エンチャントライト
「この感覚は……」
この背筋がぞわっとするような感覚には、覚えがある。
以前戦った……あの黒いゴブリンと同じだ。
ということは、アイツはもしかして……邪神の加護持ちか?
なんにせよ、あまり考えている時間はない。
とにかく全力で――突っ込むだけだっ!
俺はゴロゴロと転がりながら前へと進むメイの後ろで、微調整をすることにした。
周囲から魔物の気配が消え異常を感じた時点で、既にトールキンによる帯電は始めている。
既に身体には雷が帯電している状態だ。
「くっ……!?」
後方からは、アイルの苦悶の声が聞こえてくる。
強力な魔物の中には、咆哮に魔力を乗せて相手を恐慌状態にしてしまうものがいると聞いたことがある。
恐らく先ほどのあれは、そういった類の状態異常攻撃だったのだろう。
アイルが立て直すことができるよう、ワイバーンの注意はしっかりとこちらに引き付けておかなくちゃいけない。
「めえええっっ!」
今回はメイも最初から全力だ。
角度はついていない平坦な地面なので、ゴロゴロと転がる速度は距離に比例して上がっていく。
メイは果敢に前へと進み、ワイバーンへと激突した。
「ゴアアアアアッッ!」
ワイバーンの腹部あたりに攻撃はヒット、メイの角がワイバーンを軽く引っ掻き、その鱗に傷を与えた。
攻撃力不足ではあるようだが、内側にしっかりと衝撃は通ったらしい。
ワイバーンは雷を纏い明らかに目立っている俺だけではなく、すぐ近くにいるメイへと視線を移す。
どうやらメイにも、しっかりと脅威を覚えたようだ。
ワイバーンが息を大きく吸う。
嫌な予感がした俺は、即座に横へ跳んだ。
すると頬に熱を感じる。
見れば先ほどまで俺がいたところに、炎の筋が通っていた。
俺とメイを一網打尽にできるよう放たれた、火炎放射だ。
ワイバーンにはドラゴンのように強力な魔法を使えるだけの高い知能はない。
だがワイバーンは胸のあたりに火炎袋という器官を持っており、そこから取り出した可燃性の気体を使うことで火炎放射を放つことができる。
この飛び道具が厄介だ。
空を飛んでこの火炎放射を連発されると、倒すのは難しい。
なのでできることなら早い段階で翼に傷をつけて、飛翔能力を削いでおきたいところだ。
横に跳んだ俺は、勢いを潰すことなくそのまま前に進む。
見れば逆方向からはメイが転がり攻撃をしていた。
トールキンを振り更に速度を上げながら、ワイバーンへと接近していく。
「ギャアアアアアオ!」
ワイバーンはメイではなく俺を敵と見定めたようだ。
その判断は正しかったぞ……ついさっきまでならな。
「エンチャントライト!」
後ろから飛んでくる支援魔法。
メイの角が白く輝きながら、吸い込まれるようにワイバーンへと向かっていく。
俺に完全に注意を向けていたワイバーンは、メイの攻撃は受け止めるつもりだったようだ。
けれどアイルの魔法が足され攻撃力が増したメイの一撃であれば……。
「アギャッ!?」
視界外からの一撃を食らえば思わず反応をしてしまうだけのダメージが通る。
しっかりと狙いを定めていたメイの一撃はワイバーンの足へと当たる。
つま先あたりに飛んできたメイの角を受けたワイバーンが、苦悶の声を上げる。
そこに生まれる意識の空白。
そんな絶好の好機を逃す理由はない。
「でりゃああああっっ!!」
俺は思い切り、上へと跳び上がった。
ワイバーンは突如消えた俺の姿を見失ったようで、怪訝そうな顔をする。
「エンチャントライト!」
再度飛ぶ支援魔法。
今度は俺のトールキンが、自身の持つ紫電とは違う白く神々しい輝きに包まれる。
そして武器にバフをかけた状態で、俺は鎚を両手で持ち上げる。
落下による加速に、振り下ろしによる加速。
全力で振りかぶって放った一撃を……俺は無事、右翼へと叩き込むことに成功した。
「アンギャアアアアアッッ!?」
【しんこからのお願い】
この小説を読んで
「面白い!」
「続きが気になる!」
「応援してるよ!」
と少しでも思ったら、↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!
あなたの応援が、しんこの更新の原動力になります!
よろしくお願いします!




