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追放


 外れスキルっていうのは、その名の通りまったく使えないスキルのことだ。


 これにはいったい何の役に立つのかわからないもの、もしくはどんな効果があるのか判明していないものの二種類がある。


 例えば膝からちょろちょろと水を出せるようになる『膝水差し』のスキルは、生きていく上でほとんど役に立つことのない問答無用の外れスキルであり、分類としては前者。


 そして俺の『レベルアップ』スキルは、後者にあたる。


 レベルアップという言葉が何を指しているのかを、スキル授与を行っているスキル協会の人間でも誰一人として知らなかった。


 アップするということは何かが上がるんだろうが、そもそもレベルがなんなのかがわからないしな。


 だがこういうことは、別に珍しいことでもないらしい。


 スキルは膨大な数があり、その総数は未だにわかっていない。

 一日スキル授与をしていれば、何人も未知のスキルを持つ人間が現れるのもザラという話だ。


 スキルの中でも、稀少度の高いものをレアスキルという。


 つまりこのレベルアップは、今のところ俺しか持っていないこいつは紛れもないレアスキルだ。


 そしてレアスキルであり外れスキルでもあるものは、特にこのような呼ばれ方をする。


「俺のスキルは……ハズレアだったよ」


「まだ……まだ外れかどうか決まったわけじゃない! もしかしたら誰も手に入れたことがないだけの、未知の強力なスキルである可能性だって――」


 たしかにその可能性も、まったくのゼロというわけではない。

 スキルがどんなものかがわかっていないわけだからな。


 ただそれはゴミ置き場の中から、価値のある骨董品を見つけようとするくらいの確率。


 つまりはゼロではないが、限りなくゼロに近い極小の可能性だ。


 基本的にスキルを授ける神様というのは、そいつにもっとも合っていると考えるスキルを授けるらしい(当たり前だが神様基準なので、俺達人間からすれば理不尽だと思えるものもかなり多いが)。


 つまり神様は俺にこの『レベルアップ』とかいうスキルが合っていると思っているってわけだ。


 魔法も使えず、力もなく、人よりちょっとばかし耐久力と忍耐力があるだけの俺に与えられるスキル……どう考えたって、『勇者』や『神聖魔法』と並べるようなものではないだろう。


「ジェイン、無理してフォローしようとしなくていいじゃない。チェンバーは外れスキルをもらった。そしてただでさえ広がりつつあった差が、さらにとてつもないくらい大きくなった……ついていけないってわかってるんだから、さっさと抜けた方が賢明よ」


「チェンバーさん、大丈夫ですよ。これからは私たちが、あなたのことを守ってあげますから」


 マーサの言葉は直截に、そしてナルは婉曲的に告げていた。

 お前はもう、このパーティーでやっていくには力不足だと。


 そして今の俺は、二人の言葉に反対するだけの気力はなかった。

 事実、今後の彼らの戦いで、俺は絶対にお荷物になってしまう。


 ジェインのことは、勝手ながら……親友だと思っている。

 俺は最も親しい友人におんぶにだっこというみじめな生き方だけは、したくなかった。


 それにマーサとナルの二人が、既に俺はもういらないという結論を出してしまっているのだ。


 こいつらの性格を考えれば、もし残ったとしても、あの手この手で俺のことを追い出そうとするはず。

 それならさっさと抜けた方が、問題が起きずに済むだろう。


「ジェイン、マーサの言う通りだ。俺は今日でパーティーを抜けるよ」


「そ、そんな……ナル、君もチェンバーが抜けない方がいいって――」


「それを決めるのはチェンバーさん自身です。彼が決めたことを邪魔するのは、よくないことだと思いますよ」


 にこりと笑うナルに、ジェインが言葉を失う。

 二人が俺を追い出そうとしていることに気付き、自分では止められないと悟ったのだ。


 事実、俺が入る前は二人が何度も四人目のメンバーを入れては追放してきている。


 ついに俺の番が回ってきたのだということに、ようやくジェインは気付いたらしい。


「チェンバー、別れの手向けに少しだけ魔法の手ほどきをしてあげる。使えるようになるかはわからないけど……」


「それなら私も……すみません、積もる話もありますし、ジェインさんは少し離れてもらってもいいですか?」


「……ああ、わかった」


 ジェインが距離を取り、逆にマーサとナルが近付いてくる。

 二人は動きから悟られぬよう器用にこちらに顔を向けながら……笑っていた。


「惨めね、チェンバー。『勇者』スキルを手に入れたジェインは、タンク役もこなせるようになった。もうあなたは完全に用済みよ」


「今まではあなたのせいで、ジェインとの仲を進展させることができませんでした。でもこれでようやく……ポッ」


 ナルは頬を赤らめているが、その笑みが醜悪なせいでまったく魅力的に見えない。


 マーサの方はずっと俺のことを邪魔だと思っていたようで、ようやく解放されたと満面の笑みを浮かべていた。


「あなたはパーティーから追放よ、チェンバー」


「さようなら、もう二度と会うことはないでしょうけど」


 俺は二人の顔を見てこう思った。


 ……やっぱり下手に手を出そうとしなくて、正解だったと。


 こうして俺は、パーティーを追放された。

 そして大した実力もないタンクが、ソロ冒険者としてやっていかなくてはならなくなってしまったのである――。


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