言ったそばから
アイルには光魔法の才能があるが、彼女は攻撃魔法を使えない。
なので二人で強くなるとは言っても、戦い方は今までのままでいこうということになった。
ただ、今回は戦いは一回引き揚げて、ランブルへ戻る。
アイルの神託で正確な数値を出して、検証していかなくちゃいけないからな。
しばらくの間は、アイルとの飲み会は継続になりそうだ。
アイルは仕方ないですねとは言いながらも、結構ノリノリだった。
俺は彼女に、飲んべえの素質があると睨んでいる。
「ピコン! チェンバーのレベルアップに必要な経験値は残り276、アイルのレベルアップに必要な経験値は残り35です!」
アイルが相変わらずまったく酔いを感じさせないはきはきとした言葉で、神託を告げてくれる。
これで、レベルアップに必要な経験値が倍々ゲームになっていくという予測の信憑性が、更に高まったな。
多分だけどアイルも今後は、40→80→160……という風に必要な経験値が増えていくことになるだろう。
そしてもう一つわかったのは、とりあえず経験値っていうのはそれぞれに別途で与えられるものってことだ。
アイルをパーティー編成してからレベルアップするまでに俺達が倒したオークの数は5。
つまり経験値としての合計は25。
そしてその値は、俺の経験値からわかるように、俺達それぞれに25ずつ振り分けられている。
それなら仲間は増やし得ってことになるな。
レベルアップが遅くなるようなこともないんなら、俺としても抵抗なくパーティーメンバーを受け入れられるし。
パーティー編成の上限は今のところ4人だから、なるべく早い段階であと2人見つけた方がいいかもしれない。
もちろんする前には、アイルに相談しなくちゃいけないが。
あ、そうだ。
どうせならアイルの意見も聞いてみるか。
「アイルは新メンバー加入についてどう思う?」
「新メンバー……ですか?」
「ああ、どうせなら序盤から仲間が居た方が、レベルが上がるのも――」
「シッ! チェンバーさん、もうちょっと声のボリュームを落として下さい!」
酒場にいる時の彼女にしてはいやに真面目に、キリッとした顔をするアイル。
もしかして酔ってないのか……?
あれか、前にジェインから聞いたことのある、女の子は意中の相手には酔ったフリをするとかいうあれなのか……?
ということはアイルは俺のことが好き……?
アイルは俺の口を塞ごうと手を前に出すが……テーブルを向かい合わせに座っているので、距離が足りなかった。
そして次にアイルは、なんとか頑張ろうとんーんー言いながら腕を伸ばす。
だが筋を痛めたのか、目を大きく開いてプルプル震え出してからテーブルに突っ伏した。
……前言撤回。
アイル、めちゃくちゃに酔ってる。
モテない男の勘違いをするところだった、危ない危ない。
少しして、痛みがなくなったらしいアイルが、今度はテーブルをぐるっと回ってきてこちらに近付いてくる。
そして彼女は眉間にしわを寄せながら、俺の耳元で囁いた。
「チェンバーさん、あなたの持っているスキルのこと、他の人にあまり言わない方がいいかもしれません。仲間を増やすのも、しばらくは止めておいた方がいいと思います」
「どうしてだ? せっかくだし早い段階で一緒に居た方がレベ……そんな顔するなって、わかったから。えっと……成長していく速度は上がるだろ?」
俺がレベルアップと言いそうになるのを、アイルは目線で制した。
彼女はそれでいいのだという顔をしてから、
「その成長速度が上がる、というのが問題なんです!」
「……そうか?」
パーティーメンバーが強くなれるのなら、それに越したことはない……いや、そうか。
「俺の力が広まれば、俺はただ成長を促進するためのアイテム扱いされかねないわけか」
パーティー編成は、俺以外のメンバーであれば任意でパーティーから外すこともできる。
そしてアイルに動いてもらって身体の感覚を聞いた限りでは、パーティーを抜けても、上がったレベルは下がらない。
つまり俺と一緒に行動をしてサクッとレベル上げをして抜けるような輩がいても、そいつらのレベルは上がったままになる、ということだ。
「たしかに利用方法なんか、いくらでも考えつくな」
「でしょう? ですからむやみに吹聴しないのが吉です」
ちょっと考えただけでもわかる。
例えば俺が騎士団なんかに目をつけられれば、毎日色んな奴らのレベル上げを手伝わされ、最強の騎士団を作れと馬車馬のように働かされるだろう。
冒険者ギルドに目をつけられても同様だ。
色んな奴らのレベルアップを手伝わされることになるのは間違いない。
レベルアップに必要な経験値はどんどんと増えていく。
それなのに皆のレベル上げを手伝っていては、俺のレベルアップの方が遅々として進まない。
それじゃあジェインに追いつけないし、追い越せない。
俺には立ち止まっている暇なんかないのだから。
「とりあえずはアイルと2人でやっていった方が良さそうだな」
「はいっ、その通りですっ!」
何が嬉しいのか、アイルはにこにこと笑っている。
そして回っていない呂律で、おかわりを注文していた。
明日になってから、財布の軽さに泣いても知らんぞ。
でもそうか……たしかに仲間を足すのは慎重にならなくちゃいけないな。
パーティーメンバーを強くするためには俺の力の説明をせざるを得ず、そしてその新たなメンバーは俺の力のことを他人に言わないような人じゃなくちゃいけない。
だとするとアイルが最初にパーティーに入ってくれたのは……幸運だったな。
彼女は今は酒の魔力に溺れているが、こんなんでもきっちりしているところはしているし。
「いっそにがんがん、レベルあげてきましょー! おーっ!」
「おま、言ったそばからっ――」
俺が急いでアイルの口を塞いでやると、彼女は声を出して笑う。
……最初の仲間が彼女で、本当によかったんだろうか。
そんな疑問を浮かべる一日になった――。
【しんこからのお願い】
この小説を読んで
「面白い!」
「続きが気になる!」
「」
と少しでも思ったら、↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!
あなたの応援が、しんこの更新の原動力になります!
よろしくお願いします!




