仲間
仲間に、できるのか……?
いや、こんな声が聞こえてくるってことはそりゃできるんだろうけど……自分で言うのもなんだけど、なんで仲間にできるんだよ。
おかしいだろ、常識的に考えて。
いや、でも俺の『レベルアップ』に常識を求めても無駄か……スキルってそういうもんだしな。
「めぇ……」
『仲間にしてくれないの?』という感じで羊がこちらを見上げてくる。
仲間、か……。
アイルは魔法攻撃や回復等の支援をするガチガチの後衛職だから、前衛ができる仲間がほしいとは思っていた。
ただ俺達のパーティーに入って新たに仲間になる人には、俺のスキルについての説明をしなくちゃいけないわけで。
そんな結構なリスクを負ってまで仲間を増やすくらいなら二人のままでいいかということだったわけだ……さっきまでは。
魔物が仲間になったなら……口を割る心配しなくていいんだよな。
そんなこと、そもそも頭に浮かんですらいなかったけど。
「めぇ~」
こいつはめぇとしか言わないからバレようもない。
このなんだか間の抜けた鳴き声から『むむ……こやつの仲間のチェンバーは『レベルアップ』なる謎のスキルを持っていますぞ、ふぉぬかぽう』と読み取れる人がいるとは思えない。
いや、たしかに魔物の心を読むスキルとかもありそうだけど。
そもそもこいつに事情の説明とかしなければいいだけだし。
こいつはなんだか、いかにもアホっぽい顔をしている。
ああ、今日も牧草がおいしいなぁくらいしか物事を考えていなさそうだし。
「アイル、こいつの面倒見れるか?」
「はい、任せてくださいっ!」
「よし、それならこいつを仲間にしよう。将来的には立派な前衛として育るぞ」
「ええっ!? このメイちゃんを!?」
早速名前をつけているアイルのことは無視し、いつの間にか浮かんでいる文字に触れる。
触るのはもちろんYESの方である。
すると続いて、レベルアップの時より少し拍子抜けするような、なんだか初心者が吹いたラッパのような音が聞こえてくる。
『アングリーシープ(ユニーク個体)が仲間になった! パーティー編成からパーティーに入れることができます!』
アナウンスを聞いて思った。
そういえばこいつ、というか街を騒がせてたこの魔物達、アングリーシープって言うんだな。
というかユニーク個体ってなんだ?
初めて聞いたけど、邪神の加護を持ってるやつらとはまた違うんだろうか?
あとでこの街の露出多めな受付嬢さんに聞いてみるか。
フォンッと文字が消えると、音が鳴り止んだ。
そして次に『名前をつけてください』の文字が。
「アイル、こいつの名前何にする?」
「メイちゃんです!」
ちょっと安直な気はしたが、それでいいかとも思う。
あ、というかこいつってそもそも雄と雌どっちなんだろ。
「ちんちん!」
「……? めぇ~」
当たり前だが、芸を仕込んでいないのでちんちんの姿勢にはならなかった。
仕方なく身体をごろんとひっくり返し、局部を確認……うん、ついてるな。
「めぇ! めぇめぇ~」
羊は顔に手をやり、『私もうお嫁に行けない!』みたいな感じを醸し出していた。
……いや、お前男だろ。
パーティー編成をして、この羊(名付けはめんどくさいしもうメイに決めた)を俺達のパーティーに入れる。
とにもかくにもということで、まずはステータスを見てみることにした。
ステータス
メイ【アングリーシープ(ユニーク個体)】
レベル1
HP 41/101
MP 0/0
攻撃 15
防御 20
素早さ 4
魔法
なし
魔物スキル
物理ダメージ軽減(特大)
……これが魔物か。
MPはまったくないが、レベル1にもかかわらずHPが既にアイルより高い。
いくつかレベルを上げたら、あっさり俺を超えていきそうだ。
各種ステータスもかなり高い……これが人間と魔物の物理的な強度の違いなんだろうか。
おまけに魔物スキルとかいう見たこともないものまである。
物理ダメージ軽減(特大)……特大な時点で、かなり強いスキルなんだろうなというのはなんとなく察せる。
マジかよ、まだパッと見ただけだけど……こいつ、俺達なんかよりずっと強くなるんじゃないか?
とにかくタンクがほしいと思ってたんだ。
ステータスを見る限り、俺達がメイ以上の適役を見つけられるとは思えない。
よし、なんにせよこれからよろしく頼むぜ。
「めぇ~」
俺がしゃがんで手を伸ばすと、メイが器用に蹄を出してくる。
そして俺達は、不格好ではあるが握手を交わす。
こうして俺達のパーティーに、新しい仲間が加わるのだった――。
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