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リーダー


 ゴブリンリーダーは、元々統率している群れから小勢を率いて分かれることが結構な頻度である。

 どうやらゴブリンリーダーは何か問題が起こった場合、まず最初に自分が動こうと考えるようなのだ。


 餌となる獣達の討伐なんかもしていることもあったし、群れの中で揉め事が起こった時は自分が出張り、力尽くで納得させたりもしていた。


 なので今回は、このリーダー気質を利用させてもらうことにする。





(よし、頼んだ)


(任せて下さい)


 ゴブリンリーダーが率いている群れを見つけるのは、それほど難しいことじゃない。

 既に何個も確認しているうち、俺達が目を付けたのは中でも数が特に多いグループだった。

 ゴブリンの数は目算でも数十はおり、それをまとめるゴブリンリーダーは一匹のみ。

 ゴブリンソードマンとゴブリンメイジが一匹ずついるだけで、あとは全部ただのゴブリンだ。


 こういう、いざという時にそれほど戦力にならない者達を多く抱えているグループが、ゴブリンリーダーが単独行動を取ってくれやすいからな。


 俺達は慎重に場所を選定してから、頷き合った。


(ライトアロー)


 アイルがライトアローを放ち、遠くにある腐りかけの樹木に突き立てた。

 彼女の魔法の威力は前と比べて明らかに向上しており、光の矢は樹木の半ばほどまで届く。

 そして既に内側が腐ってしまっている木は、その衝撃に耐えることができずにバキバキと音を立て、周囲の木々の枝をもっていきながら倒れた。


 その大きな音に、ゴブリン達の動きが止まる。


 そして俺達が想定していたとおり、まず最初にゴブリンリーダーがわずかな供のゴブリンを引き連れて倒木の方へとやってきてくれる。


 グッグッと、メイスの握り心地を確かめる。

 少しだけ浅い息で呼吸を繰り返し、肺の中を新鮮な空気で満たしながら、意識を切り替えていく。


 アイルがかなり遠目の木を狙ってくれたおかげで、ゴブリンリーダーはこちらに背を向ける位置取りになった。

 距離は一息の間に詰められる。


 アイルと目配せをして、手はず通りにという意思疎通を行い、無言で頷き合う。

 そして俺はメイスを構え――駆け出した。



 ゴブリンリーダーは無防備な背をこちら側に向けている。

 まずは一発――入れてやる。


「シイッ!」


「グガッ!?」


 思い切りメイスを振り上げ、背中目掛けて振り下ろす。

 こちらに気付かず、ゴブリンリーダーは一撃をモロに食らった。


 そのまま二撃目に移ろうとするが……第六感に従い、即座にその場を飛び退く。

 先ほどまで俺の身体があった虚空で、剣が空気を裂くぶぅんという音が鳴った。


 不意打ちで重たい一撃を食らっても、咄嗟の反撃ができるだけのタフネス……。

 なるほど、さすがCランクなだけはある。


 だが俺だって前はCランク冒険者パーティーの一員だったんだ。

 魔物の人外じみたタフネスを見ても、ビビったりはしないさ。


 ゴブリンリーダーは油断のない眼差しで俺の方をにらみつけている。

 持っているのは厚手の長剣で、磨かれてはいないために若干錆が浮いている。


 その柄や刀身には彫りがあり、ゴテゴテとしている。

 恐らくは倒した人間から奪った物なんだろう。


(ゴブリンソードマンみたいにはいかないか……だが何も、決して無敵ってわけじゃない)


 よく見れば、重心がかなり右側に寄っているのがわかった。

 多分だけど、無意識のうちに攻撃を食らった場所をかばうような体勢になっているのだ。

 まだ十分に動けるとはいえ、奇襲は十分に役割を果たしてくれていた。

 しっかりとダメージは通っている。


「シィッ!」


 俺が振るメイスを、ゴブリンリーダーが避けようと右へ身体を曲げる。

 身体ごと横に倒れ込むような勢いだ。

 だがゴブリンリーダーは二足歩行の人型であっても、その力は人外。


 物理的に不可能だという状態から、重心の乗っていない左足だけで身体を起こし、剣を振るおうとする。


 俺もピタリとメイスの動きを止め、方向を転換。

 振り下ろしから振り上げへと、腕の力だけでメイスを引き上げる。


 レベルが上がって強化された今の腕力なら、鋼鉄製のメイスも木の棒のように動かすことができる。


 剣とメイスが激突する。

 重量差もあり、打ち勝ったのはメイスの方だった。


 けれどゴブリンリーダーの手から剣を取り落とすまでには至らず、わずかに姿勢を崩させるに留まった。


 そのまま、メイス自体の自重を加えて再度の振り下ろし。

 狙うは下半身。


 身体を捻って勢いを付けて指向性を与え、しっかりとゴブリンリーダーを捉えられるような軌道を想定し、なぞっていく。


 ゴブリンリーダーの体勢は不安定。

 今ならばしっかりと当たるだろう……と思ったが、やはり俺はどこかで、相手を人間と想定して戦っていた。


 ゴブリンリーダーはそのまま跳躍。

 信じられないことに、膝小僧が俺の顔に当たるほどの大ジャンプだ。


「ギギッ!」


 ゴブリンリーダーは落下しながら、正眼に構えた剣を振り下ろしてくる。

 その顔にはしてやったりという邪悪な笑みが浮かんでいた。


 俺は未だ下向きに放ったメイスを振ったままで、攻撃のモーションを終えていない。


 このままだと当たると即座に判断。

 メイスを手放しながら、強引な回避軌道を取る。


 そしてメイスの槌が向かう方向へ合わせて跳躍。

 レベルアップによって上がった筋力のおかげで、俺も大分人間離れした動きができるようになってきたな。


 跳躍しながら、飛んでいるメイスの持ち手を掴み直す。


 そして地面に着くと同時、反転。


 飛び斬りを終えて上体を起こそうとしているゴブリンリーダーへと向かっていく。


 体勢を直す暇がないと悟ったゴブリンリーダーが、その体勢のまま足のバネを使って剣を振り上げる。


 対し俺は、自分の走る速度と自重、そして俺自身の腕力を重ね合わせて一撃を振るう。


 俺の放ったメイスの一撃は――ゴブリンリーダーの剣に当たり、そのまま剣を持つ腕へ激突し、最後にはゴブリンリーダーの腹部に突き刺さった。


 ドゴオォッ!


 鈍い音がこちらの耳に聞こえてくるほどの、我ながら会心と思える一撃。

 ゴブリンリーダーは口から血と唾液の混じったピンク色の液体を吐き出しながら、その身体を浮き上がらせる。


 追撃。

 二撃、三撃、四撃。

 メイスを上げて、落とす。

 ゴブリンリーダーの身体をかち上げ、地面に倒れ込んだところに上からの振り下ろし。


 身体の作りがよほど頑丈なのか、頭部に思い切り一撃を入れても頭が凹むだけだ。

 俺はまるで金属の塊でも叩いているかのような重い手応えを感じながらも、相手に反撃のチャンスを与えぬよう、徹底して無駄のない一撃を叩き込み続ける。


 時に蹴りも交えながら、周囲の様子を確認する。

 戦っていた当初俺達を遠巻きに見ていたはずのゴブリン達の姿は、既になくなっていた。


 どうやらアイルが、しっかりとゴブリン達を間引いてくれていたらしい。


 これで……ちゃんとした一対一の対決であれば、問題なく倒せるってことがわかったな。


 結果だけ見れば、俺はほとんど無傷だ……結構危ないところもあってきたから、できればもう何回かやってゴブリンリーダーの動きに慣れておきたいところだな。


 見れば遠くから、俺達の戦いの音を聞きつけたゴブリンソードマン達がやって来ている。


 その姿を見て、俺は気付けば舌なめずりをしていた。


 ……俺もマーサ達みたく、『レベルアップ』スキルで人が変わり始めているのかもしれない。

 今の俺にはやってくるゴブリン達の群れが、経験値にしか見えないし。


 俺は遠くに居たアイルとアイコンタクトを交わし、ゴブリンの群れへと休みも入れずに突撃する――。


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