ハイヒール
右翼への一撃は、翼を構成する骨のうちの一つをバキリと折った。
乾いた音が響くと同時に、翼の骨格の一部があらぬ方へと曲がる。
痛みに呻くワイバーンの鳴き声が聞こえてくるが、俺は空中で自分の姿勢を維持するので精一杯なのでその様子は見えない。
「ギャアアアアアッッ!!」
トールを重しに使って身体を安定させると、
攻撃を食らったワイバーンは、即座に上に飛んで距離を取ろうとした。
既に自由落下に入っている俺に、追撃の術は……いや、待てよ。
この一撃で雷がMAXまで溜まってる。
――それならッ!
「トールキンッ!」
「ライトジャベリンッ!」
トールから放たれた紫電が、空間を駆けるようにジグザグに飛んでいく。
ワイバーンの右翼は傷ついてこそいるものの、未だ健在。飛行能力を奪うにはあの一撃ではまだ足りていなかったようだ。
稲妻がワイバーンの傷ついた右の翼を貫く。
ジジッという音と共に、肉の匂いが鼻をくすぐった。
見ればワイバーンの翼膜が焼けていた。そして焼け焦げた翼には、小さくない穴が空いていた。
どうやらとうとう耐えきれずに、翼の方が音を上げたらしい。
俺の上で飛ぼうとしていたワイバーンが、ぐらりと体勢を崩す。
その首元に、先ほどアイルが放ったライトジャベリンが突き立った。
先ほどよりもか弱くなった鳴き声を上げ、ワイバーンは俺の上から覆い被さるように落ちてくる。
そしてすぐ上にいて、じたばたともがくワイバーンの圧をひしひしと感じながらも……なんとか着地。
「――ぐっ!?」
ただワイバーンに攻撃を当てるために無理に高く飛びすぎた。
バキリと嫌な音が聞こえてくる。どうやら無理な着地で足の骨をやられたらしい。
けれどこのままこの場所に居れば、ワイバーンのボディプレスを食らいそのままお陀仏だ。
歯を食いしばりながら、再度大きくジャンプ。
落下するワイバーンからなんとか距離を取る。
「ハイヒール!」
俺の不調を読み取ったアイルが即座にハイヒールを使い傷を癒やす。
回復魔法により、とりあえず痛みは消えた。
雷の使用で感じていた疲労感も一気に楽になった。
すごいな、ハイヒール。
靴を脱いで足の様子を見ている時間がもったいない。
痛みを感じないから平気だろうと自分に言い聞かせ、再度ワイバーンに接近していく。
ワイバーンは地面に倒れ伏し、もがきながら立ち上がろうとしていた。
今の状態はかなり無防備、一撃を確実に入れられる。
「めええええっっ!」
俺と同じ考えに至ったからか、メイも向こう側からゴロゴロと転がりながらワイバーンを目指していた。
メイが狙うのは、先ほどアイルが一撃を入れた喉元。
火傷が残り鱗が剥げている部分を狙うつもりのようだ。
それなら俺は、しっかりと右翼を狙う。
翼の骨を折りに行くか、空いた穴が塞がらないように拡げるか。
悩んだ結果、骨を折っておくことにした。
重量武器である大剣は、穴をこじ開けるより今あるものを壊す方が向いてるからな。
立ち上がろうとするワイバーンの翼のうち、上下にある骨の橋渡しをしている部分の骨を狙い一撃を放つ。
攻撃は無事に命中。
立ち上がることに意識を割いていたワイバーンは再度体勢を崩す。
もう一撃いけるかと思ったが、鞭のようにしなる尻尾が飛んできたので慌てて回避する。
再度接近しようかと思った時には、既にワイバーンは起き上がり、こちらを睨みながら大きく息を吸い込んでいた。
そして火炎放射が飛んでくる。
なんとかして避けようと思い切り左斜め前に飛んだ……火炎放射の範囲が広すぎる。
扇状に拡がる攻撃の全てを避けることは難しかった。
熱い、と思い顔をしかめる。
けれどその熱と痛みは、長くは続かなかった。
「メエエッッ!!」
身体を張って俺の前に出てきたメイが、攻撃を肩代わりしながらも俺のことを運んでくれたからだ。
火炎放射の範囲から逃れ、再度ワイバーンを見る。
どうやらワイバーンは、一度火炎放射を放つと首を振って攻撃範囲を変更することはできないらしい。
「メイ……助かったぜ」
「めえっ!」
俺が全快に程遠いことを理解したメイが、単体でワイバーンへと接近していく。
飛行能力を失ったらしいワイバーンは、空へ飛んで避難することなく、メイの突進に対して突進で答えた。
「ライトヒール!」
「チェンバーさんっ!」
俺がなけなしのMPを使い回復魔法を使うと、それに重ねがけする形でアイルからハイヒールが飛んでくる。
痛みは今度は消えなかった。
けれどまだ足は動く。
それなら、ここで止まる道理はない。
「行くぞアイルッ! 翼を折ったここからが……本番だッ!」
「――はいっ!」
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