そっと
あのゴブリンがどこにいるかはわからないが、真ん中あたりを主な狩り場としていた俺らとほとんどかち合わないとなると、まず間違いなく森の奥深くの方になるだろう。
となれば俺達も今までとは違い、日帰りではなく泊まり込みで戦う必要が出てくるだろう。
深くまで進むとなると、さすがに一日じゃ帰ってこれないからな。
というわけで野営ができる装備を調え、二人ともリュックを背負い、戦闘の際はそれを投げ捨てて戦うという感じで森の深部の探索を開始することにした。
森で大量のゴブリン達と戦っていて、いくつかわかったことがある。
まず第一に、彼らは群れと群れの間で連携のようなものをまったくとらない。
文字がなく、手紙のような連絡手段がないというのもあるかもしれないが……ゴブリンには伝令やメッセンジャーのようなものを考えるだけの知能もないらしかった。
そして第二に、ゴブリン同士は別に仲が良くないという点だ。
同じ群れの中にいるゴブリン達は、基本的に仲が良い。
だけど一歩外、別の縄張りを持つゴブリン達とは、まったく手を組むような様子がない。
一緒に狩りなどしないのはもちろんのこと、ひどい時はゴブリン同士で争うようなこともあった。
人間も同族同士で戦争とかやりまくってるから人のことは言えないが、どうやらゴブリン達にも同族嫌悪のようなものはあるらしい。
ゴブリンの生態的なことも結構わかったが、まあ戦闘には関係ないことも多いのでその辺はいいか。
俺達はあのゴブリンを探すにあたって、まずは一際大きな群れを探すことにした。
恐らくはあいつが仕切っている群れこそが、この森の中で最大の勢力を持っているのだろうと推測できるからだ。
群れの位置がわかれば、そこからあいつの居場所も類推できるようになるはずだ。
森を深く進んで行くにつれ、魔物の群れの規模も少しずつではあるが大きくなってきた。
そしてゴブリン以外の魔物達の姿も頻繁に見かけるようになってきた。
オークとか、イノシシ型魔物のケイブボアーや、蜘蛛型魔物のパラライズスパイダー達。
森の中に生態系があり、ゴブリン達はその中でしっかりと生きていた。
数が圧倒的で、他の魔物達を駆逐してしまっていた、入り口から中部あたりまでとはひどく対照的だ。
ゴブリンだけと戦っていたのとは違い、俺達も今までとは戦い方を変えていかざるを得なくなった。
意識外から突然襲いかかっててくるパラライズスパイダーについては特に注意が必要だった。
ゴブリン達を倒そうとしているするタイミングで、木の上からこちらに噛みついてこようと突如不意打ちを仕掛けてくるのだ。
けれど俺達は事前に大量のゴブリン達と相手取って、レベルを上げている。
その効果は遺憾なく発揮されており、道中の他の魔物達の襲撃に対しても、さして手間取ることもなくその全てを処理することができた。
番は基本的に、ざっくりとした交替で行っていく。
大体二交代勢で、二回番をして、二回寝た段階で朝が来るって感じだ。
時計は高級品なので持っていないので、ざっくりとした体内時計で変わっているが、こちらも問題は起きなかった。
そしてどうやら俺達は、レベルアップに伴って身体自体も頑丈……というか、以前より壮健になっていることがわかった。
帰って宿で寝ていた頃よりも絶対に睡眠時間も、そして睡眠の質も悪くなっているはずだ。
けれど不思議と、身体が不調にならない。
毎日街に戻っていた頃と比べても、なんら遜色のないパフォーマンスを発揮することができていた。
レベルアップの恩恵は、こんなところにもあったのである。
もっとも、毎日警戒をしながらの生活では、精神的な疲労はどうしても溜まる。
ぶっ続けで魔物のいる領域に留まれるとは言っても、やっぱり今までみたいな生活をしておいた方が精神衛生上いいだろう。
そんな生活が数日続き、どこまで先へ進めばいいのかと若干不安になり始めたときに、その兆しは訪れた。
明らかに規模の違うゴブリンの集団を、捕捉することに成功したのだ――。
(あれって……)
(ああ、明らかに変だよな)
それは今まで見てきた群れとは大きさから何から、あらゆるものが違っていた。
俺達が今まで見てきたゴブリン達というのは基本的にどこかに定住することもなく、ただ今日食べるものを探し求めてふらついている奴らだけだった。
だがそこにいるゴブリン達は、明らかに村のようなものを作っていた。
畑などはなく、簡素なあばら屋みたいなものが大量にある感じだ。
それは間違いなく、一つの集落だった。
もしかしてこれが、ゴブリン達がランブルの街を襲わない理由なんだろうか……?
大量のゴブリンを相手に下調べもせずに突っ込んでは、何が起こるかわからない。
彼我の実力をしっかり把握するため、まずは冷静に観察をしていく。
家屋の数は数十はあり、外に寝転がっているようなゴブリンもいる。
家の外にいるゴブリンや、外へ出掛けて狩りへ行っているゴブリンなども加えると……その総数は、千に届くんじゃないだろうか。
周囲には防衛のための柵が置かれており、ゴブリン達はいつ侵入者が来てもいいようにか、手近な所に手斧を持っていた。
どうやらある程度は脳みそがあるらしい。
けどこれだけ大きな規模を維持できてるとなると、やっぱり上にいるやつの頭はかなり良さそうだ。
「……」
脳裏にあの黒いゴブリンの姿が思い浮かぶ。
あいつは供もつけずに一人で俺達の下へとやってきた。
この集団を率いているようなリーダーシップを持っているんだろうか……少し違和感を覚えるが、今はおいておく。
下手にバレれば戦闘になりかねないので一旦引き、いつものようにゴブリン狩りを進めていく。
今回はあまりハイペースにはいかず、ゴブリン達を監視することに体力を費やすことにした。
そして……見つけた、あいつだ。
黒いゴブリンが集落の中に入っていく。
さすがに俺達に見られているとは気付かなかったようだ。
俺達のスニーキングの能力も徐々に上がりつつあるな。
まだ見続けていると、面白いことが起こる。
あの黒いゴブリンが、同胞のゴブリン達のことを斬り付け始めたのだ。
どうやらゴブリン達というのも、決して一枚岩ではないらしい。
あいつは数匹ほどゴブリンを殺してから、すぐに集落を出て行った。
他に追ってくる奴はいない。
いつしかと同じ、あいつが一人になったタイミングだ。
しかも今回は立場も逆転している。
奇襲をしかけることができるのは、あいつではなく俺達だ。
集落の奴らに勘付かれたら面倒なことになるが……中まで入って戦うより、一匹でうろついている今の方が、着実に勝ち目は高くなる。
行くべきか、それとも待ってより慎重を期すべきか。
アイルとアイコンタクトを交わす。
行きましょう。
彼女の目は何よりも雄弁にそう語っていた。
そして俺も、その考えに同意だ。
目の前に最高とは言えずとも、十分に素晴らしい果実があるのなら、まずはそれを採りに行くべきだろう。
俺達はあのゴブリンにバレぬよう、しっかりと距離を取りながら、戦うための準備を整えていく……。
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