よろしく
俺は気が付けば、アイルの肩を強く掴んでいた。
レベルアップまでの経験値――間違いなく彼女はそう言っていた。
経験値とはなんだ。
何故『神託』でレベルアップという言葉が出てくる。
疑問はいくつも浮かんできたが……今はそんなことはどうでもいい。
今一番大切なのは、俺の今後の冒険者生活のためにはアイルという存在が必要だということだ。
経験値は、レベルアップまでに必要なものを具体的な数値にしたものだろう。
それがわかってるとのわかってないのとじゃ、やる気とか成長効率とかがまったく違ってくるはずだ。
このチャンスを逃してはいけない。
そもそもソロで行くことに限界を感じてもいたし。
同じ追放されたもの同士、傷の舐め合いじゃないけれど、一緒に行動をしたっていいはずだ。
「俺には君が必要なんだ!」
真っ直ぐとアイルの目を見つめ、必死に頼み込む。
「え、えっと、その……」
アイルはなんだかどぎまぎして、あっちを向いたりこっちを向いたりと忙しない。
彼女は着ている修道服をにぎにぎしながら、ちらっとこっちを向いた。
ほら、見てくれ!
俺のこの曇りのない眼を!
「はうっ!」
アイルは胸を押さえて倒れそうになる。
俺は急ぎテーブルを周り、彼女を支えるために抱えた。
「はひっ!」
するとアイルはまるで一本の木材のようにピーンと伸びて、それからしなしなと倒れ込んできた。
「どうかな」
顔を寄せて聞いてみると、アイルは目を見開いてから顔を真っ赤にして、ぷいっと逸らす。
そして小さな声で、
「よ、よろしくお願いします……」
と呟いた。
次の日。
早速パーティーを組んだ俺達は、草原にやってきていた。
道中、俺のスキル『レベルアップ』についての説明を行った。
そして俺のレベルアップの状況を知るために、アイルの『神託』スキルが必要不可欠なんだと懇切丁寧に説明した。
だがなぜか、俺が力を入れて説明すればするほど、彼女のテンションは下がっていった。
いったいどうしてだろう……相変わらず女の子の心というのは理解するのが難しい。
君が必要なんだという言葉がいけなかったんだろうか。
「はぁ、まあなんとなくそんな気はしていましたけど……」
俺の方を恨みがましい目で見てくるアイルから視線を外し、魔物を探すのに意識を集中する。
探索してしばらくすると、ゴブリン達の姿が見えてきた。
ゴブリンは盾を持っているわけでもなく、手にしているのは粗末な石斧だけ。
メイスと盾を持っている相手の敵ではない。
おまけにゴブリン自体、それほど高度な技が使えるわけでもない。
まず石斧の一撃を受け流し、その後の隙を突いてメイスでぶん殴る。
その行程を三回繰り返すだけで、ゴブリン達は全滅した。
「……とまあ、俺の実力はこんな感じだな」
「十分すぎるほどに強いと思いますけど……」
「まあゴブリンやオークを倒すくらいなら、問題はないよ。けどオーガと戦えば盾に傷ができるし、当たり所が悪ければやられかねない。今の力はあくまでもそこそこって感じだ」
「なるほど、でそれを解決するものこそが、さっき説明してくれた『レベルアップ』ってことですか」
「そうなるな」
男として生まれた以上、強くなりたいというのはもちろんある。
けれど今はそういった元々持っていた強さへの渇望とは比較にならないくらい、強くなりたいと思っている。
それはきっと――ジェインとこれ以上距離を離されたくないから。
できれば前みたく、またあいつの隣で……いや、違う。
あいつを追い越すことができるくらい、強くなりたいんだ。
ただ戦って日々の糧を得ているだけじゃ、ジェインには追いつけない。
あいつ以上のペースで走るためには、この『レベルアップ』をしっかりと使いこなさなくちゃいけないんだ。
友達に見栄を張りたい、男心ってやつなのかもしれない。
だから全然、笑ってくれていいんだぜ。
「いえ、笑いませんよ。そんな友達がいて、チェンバーさんは羨ましいです」
「ありがとう、あいつに出会えたことは、たしかに俺の一番の幸運かもしれないな」
「私、友達全然いませんから……友達だと思ってた人達には、追放されちゃいましたし……えへへっ……」
笑っているアイルの顔は、どこか寂しげだった。
無理して笑みを浮かべてるのが丸わかりだ。
メイスを地面に置いて、そっと彼女の頭を撫でてやる。
そしてそのまま手を、彼女の目の前に持っていった。
「友達がいないなら、作ればいい。今日から俺達、友達になろうぜ!」
「あ……ふ、ふつつか者ですが、よろしくお願いしますっ!」
こうして俺はパーティーメンバーと友達をいっぺんに手に入れてしまった。
待ってろよ、ジェイン。
スロースターターかもしれないけど……俺は絶対、お前に追いついてやるからな。
「アイル、俺達は――ズッ友だ!」
「友人ランクアップ、早くないですか!?」
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