再度のレベル上げ
転がっているアングリーシープ達を見て、こいつらの討伐証明部位はどこになるんだろうと少し頭を悩ませる。
数分ほど考えてから、以前山羊型の魔物がねじくれた角を討伐証明部位にしていたことを思い出した。
とりあえずナイフで角を取っていくことにする。
死んでいるからか、トールで叩いた時と比べると、皮膚がずいぶんとやわらかくなっていた。
鉄製のナイフでも、するりと刃が通る。
肉を抉っていくのが面倒だったので、途中からはグリンと回転させながら力任せに角を引き抜いていった。
うむ。レベルアップをしているおかげで、今の俺は冒険者ギルドにいる、新人いびりが趣味のムキムキのおっさんなんかよりよっぽどパワー系な感じに仕上がってるな。
いい出汁が出そうだなと考えながら、角に付着している肉をナイフでこそぎ落としてからバッグに詰めていく。
左右両方の角を全部詰めると、中の物を抜いてから入れだしたというのに、中が角だけでギッチギチになった。
ふぅと一息ついてから、毛がバサッと抜けているアングリーシープ達の素材をジッと見つめる。
「ラム肉……食ったことないんだよな美味しそうだな食べたいな食べようか」
息継ぎをすることもなく一気に言葉が出てくる。
羊の肉は少々癖が強いらしい、前に会ったことのある冒険者のおっさんから話を聞いたことがある。
骨なんかも煮込めばいい出汁が出るそうだ。
あまり料理の心得がない俺でも、煮込んだスープとかにすれば結構上手く作れるんじゃないだろうか。
「め、めぇ……」
メイはなんだか悲しそうな顔をしながら、俺を見上げていた。
じゅるりとよだれを垂らしそうになっていた俺のことを、アイルが非難がましい目で見つめてくる。
「メイちゃんの前でなんてこと言うんですか!」
たしかにメイからすれば、自分のかつての仲間達が新しい仲間達に食われようとしている状態なのか。
人間目線で考えると、魔物と仲間になってからそいつが人間を食うのを見る感覚……うん、そう考えるとなんか気持ち悪いな。でも自分のことを虐めてる奴らが食われたら、俺なら正直『ざまぁ!』とか考えちゃうかもしれない。
矮小な人間でごめんなさい。
ラム肉は惜しいが、ここは撤退することにしようか。
俺とアイルが歩き出すと、メイは逆の方……つまりはかつての仲間達の亡骸へとトコトコと歩いていった。
そしてむしゃむしゃと、仲間達のことを食べ始めた……食べ始めたっ!?
自分の目を疑い、一度ゴシゴシと擦ってみる。
だが再度開いた眼には、美味しそうに肉を頬張っているメイの姿があった。
「めぇ!」
俺にはメイが「うめぇ!」と言っているように聞こえた。
かつての仲間とかどうとかより、メイからすると空腹を満たせるうちに満たしておくことの方が大切みたいだ。
魔物の世界って、結構弱肉強食なんだな……。
俺達と魔物の倫理観の違いを感じさせられる一幕だった。
帰りの道中、俺は考えた。
魔物がスキルを持っているという話は、寡聞にして耳にしたことがない。
俺だってこんな風にメイがスキルを持ってるとは思ってなかったし、こうやってステータス開示ができなければただなんだかメイって丈夫だなぁ、さすが魔物だなぁというくらいにしか思っていなかったはずだ。
……魔物がスキルを持ってるってこと、深く考えたら結構ヤバいよなぁ。
深掘りしたら俺の身に危険が迫るほどにヤバそうだなぁと。
俺達はスキルのことを、神様からの贈り物という風に教わる。
天におわす神様からの授かりものだから、スキルがもらえる成人の儀のことを『天授の儀』と呼ぶわけで。
スキル協会はこんな風に魔物もスキルを授かることを知っているんだろうか。
気にはなるが、深く突っ込んだら間違いなく面倒ごとになるだろう。
協会に抱えられるって話になっても面倒だし、これは俺の心の中にしまっておこう。
幸い、アイルには自分のステータスしか見えていない。
なので俺はメイがスキルが持っていることは秘密にしておいた。
でもとりあえず心の奥底には留めておこう。
相手がスキル持ちだと考えて戦った方がいい場面とか、今後も出てきそうだし。
あの黒いゴブリンなんかも、まさにそんな感じだったしさ。
だがまあとりあえずなんにせよこれで依頼は完遂だ。
さっさと依頼料をもらいに行こう。
これでパーティーメンバーは二人と一匹。
現状俺達だけだとワイバーン討伐は厳しそうな感じだった。
メイの加入が新たな突破口になってくれることを祈ろう。
というかまずは、メイのレベル上げからしていかなくちゃな。
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