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『暁』


「あんたも追放よ! スキルだけは有能だったけど、うちのパーティーでやってくには力不足!」


 女魔法使いマーサは、それだけ言うとしっしっと蚊を追い払う時のようなジェスチャーをした。


 邪険にされたその冒険者はマーサを睨みつけ、そのままいつでも抜剣ができるよう柄に手をかけるが……。


「何、やる気? やるなら本気で殺すけど」


 杖を掲げ、睨み返すマーサを見て、その手を下げる。


 彼には本気を出せばどちらの方が強いか、何度か共闘した際の経験でわかっていたからだ。


 男は何も言わず、とぼとぼと肩を落として帰っていった。


 その様子を、ナルは少し離れたところから見ていた。

 すぐ隣にいるジェインの方を見ながら、その手を頬に当てて、


「またダメでしたね……」


「マーサ達の目が厳しすぎるんじゃないか? 別にベッコだってそこまで弱いわけじゃ……」


「ダメよ! 私たちが大したこともない奴と組むのは、人類にとっての損失だわ! 四人のパーティーに慣れてるんだから、四人目はしっかりと選ばないと!」


 『暁』の四人目のメンバー集めは、難航していた。

 強力なスキルを持つ三人のお眼鏡……というかマーサとナルがこいつならいいと思えるような人材が、まったくいなかったのがその原因だ。


 これでチェンバーが去ってから三人目の追放である。


 以前よりもずっと強力な前衛としての力を手に入れたジェインではあったが、やはり前衛が一人と後衛が二人という構成はどうしても戦いづらさが勝ってしまっていた。


 そのためメンバーの補充は急務なのだが……。


(二人がなかなか、上手くやっていけないんだよな……)


 ジェインが頭を抱えているのは、マーサとナルがあまりにも融通が利かないのが原因だ。


 彼女たちは仲間には裁定が甘くなるジェインのひいき目を加味しても、少々増上慢になっているところがあった。


 実は元々こういう性格だったのかもしれない。

 きっとスキルを手に入れたせいで、それに拍車がかかったのだろう。


 外見は魅力的で、そして女性としても決して嫌いではなかったが……最近ジェインの考えは変わりつつあった。


 彼女達を異性ではなく、あくまでもパーティーメンバーとして見るようになってきている。


 考え方が好意的なものから、事務的なものへと変わりつつあった。


 けれど自分達が才能に満ち溢れていると確信している二人は、そんなジェインの変心にもまったく気付く様子はない。


 強力でレアなスキルを手に入れることで、自分が天才だということを改めて理解したのだろう。


 自分達が選ばれた人間だと疑わない二人は、以前にも増して誰かのことを知ろうとしたり、協調するための努力をしなくなっている。


 今マーサが追い出したベッコだって、前衛としての歴も十年を超えている、脂が乗った三十代前半のベテランだ。


(パーティーに加入するかどうかは抜きにしたって、色々と教わるところがあるだろうに)


 まだ十五歳という、大人と子供の間の人間に、いきなり新たな才能を渡す。


 そのせいで人生を壊してしまう人間や、ダメになってしまう人間、性格が変わってしまう人間も多い。


(いったい神様は、なんのためにこんなシステムを作ったんだろう)


 こんなことになるのなら『天授の儀』なんてなければよかったのに。

 ジェインはそう思わずにはいられなかった。


「次よ次、もっと強力な仲間を探しましょう!」

「仲良くできる人が見つかるといいですねぇ」


 マーサとナルは、まだまだ新たな仲間を探すのに意欲的なようだ。


 だが実のところ、ジェインはそこまでして自分たちに見合う仲間を探す必要があるのかどうか、疑問に思っていた。


 そもそもの話、見合うかどうかなどということを考えること自体が、あまりにも傲慢だ。


 たとえ今は実力が及んでいなくたって、将来までずっと力不足のままとは限らないではないか。


 そこまで考えてジェインが思い出すのは、いつだって『暁』にいてくれた一人の男の背中だ。


 何度も夢を語り明かし、馬鹿をやって、吐くまで酒を飲んだあの思い出が、ジェインには、今では何よりも大切なものに思えていた。


 失って初めて、その大切さに気付く。


 チェンバーとは、そういう類の縁の下の力持ちだったのだ。


 実力はたしかに足りてはいなかったかもしれない。

 身体を張らなくては、パーティーメンバーとしての役目を果たせなかったかもしれない。


 けれどチェンバーは、自分にできることをしっかりと認識し、そしてやり遂げることのできる男だった。


 そして彼はマーサとナルと上手くやっていけた、ただ一人のメンバーでもあった。


 チェンバーを手放したのは、つくづく惜しい。


(今からでも戻ってきてはくれないだろうか)


 ジェインは最近、そんな風に考えることが多くなった。

 もちろん、腹の中の考えはマーサたちには言わない。


 彼女達は別れてからというもの、チェンバーについて否定的な意見ばかり言っていた。


 今提案をしても、再加入が受け入れられるはずがない。


(今は三人で、行けるところまで行くしかない、か……)


 ジェインは自分ならば、二人と上手くやっていけるという自信がある。


 であるなら今するべきは、とにかく前を向くこと。

 過去ではなく未来を見据え、『暁』をSランクパーティーへと押し上げることが、何よりも大切だ。


(けれどもし……僕とチェンバーの道が、再び重なることがあったのなら)


 それは極小の可能性だ。

 外れスキルを授かったチェンバーが、強力なレアスキルをもらっているジェイン達と渡り合えるほどの実力になる可能性は極めて低い。


 普通に考えれば、次に会った時には以前よりもずっと差が開いていると考えるのが自然だ。

 けれどジェインは、己の友のことを信じていた。


 それは愚かな考えかもしれない。


 だが人間は、ずっと利口でいるだけでは疲れてしまう。

 少しくらい愚かでいたって、罰は当たらないはずだ。


(その時は――またもう一度共に戦おう、チェンバー)


 こうしてジェインは再び前を向く。

 彼は未来のために、今を懸命に歩いていく――。



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