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教育プログラム


「というわけで第一回、『メイ教育プログラム』を開始する!」


「わーっ、パチパチパチパチー!」


 アイルが拍手をしながらパチパチというSEまで口で付け足してくれる。

 俺達がやって来たのは、ワイルドディアーが戦っていたあの平原だ。


 ワイルドディアーを狩っているうちに、俺達は気付いてしまった。

 レベルアップ……というか俺達の今後について結構重要なことに。


 俺とアイルは今までは経験値をそれぞれが一人分をもらえてたんだが、メイが入ったことによってそれが八割くらいに減ってしまったのだ。


 どうやら何人でも同等の経験値が得られる、というわけではなかったらしい。


 そのためパーティーメンバーが増えた現状で以前と同じだけの経験値を得ようとするなら、より経験値効率の良い狩り場を探さなければならないのだ。


 メイは既にレベルが上がっている。




ステータス


メイ【アングリーシープ(ユニーク個体)】


レベル2


HP 111/111

MP 0/0

攻撃 15

防御 23

素早さ 4


魔法

なし


魔物スキル

物理ダメージ軽減(特大)




 やっぱりその一番の特徴は、なんといってもHPの上がり幅だろう。

 一気に十も上がるとなると、将来的にメイの体力はとんでもないことになるだろう。

 そして防御もなにげに結構上がってる。

 けど攻撃も素早さもまったく上がってない。

 こいつはずいぶんとピーキーな能力上昇の仕方をするらしい。


 持ってるスキルもあるから、あとは最前線で戦えるだけの心構えさえできれば問題はないんだよな……。

 というわけで俺達は、メイをいっぱしの戦力としてあてにすることができるようにこいつに戦い慣れさせる訓練をすることにした。


 あ、あともう一つ忘れてはいけないことがあった。

 メイはレベルアップまでにかかる経験値がかなり多いのだ。

 レベル2に上がるまでに必要な経験値が100で、レベル3に上がるには200も必要。

 能力の上がり幅がかなりデカいから、その分レベルが上がりにくくなってるってことだろう。


 ワイルドディアーを倒すことによって得られる経験値は1匹につき20。

 ゴブリンソードマン達よりかは高く、ゴブリンリーダーよりは低い。

 ランクとしてはDくらいだ。


 アングリーシープはCランク魔物ということなので、メイは本当ならワイルドディアーを倒せるんだが、残念ながらファイティングスピリッツ不足でそもそも戦うことができない。


 それなら景気づけということで、俺達は草原の端の方に出没するとある魔物の下へと向かっていた。

 そいつこそが――。


「……ぷるぷるっ」


 まるでゼリーのようにぷるぷると身体を振るわせる、最弱の魔物ことスライムである。


 その攻撃法法は単純な体当たりのみ。

 触手を出してきたり溶解液を吐き出してきたり、体内に取り込んで消化してしまうのはもうちょっと強いスライム達だからな。


 そこそこデカいスライムが繰り出すボディプレスはたしかに直撃すればそこそこのダメージを食らうが、そもそも速度も遅いし予備動作もあるので攻撃を読みやすい。


 それ故に徒党を組んだり生意気にも武器を作ったりするゴブリン達を抑えて最弱の魔物の名をほしいままにしているというわけだ。


 手に入る経験値は驚きの2。

 経験値は基本的に端数切り捨てのため、もし倒したとしても得られるものは銅貨1枚にしかならないスライムの核のみ。


 けれどそんなことは関係ない。

 今日はとにかく戦うガッツをつけさせるために、メイにスライムを倒してもらうのだ!


「というわけで、いけ! メイ!」


 俺はメイのことを蹴り飛ばした。

 これくらい勢いをつけてやらないと、メイは逃げ出してしまうのだ。

 これはメイを一人前にするための愛の鞭というやつだ。

 ……傍から見ると色々な方面から怒られそうな構図になってはいるけれども。


「めええええええぇぇっ!」


「ああっ、メイちゃんっ!」


 メイはごろごろと転がり、そしてスライムの目の前に踊り出した。


「……ぷるぷるっ」


「めええぇぇ……」


 最弱の魔物(公式)と最弱の魔物メンタルが向かい合う。


「ぷるっ!」


 いったいどういうわけか、先手を切ったのはスライムの方だった。


 ――っておいいいいいいいぃぃっっ!

 なんであんなにどんくさいスライムに先を越されるんだよおおおおっっ!


 スライムのボディープレスがメイに突き刺さるっ!


 なぜかビビってよけることができなかったメイはその一撃をもろに食らう。


「……めえ?」


 けれどメイは、びくともしなかった。

 どうやらメイの持つ防御とスキルによるダメージ軽減によって、スライムの体当たり攻撃を完全に無効化してしまったらしい。


 『あれ今、何かした?』と、相手の全力の攻撃を何食わぬ顔で受け止めきったメイ。

 その様子はさながら、自分の真の実力を理解していない強者のようだった。


 おいメイよ、スライム相手に無双して楽しいのか。

 Cランク魔物のアングリーシープのレア個体だというのに、お前は本当にそれでいいのか……。


「めえっ!」


 そしてとうとう、メイが反撃に転じる。

 メイは一度思い切り後ろに下がってから、助走をつけるために走り出す。


 そしてそのまま――全力でタックル!


 どうやらスライムのボディプレスを参考にしたようだ。

 メイの攻撃力はそれほど高くはないが、それでもなかなかのもの。

 レベルアップを始める前の、オークを問題なくメイスで倒せていた俺なんかより高い。


 そんなメイが放った渾身のボディプレスは――見事一撃でスライムの身体を吹っ飛ばし、核へと傷をつけた。


 肉体からはじき出されるような形で、核がゴロゴロと転がっていく。

 スライムにとっての唯一の臓器である核が傷ついたことで、スライムの命は急激に失われていく。


 楕円形をしていた肉体がグズグズと溶けていき……そして最後には傷ついた核だけが残った。


「めえええええええっっ!」


 メイはまるで命がけの激闘を終えたかのように、蹄をガンガンと地面に叩いて勝利の雄叫びをあげていた。


 ……メイよ、魔物としての野性はどうした。

 お前は本当にそれでいいのか。


 俺は気付いた。

 こいつは甘やかしてはダメだと。

 ペットとしてではなく仲間として共闘するのなら、もっと心を鬼にしなくてはいけないと。

 アイルの方を向くと、彼女も俺の真剣な表情に気付き、こくんと頷いた。

 自分達のタンクとして活躍してもらうためには、メイには頑張ってもらわなくちゃいけない。


 こうして『メイ教育プログラム』は、その激しさを増していくのだった――。


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