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シタケ


 というわけで俺たちは一路迷宮都市フィルロスへ向かうことにした。

 ブルドからフィルロスまでは、乗合馬車を使って一月ほどでいける。


 なのであっさりと一月でフィルロスに到着……とはならなかった。

 思ってもみなかった問題が発生してしまったのである。

 ブルドの街で乗った乗合馬車から乗り換えると、どの馬車もメイが併走することを、どの馬車も許してくれなかったのだ。


 たしかにこんなファンシーなナリをしているせいでつい忘れそうになるが、メイはアングリーシープというCランクの魔物だ。

 乗合馬車の客が嫌がったり、御者が嫌がったり、どちらも大丈夫でも馬がビビって先へ進めなくなってしまったり……といった感じで、全体の道中の五分の一もいかないうちに馬車に乗ることができなくなってしまったのである。


 俺たちはブルドの街から比較的誓いシタケの街で、立ち止まることを余儀なくされてしまっていたのだ――。





「歩いて行きますか? 馬車よりは時間がかかると思いますけど、一番無難にいけますし」


「まあそうなるよなぁ。前と比べるとかなり素早さも上がってるから、そこまで時間がかからないような気もするし」


 レベルアップで素早さが上がったおかげで、今の俺は人間には出せないようなスピードで走ることができる。

 そしてアイルもメイも俺よりは遅いが、それでも全力疾走をすればそこらへんの前衛の冒険者くらいの速度は出せる。


 それならあまりにパワープレイすぎる気もするが……いっそのこと、走ってった方が速いか?

 ずっと走っているとかなり目立ちそうではあるけど、まあ既に今の格好も悪目立ちしているし今更だしな。


「めぇ……」


 色んなところで拒否されてしまったせいで、しょぼんと落ち込んでしまっているメイ。

 その手首にキラリと光る紫色の従魔リングを見て、ふと疑問が湧いてきた。


 いわゆる従魔師テイマーと言われている人たちって、どうやって移動しているんだろう?


 メイは魔物の中では別にそこまで大型な部類ではない。

 サイズ的には俺とそんな変わらないくらいしかないし、もっとデカい馬とかを従魔にしているテイマーも見たことがある。

 中には従魔に乗っているテイマーなんかもいるって聞くしな。


 というわけで俺はシタケの冒険者ギルドへ向かい、そのあたりのことを聞いてみることにした。





「通常であれば従魔に乗るか、従魔用に設計した車などを引いてもらうパターンが多いですね」


「なるほど、車ですか……」


 魔物に荷物を引かせるというのは、テイマー界ではわりと普通のことのようだ。

 それなら一度、店に行ってみた方がよかろう。


 というわけで俺たちはおすすめされた商店へとやって来た。

 立派な外装に少しビビりながら入ったが、こちらを侮るような視線もなく丁寧な接客をしてくれる。


「とりあえず一度、従魔を見せてもらっても構わないでしょうか?」


「もちろんです」


 商店の店員であるナイスミドルのガッテンさんを商店の客用の空きスペースへと連れて行き、そこでもしゃもしゃと美味しそうに草を食んでいるメイを見せる。

 するとガッテンさんが、少し渋そうな顔をした。


「かなり小さいですね……これだと馬用は使えないな……」


 どうやら普通は馬用の荷車を調整して使うものらしいが、メイのサイズが小さすぎるせいで現状在庫がないということだった。


「少々お待ちくださいね、えっとたしか……」


 そう言って倉庫らしきところから結構な時間をかけて取り出してきてくれたのは、かなり小さめのポニー用の馬車だった。


 それでも少し小さいかも……と思ったが、杞憂だった。

 メイのもこもこの羊毛の内側の身体に固定させると、見事にジャストフィットしてくれたのだ。


「よしメイ、ゴー!」


「めえええええっっ!!」


 ぐるぐるとその場を駆け回るメイ。

 ゴロゴロと車輪が転がるのが楽しいからか、同じ場所をぐるぐると回転している。


「めえぇ……」


 そしてぐるぐると目を回してしまい、ダウンしてしまう。

 何やってるんだ、お前は……。


 アイルに魔法を使って回復してもらってから、俺とアイルが馬車に乗り込んだ。


 そのまま一旦商店のスペースを出て街を歩いてみる。

 すると問題なく馬車を引くことができていた。

 レベルアップしたおかげで力も上がってるからな、試しに数分ほど引かせてみたが、ほとんど疲れも感じていないようだった。


「じゃあこれをください! あと一つお願いなんですが、この馬車の前方あたりに鉄の持ち手とかって付けられたりしませんかね?」


「うちの鍛冶師を呼べばできますが……何用かお伺いしても?」


「メイが疲れた時に、代わりに俺が引けるようにです」


「え、えぇ……」


 ちょっと引き気味だったが、ガッテンさんは注文通りに俺でもメイでも引ける馬車を作ってくれた。

 おまけに鉄棒を固定できるようにしてくれたので、人力車のように引っ張ることが可能になった。


 そのまま俺たちはシタケの街を出発。

 俺とメイという二馬力によってぐんぐんと進み、なんと当初の予定より早く迷宮都市フィルロスへとたどり着くのだった――。

好評につき、短編の連載版を始めました!

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