背中
俺達が考えていた作戦。
それはレベルアップ寸前まで経験値を溜めておき、戦闘の最中にレベルを上げ、回復させることで継戦能力を維持させるというものだった。
最初にレベルアップする時を除くと、必要となる経験値を獲得した段階でレベルアップは行われる。
そして経験値は、パーティーの誰が倒しても皆に平等に与えられるという特性がある。
この二つから着想を得て考えついたのが、レベルアップ寸前まで経験値を溜めてからは戦いを控え、いざというときに戦いの最中にレベルを上げて全回復するという戦法だ。
俺達は今回この作戦を使うため、近くに足を折って瀕死の状態であるパラライズスパイダーを置いていた。
非常食のような形で、ここぞというタイミングで経験値として使うために。
俺が致命の一撃を受け、ゴブリンが完全に気の抜けた瞬間。
アイルが俺のレベルを上げてくれたのは、正に絶妙で最適なタイミングだった。
暴力的なまでの雷撃が轟き、光が消えていったその場所には――。
「……」
「へへっ、さすがにゼロ距離なら、ちゃあんと効いたか……」
物言わぬ骸となったゴブリンと、全身からブスブスと黒い煙を上げている俺の姿があった。
ゴブリンは地面に倒れ込んでいる。
腹には雷撃が突き抜けた痕があり、少し黒ずんでいた。
既に死んでいることを確認するために数度その死骸を叩く。
反射で動くことも、こちらにカウンターを叩き込んでくることもない。
完全に息の根が止まっている、ということを理解したその瞬間。
同様に至近距離で雷撃を食らった俺は、そのまま地面に倒れ込んだ。
「チェンバーさんっ!」
遠くからアイルの声が聞こえてくる。
そんなに焦る必要なんかないさ。
回復したおかげで、なんとか生きてるから。
しかし至近距離から雷を打ち込むのは……さすがにきついみたいだな。
HPがある程度カバーしてくれている俺が死にかけているんだから、普通の人間が使えば一発でおだぶつだろう。
これの元の持ち主だったトールさんは、多分こういう使い方はしなかったんだろうな……。
だがあの黒いゴブリンを倒せるだけのバカ火力。
なんとしてでも勝ちたい特攻の手段としては、決してナシじゃない。
ステータスを確認してみれば、今の一発だけでHPが八割ほど削れていた。
フルで食らっていたらどうなるかと考えると、それだけで恐ろしいな。
「アイルのMPはどれくらい残ってる?」
「今レベルアップしましたので、全快ですよ」
「あ、そっか。それを忘れてた」
「余裕ありますので治してきますね。ヒール、ヒール、ヒール」
MPが全回復していたアイルが、俺の身体中の傷を癒やしてくれる。
アイルはレベルアップしたてだから疲れが大分取れてるはず。
帰りは俺がちゃんとまともに動けるようになるまで、彼女に頼りっきりになりそうだな……。
「とにかく一刻も早くここを発たなくちゃ。いつあの集落のゴブリン達が来るかわからないし」
「あ、あはは……チェンバーさん、どうやらもう遅いみたいです」
乾いた笑いを浮かべながら、俺の背中の方を指さすアイル。
そこにはこちら目掛けて進軍を始めている、ゴブリン達の群れがいた。
ゴブリンメイジもソードマンも、リーダーもいる。
森の木々に隠れて見えてはいないが……恐らくあの集落にいたゴブリン達が、総出でやってきているんだろう。
その先頭を切っているのは、俺がまだ見たことのないゴブリン。
邪神の加護によって強化を受けたあの黒いゴブリンのフルパワー状態と変わらぬほどの巨躯を持つ、緑色の巨大な鬼だ。
俺はそいつを見たことで、今まで違和感の正体に気付いた。
「――俺らが倒したゴブリンは、群れは統率せずに単独行動しかしていなかった。つまりこちらにゆっくりと歩いてきているあいつが……」
「あの集落を作り上げた魔物、ってことですね……」
その体躯から何から、俺が事前に聞いていたものと一致している。
ということはあれが……Bランク魔物のゴブリンキング。
今しがた激闘をしたあのゴブリンに、勝るとも劣らない強敵だ。
勝てるだろうかという思いと、全身から感じるけだるさを、なんとかして抑え込む。
既に捕捉されている現状下、俺達はあいつを倒さなくちゃいけない。
絶対にだ。
俺はまだ、こんなところで死ぬわけにはいかない。
「悪いなアイル、まさかこんなことになるとは……」
「いえいえ、二人であがけるところまであがきましょう」
俺がトールキンを、アイルが杖を構える。
「グラアアアアアアァァッ!!」
そしてゴブリンキングは俺達を見て、雄叫びを上げた。
それと同時にゴブリン達も思い思いの叫び声をあげながら、こちらへと殺到してくる。
気合いだけでは負けぬよう、俺達も声を張りあげながら向かっていく。
こんな、ところで――終わって、たまるかよっ!
「チェンバー、よく頑張ってくれた。あとは僕たちが引き受けるよ」
ストン。
ほとんど音を立てずに、何かが落ちる。
俺のすぐ近くまでやってきていた、魔物の首。
ゴブリンキングの首が、瞬きよりも速くコトリと地面に転がった。
そんなありえない出来事を起こしたのは、突如として俺の目の前に現れた一人の人物。
その背中は。
その、背中は――。
「見違えたね、チェンバー。加護持ちを狩るなんて、すごいじゃないか」
俺が追いかけ続けた、たった一人の親友――ジェイン。
いったいどういうわけか、もう二度と会うことはないと思っていたあいつが現れたのだ。
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