで戦えている現状は崩したくない。
ナイス判断だぜ、アイル。
攻撃を捌いたり、時にトールを放り投げてでも跳んで逃げたりしながら、接近戦を繰り返していく。
するとワイバーンの攻撃にはいくつかのパターンがあることに気付いた。
ワイバーンは近距離に相手がいる時には、火炎放射を吐き出さない。
そして俺やメイが退避したり攻撃を食らったりして下がった時に、決まったタイミングで火炎放射を放つ。
距離が遠ざかった場合、そのまま直進しながら距離を積めてくる。
突進の際は顔を下げるので、そこを狙ってかちあげることがでいる。
中距離ならまずは尾による攻撃がくる。
攻撃の種類は大きく分けて三つ。
左右からの攻撃なら上体を屈めて避ける。
上からの攻撃ならハンマーを当てて相手にダメージだ。
尾の攻撃が終わると、そのままぐるりと回転しながら腕による攻撃をしてくることが多い。
その攻撃はかなり大振り。
ワイバーンの身体はかなりデカいため、攻撃の範囲外となるスペースに逃げ込むこともそう難しくない。
距離が更に詰まれば噛みつこうと口を大きく開く。
それが出れば儲けものだ。
食らえばひとたまりもないが、ひらりと躱すことさえできればあとは無防備な顎に一撃をぶちこんでやればいい。
攻撃をパターン化できたら、あとはそれに対して自分の意識と身体の動きを合わせていけばいい。
相手の攻撃のうち、まともに食らったらやばいものは何がなんでもよける。
そして多少被弾してもいいものであれば、攻撃を食らうのを覚悟して更に前に出る。
よりダメージ効率のいいやり方を探しながら、後ろから魔法を飛ばすアイルのMPもざっくりと計算する。
俺とメイのHPも見ながら、なるべく長い時間戦闘が継続できるよう、スタイルも変えていく。
アイルのMPを使いすぎないよう、途中からは無理をせずにとにかくこちらがダメージを食らわないように気を付けて、回避に意識を傾けるように変えた。
そして更に戦闘を継続することしばし。
ワイバーンの噛みつき攻撃を避けた俺が、顎下の脆い部分の骨をたたき割ったところで、勝機が生まれた。
「うおおおおおおおおおっっ!!」
「めえええええええええっっ!!」
スタン状態になり完全に身動きが取れなくなったワイバーンの頭に何度も打撃を重ね、メイは開いているワイバーンの目に自分の角を突き込む。
ワイバーンにも余裕がなくなり、至近距離でも火を噴いてくる。
ここが命の張り時と、俺たちはもがきながら火を噴き出し続けてくるワイバーンを相手に更に前へ出た。
そしてアイルがMP切れになろうが、俺たちのHPが底を突こうが構わないという、文字通り捨て身の全力だ。
時間が経つのはあっという間だった。
何かを間違えれば即座に胃袋の中に収められてしまう極限の状況下だというのに、不思議と気持ちは落ち着いていた。
何度振り下ろしたか、何度トールの雷を使い脱力したかもわからない。
ただ打つ。何度でも打つ。
腕が動く限り剣を振り、足が動く限り攻撃を避ける。
既に満身創痍の状態で、それでも勝ちたいというただそれだけのために戦い続ける。
そして――。
「ギャ、オォォォォ……」
黒色のワイバーンは力ない声を出しながら地面に倒れ伏し……二度と起き上がることはなかった。
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