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乾杯


「それじゃあ再会を祝して――」


「――乾杯ッ!」


 ギルドへ戻り報告を終えてすぐ、早馬が大分近付いてきていたらしい騎士団目掛けて駆けていった。

 ジェインの戦闘能力がここまで高いことを知らなかったディングルさん達の顔は、それはそれは面白かった。


 そして報告を終えた段階で一段落ついた俺達は、とりあえず久しぶりに飲みにでも行こうと酒場へ繰り出すことにした。


 ランブルの街は俺の方が良く知っている。

 俺は少し悩んでから、結局いつもアイルと行っているそんなにグレードの高くない店へ入ることにした。


 ジェインに店に入って気分を害した様子もない。

 どうやら変わっている部分も多いが、根っこの方には変わらない部分もあるらしい。


「ジェインには敵わないぜ。俺がえっちらおっちら強さの階段を上ってる間に、その数十倍の速度でどんどん上に行っちゃうんだからな」


「こんなに激変するのは、さすがにもうこれきりだと思うよ。でもチェンバーだってすごいじゃないか。加護持ちを倒すなんて、Bランクも近いんじゃないかな?」


 どうやらある程度ランクが上の方になってくると、邪神の加護を持つ魔物と戦闘する機会も増えてくるらしい。


 特に最近ではその数が増えているらしく、僕も既に何匹か倒したよ、とこともなげにジェインは言う。


 相変わらずその背中は遠い。

 俺もある程度強くなった分、その距離というものがはっきりとわかってしまうのだ。


 けれど悲観はしない。

 だって俺もアイルも……まだまだ強くなっていける。

 それに新たな仲間を加えることだってできるわけだし。

 未来の伸びしろを考えれば、俺達の方が、きっと将来性は抜群だ。


 いつかはジェイン達『暁』と肩を並べて戦う。


 今はまだ遠いけれど、近い将来その望みは叶えられたらなと思う。

 己の力で、叶えることができればと、そう思うのだ。


 欲しいものがあるのならねだっているだけじゃダメだ。

 運命の女神様はきっと、本当に欲しいと思って、そのために努力を続けた人にしか微笑んではくれないのだから。



 おかわりを頼みながら、心なしか以前より影のある笑みを浮かべるようになった気のするジェインの方を見る。


「負けないからな」


「いつまでもチェンバーの競争相手でいることができるよう、僕も精進するよ」


「怠けててもいいぞ、そうしたら早く追い抜けるから」


「それはできない相談だね」


 ふと、俺がランブルでしたことに、意味はあったんだろうかという疑問が湧いてきた。


 ジェインが来るのなら、俺達がわざわざ近場に来たゴブリン達を倒し続けたことに意味なんかなかったんじゃないだろうか。


 考え込む俺を見たジェインが、何事かと尋ねてくる。

 別に気兼ねする間柄でもないので、俺はそのままをジェインに伝えた。


「そんなことないさ。チェンバーがいなければ、ランブルはなくなってたよ」


「どうしてそう思うんだ?」


「だってチェンバーがいなければ、僕はそもそもランブルに来てないし。それにチェンバーがゴブリン達に脅威を与えていたのが結果的に時間稼ぎになっていたから、僕達が間に合ったわけで。仮に僕達がこなくても、チェンバー達のおかげで多分騎士団もギリギリで間に合っていた。あのままじゃチェンバー達は死んでいたかもしれないけど、それでも街は守れていたと思うよ」


「そっか……そういうもんか」


「……うん、そういうものだよ」


 俺は自分が強くなったと、ちょっとばかり傲っていたのかもしれない。


 自分一人でランブルを救う。

 どうやらそういう大層なことをやり遂げるには、まだまだ力不足らしい。


 それによくよく考えてみれば、そういうのは俺の柄じゃない。

 艱難辛苦を乗り越えて危機から人を救うのは、きっとジェインみたいな勇者が適任なんだろう。


 まあでも……俺がやったことがまったくの無意味じゃなかったってだけでありがたい。


 自分がやったことに意味がある。

 そう思ってないと、人生なんてやってられないからな。


「ジェインはこれからどうするんだ?」


「なんでも最近、以前と比べると魔物達の活動が活発になっているらしい。僕はその原因を突き止めて、できることならそれを止めるつもりだ」


「スケールのデカい話だなぁ」


「チェンバーはどうするの?」


「あぁ、俺か? そんなの決まってる――」


 強くなるんだよ。

 いつかお前を追い抜くためにな。


 俺の言葉を聞いて、ジェインが笑う。

 それに釣られて、俺も笑った。


 ジェイン達『暁』についていくつもりはない。


 もし俺が『暁』に再加入したとしても、それじゃあジェインに追いつくことなんてできないからな。

 それにどうせなら、頑張ってきたアイルと一緒に強くなっていきたいって気持ちもあるしな。


 俺は俺なりのやり方で、強くなっていくさ。


 ジェインみたいに大層な理由があるわけじゃない旅路になるだろうが……なぜだろう。


 そう遠くないうちに、俺達の道は再び交錯する。

 不思議とそんな予感がした。


「それじゃあチェンバーの新たな旅路を祝して――」


「ジェインの救世の旅の幸運を祈って――」


「「乾杯!」」


 ジョッキを打ち付けて、酒を胃の中に流し込む。


 また会おうぜ、ジェイン。


 次に会う時は――もっともっと、強くなってるからよ。

お読みいただきありがとうございます。

これにて第一章は終了となります。


第二章を書くかどうかは、皆様の反響次第という形にさせていただこうと思います。


「面白かった!」

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と少しでも思ったら、↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!

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