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懸念

 ゆっくりと休息して次の日。

 ノイエの森は、不気味なほど静かになっていた。

 俺達は事前準備をしっかりとした上で、森の入り口からゆっくりと奥へと進んでいく。


 ポーションの用意もあり、アイルのレッサーヒールもある。

 回復手段自体はあるため、基本的な作戦は『無理せず逃げろ、命大事に』で進もうと思っている。



 森の中は、そこまで植物が密生しているわけではない。

 一応獣道が通っていて、枝を細かく伐採しなくとも進むことができるようになっている。


 恐らくはここを使う冒険者たちがやってくれているんだろう。

 これがゴブリンに利用されたりしないよう、気を引き締めなくっちゃな。





 まず最初に見つけたのは、ゴブリンの群れだ。

 中に一匹、少し格好がしっかりしている物がいる。

 一応服と思しきものを着用していて、その手には杖を持っている。

 その肉体も、周囲のゴブリンと比べると少し大きめだ。


 恐らくはEランクのゴブリン達より強いDランクのゴブリン系の魔物。


 見た目から察するに、ゴブリンメイジだろう。

 こいつはゴブリンのくせに魔法の使えるやつで、基本的には火魔法か風魔法を使うことが多い。


 昨日まではゴブリンしか居なかった地域に、ゴブリンメイジが混じりだしている。

 やはり明らかに、何か異変が起きているんだろうな。

 できればゴブリンキングじゃないと助かるんだが……。


(ライトアローでメイジを狙いますか?)


(そうしてくれ、それを合図にして俺も前に出る)


 茂みに隠れながら、音を立てぬようにそろりそろりと近付いていく。

 ある程度距離が縮まったところで、アイルが小さな声で呟いた。


「ライトアロー」


 彼女が放った魔法が、ゴブリンメイジへと吸い込まれていく。

 そしてしっかりと狙い通りに、ゴブリンメイジの眼球へ突き刺さり、そのまま奥にある脳まで貫通した。


 その時点でゆっくりと進むのを止め、獣道へ出て駆け出す。

 見ればゴブリン達は、自分達のリーダーがいきなり死んだことでパニックになっていた。


「これならっ――余裕、だっ!」


 メイスの一振りごとにゴブリンを吹っ飛ばし、潰し、腹部を陥没させていく。

 一瞬のうちに、五匹のゴブリンの討伐を終える。


 魔石だけは回収して、先へ進む。

 命の方が大事だから、今回はかさばらない程度にしておかないとな。





 歩いていると、再度ゴブリンの群れを発見した。

 そしてその中には、またも普通とは違う一匹がいる。


 今回いたのは、ゴブリンメイジと同じくDランクのゴブリンソードマンだ。

 錆びた鉄剣を鞘もなく腰に提げており、腕を組みながら何やら頷いている。


 ゴブリンソードマンは、純粋にタフで力強いゴブリンと考えればいい。


 あいつを相手にするとなると……ライトアローは使わない方がいいかもしれないな。

 首を動かして避けられたりしてしまえば、術者のアイルが危険になりかねない。


 後ろにいるアイルに、指を一本振った。

 俺一人でやる、という合図だ。


 剣を使うとは言っても、しょせんはDランク。

 オークを余裕で倒せる今の俺なら、問題なくいけるはずだ。

 一人の頃とは違って、今なら小さな傷を気にすることなく自由に戦っても問題ないしな。


 俺は少しアイルから距離を取ってから、獣道を進むゴブリンソードマン達へ向かっていく。 足音を隠さぬ全力疾走に、さすがに気付かれるが問題はない。


 ソードマンが剣を構え、ゴブリン達は石斧を構えた。


 先頭に立ったゴブリンソードマンが、引き気味に剣を構え、剣の間合いになったと判断した段階で、突きを繰り出してくる。


 じっくりと見て……まだだ、まだ早い……今っ!


 俺は突きを放ったゴブリンソードマンの剣の柄をメイスで叩く。

 剣は勢いを失い、ゴブリンソードマンは指を強かに打ち付けられたせいで剣を取り落とす。 そこを小突いてやると、ソードマンがバランスを崩してひっくり返る。


 俺を包囲する形で周囲に展開したゴブリン達が、攻撃を仕掛けてくる。

 ソードマンに打ち付けようとしたメイスを静止させ、ソードマンの胸を思い切り踏みつける。


「ギアアアァッ!!」


 そしてメイスをくるりと回転させ、即席の結界のように使う。

 ゴブリン達の得物は吹っ飛び、その持ち手を鉄塊が撫でていく。


「ギギッ!?」


「ギアッ!」


「グギギィッ!」


 ゴブリン達の攻撃が止んだ段階で、まずはソードマンの頭にメイスを一撃。

 完全に息の根を止めてやる。


 リーダーを失い統率力の欠いたゴブリン達など、敵ではない。

 向かってくるゴブリンは潰し、逃げようとするゴブリンはメイスを叩き込んで背骨をへし折ってやる。


 今回も大して問題はなかったな……と額の汗を拭うと、少しヒリヒリとした感触が。

 見れば右手の甲の当たりに、切り傷ができていた。


 どうやらゴブリンソードマンの剣を握ったゴブリンの一撃が、運悪く手に当たってしまっていたらしい。

 魔物の攻撃を受けて厄介なところは、下手に自然治癒に任せていると怪我が悪化する可能性があるところだ。


 傷が治らず化膿して、手を切らなきゃいけなくなった……なんて話も聞いたことがあるしな。

 でも今は、怪我をしても問題はない。


「お疲れ様です、チェンバーさん。レッサーヒール」


 アイルが俺の手を握り、レッサーヒールを唱えてくれる。

 初級の回復魔法ではあるが、軽い切り傷や打撲くらいならすぐに治せる。


 彼女がステータスを見ながら確認したところによると、使用するMPは2らしい。

 今のアイルのMPは24だから、12回は使える計算だな。


 ……いや、魔力ってある程度は自然回復するらしいからもっといけるか。

 なんにせよ、頼もしい限りだ。


「チェンバーさんなら、ゴブリンキングも倒せちゃうかもしれませんね」


「いや、それは無理だろ……」


 同ランク帯の魔物を倒せるようになって初めて、冒険者というのはランクアップの一歩目を踏み出せる。

 Bランクの魔物を倒せるのなら、俺達二人はBランクパーティー相当の実力があるってことになる。


 まださすがにゴブリンキングは厳しい。

 ……いけて、Cランクくらいだろうか。

 でもCランクのゴブリンとなるとゴブリンリーダーやゴブリンナイトあたりになるが……この辺は、今戦ったら勝てるか怪しいところだと思うぞ。


 だけどこの感じだと、進んでいったら……いそうだよなぁ、もっと強いゴブリン達。


 そしていつもの通り、俺の不安は的中することになる――。


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