キマイラ
キマイラは基本的には獅子の見た目と黒い蛇のような尾を持つ魔物である。
けれどこの魔物には、ある特殊な能力がある。
こいつは捕食した魔物の力の一部を手に入れることができるのだ。
恐らくは『捕食』か何かのスキルを持っているのだろう。
キマイラという魔物は、個体差がかなり大きくなる傾向がある。
今回俺達が相手をするキマイラは、獅子の頭のすぐ隣に同じくらいの大きさの獅子の頭を持つ、二頭の魔物へと進化を遂げていた。
二つの頭は非常によく似ている。
どうやらあいつは、同胞のキマイラを捕食したようだ。
「めえええっっ!」
戦っていく中で、俺たちのパーティーの一番効率のいい布陣は徐々に定まりつつあった。
速度が一番出るのは俺なんだが、俺が前に出すぎるのはよくない。
一番防御力が高いメイではなく俺に攻撃が集中しては、ダメージを与える頻度が下がってしまうのだ。
なので俺は何も言わず後ろに下がり、メイが先陣を切っていく。
「めえっ!」
メイは素早さ自体はそこまで高くない。
けどメイには、その羊毛の弾力性と丸っこいフォルムを活かした転がりがある。
坂道でなくとも、前に重心を預けて転がっていけば、素早さの低さがさほど気にならないほどの速度が出るのだ。
ゴロゴロと転がると視界がグルグルと回るため、方向が定まりづらいという欠点はあるが……。
「右だ、メイッ!」
後ろをついていく俺が方向を指定してやれば、その欠点も問題にはならない。
メイが止まってしまえば俺が追突してしまう形になるので、お互いの信頼も重要になってくる。
「グラアアアアッッ!」
「ギィヤアアアアアッ!」
双頭の獅子が、雄叫びを上げる。
身が竦み、少しだけキマイラを相手に勝てるのだろうかという恐さがやってきた。
けれどその強ばりはすぐに取れる。
走っている最中、どうやらこいつは相手の能力らしいと見当がついた。
どうやら敵対する相手の行動を鈍らせる、なんらかのスキルを持っているらしい。
ちなみにメイには回転することに集中しているせいでまったく効いていないようだった。
こいつは変なところで図太いからな。
「めええっ!」
「ギャウッ!?」
メイとキマイラが激突する。
流石にキマイラ相手だと勢いをつけても厳しかったらしい。
メイは後ろに吹っ飛び、キマイラは若干押されて後ろに下がるに留まった。
「めえっ!?」
けれど後ろに俺がいることに気付き、すぐに方向を転換。
方向を斜め後ろに転換して転がっていく。
そして先ほどまで後ろにいた俺が前に出る。
メイの後ろでブンブンと鎚を振っていたので、既に全身には稲妻を身に纏っている。
そしてアイルからエンチャントライトもつけてもらっているので、これが今の俺に出せる全力だ。
「そおおおいっ!」
電光一閃、金色の大剣がキマイラの頭部へ吸い込まれるように飛んでいく。
キマイラの方は未だメイとぶつかった時のショックで動けないためか、回避ではなく迎撃を選択した。
「うおらああああっっ!」
「シャアアアッッ!!」
キマイラの頭突きと俺の剣がぶつかると、手元に鈍い衝撃。
ガィンと金属を打ち鳴らしたような音が鳴った。
――くっ、硬いっ!
この手応えは、あの加護持ちゴブリンかそれ以上かっ!?
跳ね返された鎚を、強引に制動。
再度打ち付けると、今度は大きく口を開いたキマイラの牙とぶつかった。
「きゃうんっ!?」
どうやら頭蓋骨は相当硬いらしいが、牙はそこまでではなかったらしい。
歯だし神経も通っているはずだし、かなり痛いはずだ。
犬みたいな鳴き声をしてビクッと動いたキマイラへ、鎚を放つ。
振り下ろした鎚を円軌道で動かし、力を逃がさぬようにそのまま横向きの一撃。
だがさすがキマイラ、手痛いダメージを食らってもすぐに立て直してくる。
攻撃を食らい既にダメージを負っている方が頭突きでこちらの勢いを殺し、未だ傷を負っていないもう一つの頭の方が俺の腹を食い破ろうとその腹を伸ばしてくる。
けれどその攻撃、当たらないぜ。
「メエエエッッ!」
既に転がることをやめ、駆けてきたメイが完全に噛みつき攻撃を受け止める。
そしてキマイラが牙を突き立てる、その瞬間にグッと後ろ足に力を込めて前にジャンプ。
相変わらず目はつぶっていたが、メイのカウンターは無事キマイラの口の中へとヒットした。
「ギャアアオッ!?」
まさか反撃を食らうと思っていなかったキマイラが大きく口を開けながらのけぞる。
「ライトジャベリン!」
大きく開かれた口の中に、光の槍が突き立った。
それが決め手となり、右側の頭の動きが一気に鈍くなった。
あとは簡単だった。
キマイラの右側に回るように心がけて攻撃を続ければ、対応できずに向こうがガンガン攻撃を食らってくれるからだ。
「キュウウゥ……」
「ガアァ……」
どれほどの時間が過ぎただろう。
体感数十分ほどの時間が経過したところで、ようやく双頭のキマイラがドサリと地面に倒れる。
ぐ、つ、疲れた……一度の戦闘にこんなに時間がかかったのは初めてだ。
いくらなんでも、ちょっとタフ過ぎるだろ……。
『レベルアップ! チェンバーのHP、MPが全回復した! チェンバーのレベルが15に上がった! レベルアップ! アイルのHP、MPが全回復した! アイルのレベルが15に上がった! レベルアップ! メイのHP、MPが全回復した! メイのレベルが8に上がった!』
けどどうやらそれだけの価値はあったらしい。
しっかりとパーティーメンバー全員のレベルが上がり、そして……。
『チェンバーはパーティー強化を覚えた! パーティー編成の能力が上がった!』
俺は新たな力を手に入れることに成功するのだった――。




