社会不適合者
「なるほど……となると、やはりゴブリンキングがいそうですね」
「やっぱりそうなりますよね」
俺は今度はアイルを伴って、ギルド幹部の人へと報告へ出向き、終えた。
どうやら幹部の彼――そういえば名前はシリヌイさんというらしい――は、首に手を当てて何かを考えている。
俺は報告を命じられただけの一冒険者。
偉い人が何を考えていることまではわからないし、知る必要もない。
言われたことに従うだけさ。
「現在、ランブルの街に冒険者達と騎士団がやってきているという話は聞いているでしょうが……チェンバーさん、あなたにはそれに先んじる形で、ゴブリン達をできる限り間引いていただきたい」
「他のCランクも動かすべきでは?」
「彼らはゴブリンキングがいるという話を耳にした時点で、既にランブルからいなくなっています。正真正銘、あなただけがこの街にいるCランクです」
「それは……」
冒険者というのは危険に敏感だ。
というか、鈍感な奴から死んでいくからこそ、敏感な奴らしか生き残らない。
しっかりと目端が利く奴は、既にランブルを後にしている。
つまりは、まあ……そういうことだ。
恐らくは騎士団も冒険者も、来るまでにはまだまだ時間がかかる。
そしてそれまでにランブルが持ちこたえられる可能性は低いと、そう考えてこの街を去ったのだろう。
ああ、正しい判断だよ……クソッタレ。
――自分の身を、守る上ではな。
冒険者をやっていれば、無理や理不尽というものは多々存在している。
だから皆、そういうもんに巻き込まれないように常に些細な情報も逃さぬように注意を向けているわけだ。
冒険者なんか十把一絡げ、死んでも代わりはいる。
命の価値が低いせいで、自分では勝てないような奴に挑まなければならないような事態に陥るようなことだってあるんだ。
……正に今の俺みたいにな。
大半の冒険者は何よりも、自分の命を優先させる。
けどそれは、自分以外の全てを切り捨てるということでもある。
街に暮らす人達のことなんか気にせずに、あくまでも生き残ることの方が大事だからな。
「わかりました、受けましょう」
「……そう言ってもらえて、助かります」
そして結果として、貧乏くじを引かされるバカがいる。
この俺みたいな、な。
けれどバカな奴の中には、ごく稀にあらゆる困難を乗り上げることのできる奴がいる。
そいつをなんて言うか知ってるかい?
人はそういう類い稀なバカを――英雄と、そう呼ぶのさ。
俺の自慢の一つは、そんな英雄と一時でも共に同じ道を歩むことができたこと。
俺自身は、そんな大層なものにはなれないかもしれない。
けれど俺にだって、やれることはある。
「無理はせず、できることをやっていこう」
「はい、二人ならできますよ、きっと……いや、絶対に」
こうして俺はアイルと共に、ゴブリンの漸減を行っていくことになった――。
とりあえずまずは最初の目標を、ゴブリンリーダーを倒すことに設定することにした。
ゴブリンリーダーをなんとかすることができるかどうかは、今後のことを考えれば結構大切になってくるはずだ。
やはりゴブリンリーダーがいる群れは大きく、ゴブリンソードマンやゴブリンメイジ達の率いる群れは規模が小さい。
ゴブリンリーダーが倒せるかどうかで、ゴブリンとの戦い方は大きく変わってくるからな。
ノイエの森の中腹あたりを主な狩り場にして、俺達はゴブリン狩りを続けていく。
ゴブリンソードマンやゴブリンメイジ達の経験値は、大体10~15くらいまでで、微妙にばらつきがあった。
ゴブリンの経験値は一律で3なことを考えると、個体としての強さが経験値に直結していると考えてよさそうだった。
俺達は可能な限りゴブリンを減らしておき、余裕があれば群れ全体の規模感なんかを探ったりしていくのが主な任務になる。
指名依頼の報酬はゴブリン系の魔物の魔石を、大体相場の二倍~三倍を買い取ってもらえるのと、ノイエの森を探索する度に一定の金が入ってしてもらうという感じだ。
今回のゴブリン狩りは、ある程度注意を払って行う必要がある。
というのも、今の俺達が複数のゴブリンリーダーやゴブリンキングと遭遇した場合、まず間違いなくあっけなくやられてしまうからだ。
ゴブリンキングの知能がどれくらいかはわからないが、あまりにもゴブリンの個体数が減り続けていれば、さすがに何かがおかしいとは思うはず。
自ら出撃してそいつらをやっつけようとか考えられたら、俺達は一巻の終わりである。
それなのでなるべく俺達がどの辺りで活動しているのかを捕捉されないよう、なるべくゴブリン達と戦う場所は散らすようにしていた。
けど森は広いしゴブリンは呆れるほどに多い。
こんなにいたら、森の食料を食い尽くすんじゃないかと思うくらいに多い。
とりあえずリーダーがいないならどれだけ数が多くとも戦っていくというやり方を繰り返し、俺達はレベル上げに勤しむことにした。
そしてそろそろ魔石を入れると持ち運びがしんどくなるぞというくらいにバッグがパンパンになったところで、俺のレベルが上がった。
ちなみにそれよりも早く、アイルもレベルが上がっている。
ステータス
チェンバー レベル7
HP 78/78
MP 1/1
攻撃 30
防御 31
素早さ 16
魔法
ライト
ステータス
アイル レベル6
HP 35/35
MP 34/34
攻撃 8
防御 18
素早さ 12
魔法
レッサーヒール
ヒール
マジックバリア(小)
ライトアロー
二人とも順調にステータスは伸びている。
とりあえずゴブリンソードマンとメイジの群れくらいなら、二人で挑めば全力を出さずとも楽々勝てるくらいには強くなることができていた。
見ればわかるが、一番の大きな変化としては、アイルがとうとうヒールを覚えたことが挙げられる。
今のところ俺はレベル5で、アイルは3と6で新たな力を手に入れている。
彼女が次に魔法を覚えるのは、レベル9かもしれないな。
まだまだ先の長い話ではあるが、目標があるのはいいことだ。
俺もレベルが7になって、結構強くなった。
今では攻撃の値なんか、最初のレベルアップをする前の四倍近い。
これだけステータスが上がっていれば……やれるはずだ。
レベルアップを一つの区切りとして、俺達はゴブリンリーダーに挑むことを決めた。
さて、まず最初の目標を達成できるか。
自分の力を試す瞬間というのは、いつだってわくわくする。
こういうところで、やっぱり俺は社会不適合者なんだって実感するよな。
【しんこからのお願い】
この小説を読んで
「面白い!」
「続きが気になる!」
「応援してるよ!」
と少しでも思ったら、↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!
あなたの応援が、しんこの更新の原動力になります!
よろしくお願いします!




