差
――そうか、増援!
増援として余所の街から来た増援が、ジェインってことか!
「オーヴァードライブ・チェインライトニング」
パチリと、ジェインが指を鳴らす。
それだけでどこからともなく稲妻が飛び出し、ゴブリン達へと襲いかかった。
ゴブリンからゴブリンへ。
その稲妻はまるで生き物のようにゴブリン達の間を飛び回り、分裂し、横へ横へと広がっていく。
ゴブリンも、ゴブリンメイジも、ゴブリンリーダーも、皆が一様に絶命していく。
そして一瞬のうちに、目に見えていたゴブリンのほとんどが焼け焦げて死に絶えた。
ジェインの魔法の範囲外にいたゴブリン達も、さすがの異常におののき、その足を止めている。
一瞬のうちにゴブリンキングと、数十を超える同胞が死んだのだ。
それを見て足を止めるのは、生物的になんらおかしなことではない。
「ジェイン……お前、むちゃくちゃだな。それにその剣……」
ジェインの手には、見たこともないほどに強い輝きを宿す剣が握られていた。
その白く静謐な光は、こんな緊急事態の中にあってもどこか落ち着いてしまうような、安らぎを与えてくれる。
業物、という言葉で表すには陳腐に思える。
美術館で展示されていてもおかしくなさそうな、芸術的な美しさ。
そしてゴブリンキングのそっ首を一瞬で落とせるようなあまりにも高い切れ味。
そんな二つを同居させている剣は、あまりにも綺麗で、そして物騒だった。
「これは聖剣フリスヴェルグ。地盤の崩落に巻き込まれたときに、封印されたこの剣を見つけてね。選ばれた者以外には抜けないと聞いたから試してみたら、普通に抜けたんだよね。それからは僕の相棒だよ」
スッと、ジェインが言い終えるのを待っていたかのように一人の人物が彼の横に立つ。
そこにいたのはプリースト……にしては少し露出度の高い格好をした女性だった。
何故か赤い修道服を着ているその女性は、人形めいた美しさを持っている。
そのプロポーションから顔の造詣から、あまりにも何もかもが整いすぎていて、逆に違和感を感じてしまうのだ。
「そして彼女が、聖剣の龍巫女のドラグウェル。一見すると人にしか見えないけど、実は聖剣を代々守ってきた人造龍なんだ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! あまりにも超展開すぎて、さすがの俺も思考が追いつかない」
ジェインのやつ俺がシコシコ頑張ってきた間に、どんな大冒険を繰り広げてきたんだよ……。
俺も相当頑張ってきたんだが、こいつの冒険譚からすると超霞むじゃねぇか……。
だって要約すれば、俺がやったことってゴブリン狩りめっちゃ頑張ってたの一言で言い表せるからな……。
「ジェイン、急がんとゴブリンを伐ち漏らすぞ」
「ああ、チェンバーはゆっくり休んでて。エクストラヒール」
ジェインは俺に回復魔法をかけて、そのままゴブリンの群れに突っ込んでいった。
よく見ればあいつが巫女と言っていた人物以外にもう一人、杖を持った老人もいた。
どうやら今は、三人で冒険をしているらしい。
多分……というか絶対、あの爺ちゃんも只者じゃないんだろう。
というかこの回復魔法、上級回復魔法のエクストラヒール……そもそもジェインって回復魔法使えなかったはずなんだが……まあそんなもんかとも思う。
情報過多過ぎて、ちょっと感覚が麻痺してきたぞ。
俺達の目の前で、ゴブリン群があっけないほど簡単に蹴散らされていく。
その総数は、俺達が想定していたよりもずっと多い。
多分数は、千を優に超えている。
もしかしたらあの集落以外にも、いくつかゴブリン達の暮らしていた場所があったのかもしれないな。
もしジェインが来てくれていなかったかと思うと……ぞっとする。
あの群れがいつランブルにやってくるかもわからなかったわけだ。
さすがにゴブリンキングまでいたら、群れを相手にしても俺達単独じゃ勝てなかっただろうし。
俺とアイルは、急に始まったあまりにも一方的な殺戮ショーを、気の抜けた表情で見つめていた。
「アイル、あれが俺達の目指すべき場所だ」
「え、えぇ……あれは、さすがに無理では? ほら、今もゴブリンが吹っ飛んで……わっ、なんか台風まで起きてます! 無理です、あそこまでは無理ですってば!」
無理なもんかよ、まあたしかに今すぐは無理かもしれないが……俺達にだって、キッと辿り着けるさ。
目標は高ければ高いだけいい。
目指すべき場所がある幸運に感謝しなくちゃ。
ジェインが剣を振る。
その刀身の延長線上に光の刃が構成され、たった一回横薙ぎを放っただけで、十匹以上のゴブリンが死んだ。
にしてもジェイン……スキル手に入れて、完全に別物になったなぁ……。
俺はその背中がまた遠くなったことに、寂しさや悔しさ、そして負けてたまるかという思いを抱きながら、その戦いを見届けた。
そして数十分もしないうちに、ノイエの森にいる、ゴブリンキング率いるゴブリン軍団は殲滅されたのだった――。
ノイエの森で劇的な再会を果たしてからすぐ、俺達はジェイン達真生『暁』と一緒にランブルの街へ戻ることになった。
アイルは結構人見知りが激しいタイプなので、ジェイン達相手にめちゃくちゃキョドっていたのがなんだか新鮮で面白かった。
道中、ジェインがどんな冒険を繰り広げてきたのかを聞き。
そしてお返しに、俺がどんな冒険譚(と書いてゴブリン狩りと読む)をしてきたのかを、やや誇張気味に説明してやった。
ちなみにあの老人は、ジェインを養子に取ると言っていたテファン伯爵本人らしい。
なんでも賢者と呼ばれるくらい高名な魔導師らしく、彼はそのジェインの才能に惚れ込み、家督を息子に明け渡してジェインの旅に同行しているらしい。
そんなんありかとも思うが、聖剣を守る人造龍とか出てこられたあとだと、それでもインパクトは弱くなるよな。
ジェインもそうだけど、向こうは三人ともキャラが濃いぜ……。
「アイル、俺達も語尾にワンとかつけて、もっとキャラを濃くしていった方がいいかな?」
「そんなキャラ付けされるの嫌ですよ!? チェンバーさん落ち着いて下さい、あれはジェインさん達がおかしいだけです! むしろチェンバーさんだって、世間からすれば奇人変人の部類に見えているはずです!」
慰められているのかけなされているのかわからない言葉をいただいたりしながらも、帰りの道はほとんどなんの心配もすることなく万事つつがなく進むことができた。
なんでもドラグウェルには弱い魔物を怯えさせる魔物避けのような力があるために、一定水準以下の魔物はそもそも近づきさえしないようだ。
もう俺は、ジェインに対するあれこれを突っ込むのはやめにしよう。
そう心に誓った。
けれどその決意は、彼が手に入れた無限に入る物入れ、無限収納を見た瞬間に、あっけなく崩壊するのだった――。
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