遭遇
迷宮都市フィルロスにある迷宮は合わせて三つの種類がある。
まず一つ目が、迷宮都市の外縁に位置しており、金のない子供達や貧民なんかが小銭稼ぎのために入ることも多い小迷宮。
二つ目が商業区と呼ばれる商人達やある程度裕福な層が暮らしている中迷宮。
モグリの冒険者では入ることができず、迷宮冒険者をやっていくのはここに入ってからが本番と言われているらしい。
そして最後が、強力な魔物達が多数出現するとされている大迷宮。
ここまで行けば出てくる魔物達自体が相当強力らしく、八つある大迷宮のうちのほとんどが最奥まで踏破されていないらしい。
当然ながら俺達が目指すのは大迷宮の完全制覇だ。
だが上ばかり見ていては足下が掬われる。
一歩ずつ着実に進んでいくつもりだ。
足踏みをせずに進み続ければきっといつか、あいつに並ぶこともできるはずだから。
「よしそれじゃあ……小迷宮の踏破を祝して、乾杯!」
「乾杯!」
「めぇ~~っ!」
小迷宮を一日で踏破した俺達は、そのお祝いを兼ねて商業区にある食堂で打ち上げをすることにした。
小迷宮は合わせて六つあるが、そのうちの三つをクリアすれば中迷宮へ向かうことができる。
ちなみに同様に大迷宮に行く時は、七つある中迷宮を五つ以上クリアする必要がある。
いちいち小悪党みたいなやつらに絡まれる外縁区はあまりに治安が悪かったので、さっさと活動拠点をこっちに動かせて助かったぜ。
「しっかし、人を殺しても罪に問われないとか治安が終わってないか?」
「一応フィルロスとしては、商業区より内側が都市だという認識らしいですからね」
初めて外縁区に行った時に俺達は問答無用で襲われた。
下手に罪に問われたりしたら面倒なので殺さずに気絶させて放置したわけだが、後で調べてみるとあそこで返り討ちにしてもなんらお咎めは受けないらしい。
どうやら迷宮都市を収めている領主からすると外縁区は領地外なので無視を決め込んでいるということらしい。
外縁区は衛兵もいないし、官憲も機能していないマジモンの無法地帯だ。
何をしても許されるという世紀末っぷりには、流石に笑うしかない。
ちなみにあれからも何度も襲撃を受けたが、俺達は一応殺しはしていない。
盗賊なら容赦なく殺すんだが、あそこだとあれが日常茶飯事らしいからな。
独自の社会ができているんだったら、俺達が下手に壊してしまわない方がいいだろうという判断だ。
まあそんなに長く居るつもりもなかったしな。
「しっかし……ずいぶんと様子が違うよなぁ」
辺りを見渡すと、やはり外縁区と比べると落ち着いている。
商売熱心な商人が多かったり、武具を持っている冒険者が闊歩したりはしているものの、まるで別の街に来たかのようだ。
「めぇ~」
「しかもメイ用のごはんまで用意してもらえるしな」
「ありがたいですねぇ。人間用の味付けだとメイちゃんの身体に悪いでしょうから」
「魔物だし平気な気もするけどな」
俺達がいるのは、『レッドビー』という喫茶店のテラス席だ。
ここから見える入り口横の看板には、犬のようなマークの上にでかでかと丸が描かれている。
どうやら商人の中にはペットを連れている人間が多いらしく、少し高級なところのテラス席であれば、従魔のメイを連れて店に入ることができるのだ。
とりあえずこの商業区で活動している間は、メイを連れて歩いても問題なさそうだ。
「中迷宮では歯ごたえのあるやつらと戦えるといいんだけどな」
「たしかに、小迷宮は弱い魔物ばかりでしたもんね」
小迷宮に出てくる魔物は雑魚ばかりだった。
ゴブリンやホブゴブリンなんかがメインで、最奥にいるというボスですらリザードマンやオークといった感じだ。
ワイバーンなんかとも戦った俺達からすると、正直物足りない感は否めない。
ほとんどぶっ続けて戦ってたけど、誰もレベルが上がらなかったしな。
「明日は情報を集めたらそのまま中迷宮に潜ろう。なるべく色んな魔物と戦っていくつもりだからよろしく頼むな」
「はい、わかりました」
そもそも俺が迷宮都市にやってきたのは、迷宮で多種多様な強敵と戦うため。
というか、もっとあけすけな言い方をすれば、レベルアップに効率のいい魔物を探すためだ。
Bランク冒険者にはなることができたが、俺はまだあのゴブリン討伐の時のジェインの強さには届いていない。
とにかくレベルを上げつつ大迷宮を完全攻略した頃には、あの頃のあいつくらいにはなれてると思うんだけどな。
「よし、それならそろそろ宿に……」
「おいてめぇっ、待ちやがれッ!」
会計を済ませて店を出ようとする俺達の前に、突如として小さな影が現れる。
そしてその影はものすごい勢いで俺達を脇を通り、そのままどこかへ消えてしまった。
「は、速っ!?」
アイルが驚くが、俺も内心ではかなりびっくりしている。
素早さをかなり上げているはずの俺ですら、まともに姿を捉えることができなかった。
今のは、一体……。
俺達が呆然としていると、どうやら先ほどの影を追っていたらしい冒険者達がやってきた。 かなりやりそうな剣士の男がこちらに駆け寄ってくる。
「おい、今やつを見なかったか!?」
「やつって……あの影のことだよな? 俺達の脇を抜けてあっちに行ったぞ」
「そうか、助かる!」
急いで駆ける冒険者の背中を見ながら、首を傾げる。
犯罪者の捕り物……にしては衛兵達の姿がないのが気になるな。
どうやら商業区にも色々なやつがいるようだ。
……まあ、迷宮以外に用のない俺達には関係のない話か。
アイルとメイと一緒に宿へ戻り、その翌日。
俺達は早速中迷宮に挑戦し……そして再び、あの影と出会うのだった。
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