前を向け
今日はゴブリン狩りをすることにした。
ここ最近、ゴブリンを倒すための常駐依頼の値段が徐々に上がってきているのである。
最初は二体で銅貨一枚プラスだったのが次には四体で三枚プラスになり、そして今では一体で一枚のプラス。
元々の依頼が銅貨二枚だから、報酬が単純計算で1.5倍になったわけだ。
銅貨三枚でもオークと比べれば美味しくはないが、それでも塵も積もればというやつだ。
どちらかと言えばゴブリンは群れになって移動することも多いし、一概に儲からないってわけじゃないし。
ランブルのざっくりとした位置取りを説明すると、南に森、東に草原、北に荒野、西に山脈がある。
それぞれを抜けていった先に別の街がある形だな。
ちなみに俺は、一番往来も多く道ができている草原を抜けてやってきている。
ゴブリンの目撃情報が最も多いのは南にあるノイエの森だった。
俺達は森の中を、ゆっくりと歩いていく。
もちろん先頭が俺で、その後ろからアイルがついてくる形だ。
とりあえず俺達のパーティーの場合、とにかくアイルがやられないことが大切だ。
アイルもゴブリンをまけるくらいの逃げ足はあるので、いざという時は彼女だけでも逃がさなくてはいけない。
俺一人なら、ゴブリンならどうとでもなるしな。
「五匹か……とりあえず俺一人で行く」
「はい、いざという時はマジックバリアで支援しますので」
ゴブリン達が俺らを見つけるよりも、俺達があいつらの存在に気付く方が早かった。
最近、前よりもなんというか……感覚が鋭くなってきてる気がするんだよな。
俺の勘違いじゃなければ、遠いところの音も以前よりはっきりと聞き取れるようになっている。
だって足音から敵の数を察知なんて、前まったくできなかったし。
もしかするとレベルアップで上がるのは、ステータスにあるものだけじゃないのかもしれないな。
「グギャッ!」
「「ギイッ、ギギィッ!」」
ゴブリン達が俺がやってきたことに気付く頃には、既に距離はあとわずか。
向こうが迎撃態勢を整えるよりも、俺がメイスを振るう方が早い。
「おらっ!」
メイスが暴風のように荒れ狂い、ゴブリンの身体を凹ませていく。
レベルが5まで上がると、もう鋼鉄のメイスであっても重量感が足りなくなってきている。
攻撃の数値だけ見れば、最初の倍以上にはなってるからな。
ステータスを出してない頃は、攻撃の値は二桁だったわけだし。
ゴブリンがこちらに剣を振るよりも、俺がメイスを振るう方が速い。
結果向こうは何もできぬまま、俺のメイスに吹き飛ばされ、死んでいく。
ひしゃげ、断末魔さえ上げられぬまま死んでいくゴブリン。
戦いは実際は数十秒もせずに終わった。
しかもその時間の半分近くが、逃げようとするゴブリン達を追いかける時間だ。
……さすがにゴブリンだと、もう物足りないんだな。
改めて自分が強くなったことを実感し直してから俺は……頭を抱えた。
「まずった……多分魔石ごと粉々だ、これ……」
オークだと全力でバカスカ叩いても問題ないんだが、脂肪や肉の少ないゴブリンだと、体内の魔石が壊れてるはずだ。
上手いこと首に当てられたのは二匹だから……残り三匹分は、おじゃんだな。
『テレレレッ!』
お、天声だ。
ということはアイルのレベルが上がったんだな。
アイルは……結構遠くにいるな。
なるほど、天声は遠くても聞こえるのか。
多分頭の中に直接語りかけてるとか、そういう感じなんだろうな。
『レベルアップ! アイルのHP、MPが全回復した! アイルのレベルが3に上がった! 攻撃が+1、防御が+3、素早さが+2、HPが+1、MPが+5された!』
いつものようにステータスアップを告げる声が流れてくる。
アイルはMPの伸びがいいな……うらやましい。
やっぱり人の適性によって、上がり幅って決まってるんだろうな。
俺はレベル5になっても、MPは1のままだし。
いつもならここで終わるのだが、今回は違った。
天声が終わる時はなんとなくわかるのだが、その感覚がやってこなかったのだ。
ということは……。
『アイルはライトアローを覚えた!』
――なるほどな。
レベルを上げると、新たな魔法を覚えるパターンもあるのか。
ライトアローは初級光魔法だが、立派な攻撃魔法。
これでアイルも、戦闘に加わることができるようになりそうだ。
「チェンバーさーんっ、見て、見て下さいこれっ!」
アイルが興奮気味に、大声を上げながら走ってくる。
ここは森の中でまたどこからゴブリンが出てくるかわからないんだが……まあその気持ちは、俺もわかるけどさ。
魔法が使えるようになる嬉しさは、俺も少し前に味わったし。
やってきた彼女が、ふんすと鼻から息を吐きながらステータスを見せてくる。
ステータス
アイル レベル3
HP 28/28
MP 19/19
攻撃 6
防御 14
素早さ 9
魔法
レッサーヒール
マジックバリア(小)
ライトアロー
「すごいですね、このスキル……本当に、なんでもありじゃないですか」
「ああ、俺もそう思う」
「私、攻撃魔法は才能なくて、まったく使えなかったんですよ」
「おう、俺も魔法が使えるようになったぞ……ライトだけだけど」
とりあえず興奮して縦揺れしているアイルを落ち着かせ、一旦木陰に隠れる。
彼女は明らかに魔法を試してみたそうにうずうずしていた。
周囲に敵がいないのを確認してから、俺が人差し指と中指を、ビシッと木の方へ向ける。
アイルはうんと一つ頷いてから、
「ライトアロー!」
アイルの顔のあたりがピカッと光ったかと思うと、その場に一本の光の矢が生まれていた。
胴体部分は鉄の棒みたいな円柱型で、先端が鏃のように尖っている。
ライトアローは中空に留まっていたかと思うと一直線に木へと飛んでいき……そして突き立った。
さっきの長さから考えると、そこまで奥まで入ってはいない。
樹皮と木の一部分を、突き立つくらいにえぐれる威力か。
であれば、ゴブリンの目とかに当てれば一撃で倒せそうだな。
多分スライムも、狙いを上手く定めてしっかり核を狙えば身体は貫通できそうだ。
「すごい……本当に使えました」
「結構威力高いんだな。俺の知ってるのはファイアアローとかだけど、ここまでの威力はなかったぞ」
「え、そうなんですか? すみません、離れてるのでどうなってるかまでは詳しく見えなくて……」
アイルに説明をしながら、木へと近付いていく。
彼女が目視できるような距離になった時には、既にライトアローは消えており、空けられた穴だけが残っていた。
「これは……私が知っているライトアローより、ずっと威力が高いですね」
「やっぱりな」
「やっぱり、ですか?」
「多分このレベルアップ、実際に出ている数値以外も上がってるんだ。隠しステータスとでも言うべき値が何個かあるんだと思う」
上がれば鋭敏になっていく感覚とか、上がるほど魔法の威力が上がっていく魔法攻撃みたいな値が、多分隠れてるんだと思う。
そう考えれば、色々と各種能力が向上している俺達の現状についても説明がつく。
「改めて言いますけど、本当になんでもありですね……」
「だなぁ。そもそもスキルの効果を他人に分けられる時点で大分おかしいし」
このスキルは――間違いなく能力のイカれている、いわゆるぶっ壊れスキルというやつだ。
外れスキルだなんてとんでもない。
当たりも当たり、大当たりだろう。
自身全能力値を、魔物討伐することでレベルを上げることで向上させていく。
その過程で新たな能力が目覚めたり、魔法が使えるようになったりもする。
そして四人という人数制限こそあるものの、パーティーメンバーにまでその効果を及ぼすことができる。
更にレベル上げを終えたら、パーティーから抜いても、上げたレベルは下がらない。
俺はこの世界中の人間のレベルを、上げ放題ってことだ。
神様は、『レベルアップ』スキルが一番俺に合っていると思ったから、こいつを俺にくれた。
ってことは俺は……誰かを強くするのに向いてるってことなんだろうか。
……もしこの俺の、仲間をレベルアップする力が手に入るまで、ジェイン達と一緒にいられたら。
俺は今も、『暁』のメンバーとしてやっていけていたんだろうか。
ふと、そんなことを思ってしまった。
「チェンバーさん、どうかしましたか?」
「……いや、なんでもない」
ありもしない仮定の話に意味はない。
首を大きく振って、そんな起こるはずのない未来のことを頭から落とした。
「――俺達は今、できることをしなくちゃな」
「ですですっ!」
「とりあえず、俺はそろそろここらの狩り場じゃレベルが上がらなくなる。アイルのレベル上げが終わったら、場所を移そう。これからどんどん強い魔物と戦うことになるぞ……わくわくするな!」
「全然わくわくはしませんけど!?」
過去は振り返らず、今を見つめて。
前を向いて歩いていこう。
もうこれ以上の差を、あいつにつけられないように。
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