めぇ
「こ、こいつは……」
「か、かあいいですねぇ……」
毒気の抜けるようなことを言うアイルは、隣でほっぺたをすりすりしながらうっとりした顔をしている。
おいおい、こいつは色こそ違えど、商隊を襲った魔物だぜ。
しかも色違いなんて、いかにもワケありじゃないか。
俺達が戦ったあの黒いゴブリンみたく、こいつも邪神の加護を持っている魔物かもしれないじゃないか。
そんな風に気を抜いていていい敵じゃないだろ。
……でもまあ、たしかに……。
「め、めぇ~……」
目の前にいる真っ白な羊は、まったく敵意ってものを感じない。
地面に倒れ込んでこちらを見上げている形になっている羊は、プルプルと震えていた。
そして小刻みに身体を動かしながら、小さな前足で器用に身体を抱きしめて、今にも泣きそうな顔をしている。
魔物っていうのは人間に対して敵意を持つのが普通なんだが……これは一体、どういうわけだろう?
さっきの羊達も、攻撃を食らうまでは温厚だった。
とするとこれも、こちらを油断させるための擬態という線も……?
「めえっ、めえっ!」
何を思ったのか、もこもこな身体をくるりとひっくり返しこちら側に身体を向ける。
いわゆるちんちんの体勢というやつだ。
羊は仰向けになりながら、なんとか目を動かしてこちらを見ていた。
こいつは何かを必死に訴えている。
俺はいざとなればトールが触れるよう溜めを作った状態で、羊をじっくりと観察することにした。
羊は相変わらずぷるぷる震えていて、こちらを見上げている。
慈悲を求めて手を差し出してくるスラム街の住民のように無防備だった。
「め……めえ……」
羊がこちらを見上げる表情に、俺はひどく見覚えがあった。
卑屈で、こちらに縋るような、何かを諦めたような笑顔。
こいつは――似てるんだ、以前の俺に。
自分の非才さを呪いながらも、分不相応な場所でやっていくしかなく。
マーサやナル達と上手くやっていくために、慣れてもないゴマすりをして。
どうにかして彼女達に寛大になってもらうしかなかった、あの頃の俺が浮かべていた表情にそっくりなんだ。
全身を観察してみれば、この白い羊は傷だらけだった。
足には踏まれたようないくつもの青あざがあり、顔は鋭い何かで引っかかれたように赤い線が沢山走っている。
羊毛もところどころ剥げていて、内側に痛々しい傷痕が見えていた。
どうやら他の黒羊のように、身体のもこもこが攻撃を無効化してくれたりしないらしい。
この満身創痍な羊は、いったい誰にやられたのか――足についている蹄の痕を見ればわかる。
あの黒い同族達にやられたのだ。
群れの中で一人だけ色が違う。
それがどれだけ大変なことなのかは、少し想像してみればわかりやすい。
言わば金髪碧眼しかいない街に、突如として黒髪黒目の赤子が産まれたみたいなものだ。
そりゃあ気味悪がられるし、魔物同士であっても迫害の対象になるのだろう。
正直なところ、かわいそうだとは思う。
だがまあ……魔物は魔物だ。
たとえあっち側でいじめられていて、そのせいか俺達に敵意を持っていないとしても。
それでも人類の敵ということには変わらないわけで……。
「わあっ、温かいですよチェンバーさん!」
「おいっ、不用心だぞ!」
そんなことを考えてたら――アイルがいきなり、羊のお腹のあたりを撫でだした。
どうやらその撫で方は上手いようで、羊は恍惚の表情を浮かべ始める。
「チェンバーさん、飼いましょうこの子!」
「いや、無茶言うなよ。テイマー系のスキルでも持ってない限り、魔物を仲間にすることなんて……」
魔物を使役し、共に戦うことは可能か不可能で言えば可能だ。
戦士や魔法使いみたいに、テイマーっていう戦闘スタイルがあるくらいだからな。
けどそれができるのは、魔物を幼い頃から育てて親だと刷り込みでもさせるか。
もしくは魔物を使役できるテイマー系のスキルを取得できる場合だけだ。
いくらなんでも、俺達にそんなことができるわけないだろ!
そう言おうとした瞬間、耳なじみのある感情のない声が脳内に響く。
『アングリーシープ(ユニーク個体)が仲間になりたそうにこちらを見ている……仲間にしますか? YES/NO』
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