軽々
レベルアップを繰り返して肉体が強靱になったことで、今の俺は普通に人間をやめている膂力を持っている。
リンゴを握りつぶすくらいのことは朝飯前にできるし、こないだ試した時はゴブリンの顔をぶん殴って破裂させることとかもできた。
ただ、そのせいで若干困ることもある。
――手加減をするのが、大変なのだ。
「な、なんだこいつ……うごおっ!?」
「あぐっ……とんでもなく、強えぇっ!?」
トールを振り下ろし、インパクトの瞬間に力を緩める。
どうやらまだ手加減が甘かったらしく、攻撃を食らった男達は勢いよく吹っ飛び、路地裏の壁にめり込んでいた。
「殺しても問題ないか聞くまでは、あんまり派手に動くのもなっ!」
何度か盗賊退治はしたことがあるので、今更殺人への忌避感があるわけではない。
けれど人殺し犯として手配されて逃亡生活を送るのはまっぴらなので、一度詳しい事情を知るまでは殺しは控えるつもりだ。
あのめり込んだやつら、死んでないといいんだがな……まあ一応装備はつけてるし、大丈夫だろ。
襲ってきた男達は、一応全員が粗末ながらも革鎧を身につけていた。
小迷宮でも生計が立てられないくらいの小粒揃いなのか、あるいは冒険者から剥ぎ取ったものなんだろうか。
「ちいっ、こいつら強ぇぞ!」
「不気味な格好してるからやめようって言っただろうが……ぐええっ!」
「誰が不気味な格好ですかッ!」
アイルのライトウィップが、彼女を狙おうとしていた男達の腹をしたたかに打ち付ける。
彼女の方はしっかりと手加減ができているようで、男は目を回しているだけで胸を上下に動かしていた。
というか、やっぱり俺達の格好って不気味に見えるのか……装備の変更を考えるべきだろうか?
……いや、少なくともこの迷宮都市ではなめられないことも重要らしいからな。
とりあえずしばらくはこのままでいかせてもらおう。
「めええっっ!!」
メイが前足につけたかぎ爪を振るい、男の胸を裂く。
ただメイも俺と同様手加減が苦手なようで、男は胸から思い切り血を噴き出してしまっていた。
慌ててヒールを使って応急処置だけをしてから横を向くと、仲間があっという間にやられて完全に戦意を喪失している男の姿が映った。
「ひ、ひいいいいっっ!! 後生だ、命だけはっ!」
「ああ、助けてやるよ。俺達が探してる情報を教えてくれればな」
にやりとニヒルに笑ってやると、男はこの外縁区の知っている情報を教えてくれた。
ギルドは歩いて少し東に向かった方にあるらしい。
襲いかかってきた奴らが死んでいないことを確認してから、早速向かうことにした。
途中で振り返ると意識を失っていない男は既にその場からいなくなっており、倒れている四人の男の方へ集まっている新たな影があった。
倒れているやつらを起こしてやる……なんて殊勝なことをするつもりではあるまい。
弱肉強食というか……弱い奴らは食い物にされてしまうようだ。
「うーん、あんまり良い雰囲気の場所じゃないよな」
「なるべく早く商業区に行きたいですよねぇ」
「めぇ?」
メイはよくわかっていないようだったが、この外縁区の様子を見た俺とアイルの気持ちは完全に一つになっていた。
さっさと小迷宮を攻略して、中迷宮に向かってしまおう。
小迷宮の魔物じゃあレベルアップには物足りないくらいの経験値くらいしか得られないだろうしな。
そんな俺の推測は見事に的中した。
小迷宮に出てくる魔物はゴブリンなどをはじめとした、大して強くない魔物ばかり。
手応えを感じることもなくサクサクと進んでいった俺達はその日のうちに小迷宮の最奥にいるボスであるオークを倒し、中迷宮への切符を手に入れるのだった――。
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