いっちょ
俺はもう、ジェイン達とは関わりのない人生を歩んでいくと……それが当然だと思っていた。
けれどどうやら人の繋がりっていうもんは、そう簡単にはなくなるものではないらしい。
Aランクに届く、か……。
どうやらジェイン達も、元気にやってるらしいな。
「あいつらは今そんなことになってるんですか?」
「ええ、なんでもサラマンダーの番を討伐したとかで、色々と騒ぎになっていましたよ」
そりゃ元から強かった奴らが、自分の戦闘スタイルにこれ以上ないっていうスキルを手に入れたんだ。
大抵の奴らは敵にはならんだろう。
にしてもそうか……あいつらはマジでSランクに届きそうなんだな。
『僕達『暁』は四人で一つのパーティーだ。誰一人欠けることなく、頂点を目指す』
『天授の儀』を受ける前のジェインの言葉が、ふと頭をよぎった。
本当に頂点が見える位置にいるジェインと、オーク討伐ばかりして暮らしている俺……別れる前より、差は広がっちまったみたいだな。
「うちの冒険者として働いてもらう以上、一定以上の水準を超えている人達の来歴は把握しております。なのでチェンバーさん、あなたに白羽の矢を立てたのです」
「……俺が居た頃は『暁』はまだCランクでした。それに俺は外れスキルを手に入れて追い出されたんですよ。正直なところ、ギルドの期待に応えられるとは思いません」
「いえ、誠に遺憾ですが……現在、ランブルで唯一のBランクパーティーが遠征に出掛けておりまして。Cランクパーティーは居るのですが、彼らはゴブリン退治など下に任せておけばいいと乗り気ではなく……」
そして結果として、CランクではあるがDランクのアイルと組んでいるこのチェンバーさんが選ばれてしまったわけか。
クソッタレ……と悪態を吐きたいのはやまやまだが。
ニャッコを始めとして、この街で何人か知り合いもできた。
彼らを見捨ててどこかへ逃げるっていうのが、一番利口ではあるんだが……あいにく俺はバカだ。
冒険者っていうのは、利口じゃなくても許される仕事なんでね。
「依頼内容は偵察、ですよね?」
「はい。ランブルを治めるヴェリド子爵の騎士団が、現在こちらへ向かっております。彼らの編成が終わる前に時間を稼げるよう、何人かの冒険者に声をかけてもいます。チェンバーさんには、彼らが速やかに討伐任務を行うことができるよう、事前の情報収集をお願いしたいのです」
何もゴブリンの殲滅を依頼されたわけじゃない。
けど情報収集とは言っても、ゴブリン達の規模を確認するんなら、相当奥深くまでいかなくちゃ厳しいはずだ。
やっぱり俺にはちと荷が重い気がするが……実はこれは、俺にとってもメリットがある。
それは俺が『レベルアップ』スキルを誰にも知られることなく、強力な魔物達と戦えるというメリットだ。
レベルアップをすると傷が治り、MPが全回復するという特性上、恐らく今後俺とアイルはあまり人目につかないような場所を選ぶ必要がある。
その条件に、このゴブリン達の偵察は、正にぴったりなのだ。
ゴブリンキング以外のゴブリン達は、一番ランクの高いものでもC。
レベルアップを重ねて強くなった今の俺であれば、問題なく倒すこともできるはずだ。
それにこの街の危機に何もしないでいられるほど薄情じゃない。
この依頼……受けさせてもらおう。
アイルを連れていくかどうかは……要相談、だな。
「わかりました、受けますのでその分報酬は弾んで下さい」
「……助かります。今回はこのような形になってしまい、大変申し訳ございません」
正直なところ、謝られたところで何も変わらないが……多分この人もギルドマスターとかに扱き使われて大変なんだろう。
中間管理職の苦痛の種を増やす趣味もないので、俺は黙って部屋を出た。
アイルには何も言わず、ギルドを出る。
人のいない場所を探していると、広場の一画に誰もいないところがあったので、そこでざっくりと事情を説明した。
アイルが答えを出すまでにかかった時間は、一瞬だった。
「私も行きますよ」
「その方が助かるけど……いいのか? 多分、かなり危ないぞ」
「そんなところにチェンバーさんを一人で行かせるわけにはいきません! ――チェンバーさん言ってたじゃないですか、俺達はパーティーだって。一人で格好つけて死なれちゃ困ります。私もまだまだ、強くならなくちゃいけないんですから!」
彼女が覚悟を決めているのなら、俺に言えることはない。
――よし、それならいっちょやってやるか。
二人でレベル上げがてら、ゴブリン達を偵察しに行こうじゃないか。
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