ギリギリ
腹部にやってきたのは、鋭い痛み。
けど……耐えられないほどじゃないっ!
歯を食いしばると、口の中から血の味がした。
見ればポタポタと、口許から血が垂れている。
けどせっかく一撃を入れたんだ、この好機を逃すわけにはいかない。
連撃に転じるため、重心を下げる。
俺はそのまま前進し、ゴブリンキングは吹っ飛んだ勢いを利用して後退した。
結果として両者の距離は、先ほどまでとほとんど変わらぬまま。
つまりメイスの攻撃範囲内ってことだ。
ゴブリンキングを相手にするんなら、ダメージを躊躇ってはいられない。
こちらも攻撃を食らうことを前提として、コンボを組み立てていく。
振り下ろし、振り下ろし、そして大振りの振り下ろしという三連撃。
一撃目が当たった時点で、狙うは最後の三撃目をきっちりと当てること。
狙い通り、三発ともしっかりとヒットさせることができた。
高速で放つ連撃の衝撃は、先ほど同様ゴブリンキングの身体を打ち抜いているはずだ。
けど……まるで鉱石をぶん殴ってるような感触しかしやがらない!
ゴブリンキングの身体が、あまりにも硬すぎるんだ。
「グギ……」
たしかにダメージは通っている。
だがどれも……軽い。
動きが速いから、頭部や足先などの構造上弱い部分を攻撃することができないのも大きい。 このまま胴体や腿のようなデカい部分を殴りつけ続けるだけじゃ、倒せる気がしない。
けれど攻撃の手を緩めるわけにはいかない。
ラッシュを続け、コンボを繋いでいく。
こいつどんだけ硬いんだ、メイスを持ってるこっちの手が痺れてくるぞ!
「ガギッ!」
ゴブリンキングは攻撃の隙間、ぞっとするようなタイミングで一撃を放ってくる。
俺の攻撃モーションやその予備動作の間に、死角から攻撃してくるのだ。
ゴブリンキングの速度は、そこまで速いわけではない。
ゴブリンリーダーよりはかなり速いが、レベルアップした今の俺であれば問題なく捌ける速度だ。
だから問題は、こいつの耐久の高さだ。
恐らくだがこのゴブリンキングは――肉体が非常に強靱で、とにかく耐えて耐えて戦うタイプなのだ。
ゴブリンキングに関する情報にそんなことは書いていなかったが、こうして目の前にいるんだからそういうものだと考えるしかない。
ゴブリンキングは、俺がどれだけ攻撃を加えても、平然とした顔を崩さない。
そもそもこの鋼鉄製のメイスで、しっかりとしたダメージが入っているかもわからなくなってきた。
「シッ!」
「ギギッ!」
得物をかち上げて、一撃を入れる。
武器の扱いも速度も、そして腕力も俺の方が上だ。
けれどあと一歩……詰め切れない。
そのために必要なものがなんなのか、こうして戦っているとはっきりとわかった。
(得物だ……今の鋼鉄製のメイスじゃ、このゴブリンキングにまともにダメージが通せない)
たしかに今のメイスを振っていて軽いと思うことは多かった。
けどこうやって戦うまでは、そこまで重要なこととは思えなかった。
メイスを軽々と使えるんなら、その分手数やテクニックで補えばいいと思っていたからだ。 レベルアップを繰り返すことで速度もパワーも上がり、どこかのぼせ上がっていたのかもしれない。
たとえ俺がどれだけ強くなろうと、俺はあくまでも人間なのだ。
人外である魔物と渡り合おうとするのなら、己の腕力だけに頼っていてはいけない。
最良の武器と、俺の総合的な戦闘能力。
この二つを組み合わせて、なんとか魔物達を倒せる領域まで辿り着かなくてはいけないのだ。
今の俺の全力がたたき込めるような、もっと重く硬い武器を使わなくちゃ、自身の強くなった肉体をフルで使うことができない。
既に俺にとって、このメイスでは物足りないところまで来てしまっているんだ。
「ギッ!」
「はあああっ!」
攻撃を交わし、互いに傷を負いながら交差する。
そして振り向きざまに一撃、飛び上がっては体重を乗せ、かがみ込んでは溜めを作ってメイスをかちあげる。
焦燥感を強く感じる。
今の俺の装備じゃ、ゴブリンキングを相手にして勝つことはできない。
だからなんとかして、逃げる必要がある。
今はその逃走のチャンスを、なんとかして窺わなくちゃいけない。
手は抜かないように、しかしいざという時は全力で逃走できるように。
その心構えで粘っていると、絶好のタイミングがやってくる。
「ライトジャベリン!」
適宜援護をしてくれていたアイルが、ライトジャベリンを放つ。
その一撃が上手いこと、ゴブリンキングの左目に突き立ったのだ。
「ガアアアアッ!?」
この好機を逃すわけにはいかない。
「アイル、逃げるぞ!」
「は、はいっ!」
俺は少し悩んだ結果……メイスを思い切りゴブリンキングに投擲した。
失ったばかりの左目が最後に捉えていたであろう左半身を狙っての一撃は、ゴブリンキングのつま先に当たり、初めて悲鳴をあげさせる。
そして俺達はそのまま……後ろを振り返ることなく全力で逃走する。
幸いなことに、ゴブリンキングは追ってはこなかった。
けど俺はこの戦いで……己の相棒であったメイスを失うことになってしまった。
街へ行っていい武器を見つけなくちゃ。
いや、それよりも先にギルドへ報告をしなくちゃいけないか……。
俺とアイルはへとへとになって重たくなった身体を動かしながら、なんとかしてランブルへと辿り着いたのだった――。
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