成果
メイのレベルが、徐々にだが上がってきた。
そして魔物を倒すにつれて、メイの方にも少しずつ自信もついてきている……気がする。
本当に、微々たるものではあるんだけれども。
最初はスライムを、そして次はゴブリンを……と徐々にステップアップしていき、そこで魔物のグレードアップは止まっていた。
魔物が持っていなければいけない闘争本能というやつを親の胎内に置き忘れてきたらしいメイは、全力で相手を倒すという考え方が根本から抜け落ちているようなのだ。
一応オークと対峙しても耐えることはできるんだけど、本当にそれだけ。
耐えることができるだけなので、相手に危機感を与えて、後ろにいるアイルから注意を逸らしたりすることはまだできない。
なのでちょっとスタイルを変えてみることにしよう。
俺とメイが一人と一匹で前に出て俺が攻撃、メイが防御という風にざっくりと役割分担……という感じなら、できないこともないんじゃないだろうか。
「よし行くぞ、メイ!」
「めえっ!」
俺はメイを先導しながら、平原を駆けていく。
平原にはスライムみたいな雑魚から、ちょっと手こずるオーガまで色々な種類の魔物がいる。
メイを強くしていくのに、正に適している場所と言えるだろう。
今回探すのは、メイ単体では倒せないくらいに強く、けれどメイのHPが全損しない程度の魔物である。
一応何種類か候補はあったが、結果的に俺が戦い慣れたオークに挑むことにした。
数は三匹。
これくらいがちょうどいいだろう。
「ついてこい!」
「めえっ!」
俺はメイから離れすぎないようにペースを落としながら接敵することにした。
オークがこちら側に気付き、雄叫びをあげる。
ゴブリンやワイルドディアーが放つ咆哮で慣れていたからか、メイは少し身体をびくっと震わせただけですぐに本調子に戻った。
トールの握りを確かめながら会敵。
相手はこちら目掛けて石斧を振り下ろしてくる。
スッと避けると、激昂したように振り上げ、それも避けられると一旦距離を取って呼吸を整え始めた。
その間にちらと左側を覗くと、メイとオークが戦いを繰り広げていた。
……訂正しよう。
これを戦いと呼ぶには、ちょっと一方的すぎるかもしれない。
「ブルルルッ!」
人をはるかに超えるパワーで放たれた石斧の一撃が、メイにクリーンヒットする。
「めえっ!」
メイはそれを食らって、大きく吹っ飛ぶ。
けれどすぐにまた起き上がり、オークに食らいつこうとする。
だがメイの敏捷はそこまで上がっているわけではない。
体当たりは難なく避けられてしまい、オークの一撃が再度突き刺さる。
「め……めえっ!」
今度は地面に叩きつけられる形になったメイ。
よく見れば、目をつぶっていた。
たしかに目を潰されたら回復魔法では治せないとはいえ、やっぱり戦いの最中に目をつぶるのはよくないだろう。
ぽよんぽよんと、弾力のある羊毛が攻撃の衝撃を地面へ分散させた。
そして流しきれなかった勢いが上手いこと作用して、バネのようにメイが跳ねた。
思い切り地面をバウンドする形になったメイ。
相変わらず目をつぶっている羊の顔面が、運良く攻撃の動作が終わり斧を引き揚げようとしていたオークの顔とぶつかった。
両者が頭突きをしてしまった形だ。
メイとオークの頭がぶつかり合った結果は――意外なことに、オークが押し負けた。
もちろん無防備なところにラッキーパンチが入ったのもデカいんだろうが、攻撃を食らったオークはぴよぴよと頭に星を浮かべている。
今だ、と思った。
俺は自分が担当しているオークをトールでぶち殺し、ついでに近くにいたもう一匹の方へ向かいながら叫ぶ。
「メイ! あれをやれ!」
メイの方は俺の言葉とやっているジェスチャーを見て、ハッとした顔をする。
それから俺がやった通りに……ゴロゴロと回転をし始めた。
最初は小さく、時計回りに輪を描くように。
そして重心を前に前に向けて体重をかけていくことで、その勢いを上げていく。
ギアをトップの近くにまで持ってきた時には、オークが衝撃から立ち直ろうとしているところだった。
俺の方は念のために、二匹目のオークを倒してからアシストできる位置へと移動する。
どうやらアイルも同じ考えのようで、いつでも魔法が使えるよう準備を整えていた。
「めええええええぇぇっっ!」
「ぶひいいいいいいいっっ!?」
回転させて威力を上げた、メイのボディプレスがオークへと突き刺さる!
攻撃の瞬間、メイはしっかりと目を開けられていた。
最初の頃のおっかなびっくりの様子と比べたら、これでもずいぶんと成長しているのだ。
そして体当たりが突き刺さったオークは衝撃を受け後ろに吹っ飛んだ――が、すぐに立て直して右手に斧を構えた。
攻撃の動作を終えて無防備になっているメイの右目を目掛け、刃の先を使って突きを放った。
やはりまだ、攻撃力が足りていないみたいだ。
けどまあ、今回はよくやった。
「最後まで気を抜くなっていつも言ってる、だろっ!」
俺は石の刃が迫り間抜けな顔をして口を大きく開いているメイを見て苦笑しながら、トールを振る。
ある程度ダメージが通っていたからか、俺が牽制のつもりで軽く放った一撃で、オークはすぐに絶命した。
まあなんにせよ……今回は上出来だ。
この調子で頑張っていこうな。
「――めえぇっ!!」
俺の笑みを見たメイは、楽しそうにめぇめぇと鳴くのだった――。
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