崩壊
「あんたもダメ、追放よ――」
マーサの言葉に、また一人の冒険者が『暁』を去っていく。
彼女達が追い出したのは、チェンバーを追放してから既に五人目だ。
相当なペースで追放を続けているのは、マーサ達の要求値があまりに高すぎるためなのは言うまでもない。
だがそもそもの話、『火魔法(極大)』と『神聖魔法』と『勇者』に並ぶスキルか、技術を持つ人間が、果たしてソロのままいるなんてことがありえるのか。
よしんばいたとして、明らかにマーサとナルに問題のある『暁』へ入ってくれるのか。
一人また一人と『暁』を去っていくたびに、ジェインの中にあった疑念は大きくなっていった。
『暁』のランクはBへと届こうとしていた。
スキルを授かった彼らの実力は、既にAランクパーティーと比べても遜色はない。
ギルドへの貢献度や、早すぎる昇進ができないギルドの制度のせいで、未だCランクに留まっているだけだ。
そう遠くないうちにランクは上がってくれるはずだ。
(でもこれで、本当にいいのだろうか)
実力はある。
それこそ三人でもBランクの魔物を倒せるくらいの実力が。
だが逆に言えば、『暁』には実力以外の全てが欠けている。
自分達には、実力しかなかった。
先輩冒険者への敬意であったり、依頼主への細かい配慮であったりと様々だが、今はジェインが一人でなんとかしているが……これもいつまで続くかはわからない。
いなくなってから気付いたが、こういった方面への配慮はチェンバーが必ず行ってくれていた。
今はその分の仕事がジェインに更にのしかかっている状態なのだ。
ジェインは最近、以前にも増して疲れを感じるようになっていた。
戦闘に関する疲れは、『勇者』スキルのおかげもあってかそれほどではない。
倒す魔物は以前より強くなっていたが、戦うことによる疲労は以前と比べると減っているだろう。
だから彼が感じているのは、精神的な疲れだ。
慣れない相手と話をしたり、パーティーを組んだり、また追い出したり、マーサ達の面倒を見たり……。
ジェインはいつにも増して、酒を飲むようになった。
以前は酒に逃げる大人を笑っていたが……今では自分がそんな、なりたくないと思う大人になってしまっていた。
そしてそんな負担を分け合える人物は、『暁』の中にはいなかった――。
Bランクに上がったのは、それからすぐのことだった。
以前は冒険者のトップを目指して、その階段を駆け上がることが何よりも楽しかった。
けれど今は、ランクアップして金色になった冒険者プレートを見ても、何一つ興奮しなかった。
その輝いたプレートを見て、ジェインの中にあった何かが、ブツンと千切れる音がした。
ジェインはマーサとナルに彼女達の分のプレートを配ってから、テーブルに座らせる。
「ごめん、マーサ、ナル。もう限界だ」
「限界って……」
「どういうことですか?」
「僕は君達二人を追放する。『暁』は解体して、しばらくはソロでやっていくよ」
二人はそれはもう散々にわめいた。
だがジェインは彼女達と取り合わなかった。
何を言われても、その言葉はジェインの心には響かなかった。
彼を打ち負かしたのは強力な魔物ではなく、煩雑な人間関係だった。
自由を求める冒険者が、人との関わりに縛られることの愚かしさを、改めて感じていたのだ。
ジェインはもう一度自由になりたかった。
次こそは、付き合う相手は自分で選ぼう。
彼はそう、心に誓った。
「それじゃあ、またいつか」
ジェインは踵を返し、背を向けたまま右手を上げた。
そんな彼の鎧を、二人がきゅっと掴む。
その女の子らしい仕草にも、今はまったくなんとも思わなくなっていた。
「ジェインは……ジェインはもう、新しく組む相手は決めてるの?」
「決まっていないのなら、まだ私達にだってチャンスはありますよね!?」
二人から離れたいというのが第一で、それ以外のことは考えていなかった。
ジェインは少し悩んでから、パッと二人の手から逃れる。
そしてギルドのドアを開きながら、後ろを振り返った。
「――チェンバーなんかと組むのも面白いかもしれないな。次は実力じゃなく、もっと人としての相性でメンバーを選ぶよ」
バタン、とドアが閉じられる。
後にはマーサとナルだけが取り残された。
ランブルの街で追放された少女は、一人の少年に救われた。
けれどアングレイの街に、二人を救ってくれる人物は現れなかった――。
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