プロローグ
俺の所属している冒険者パーティー『暁』は、四人のメンバーで構成されている。
「僕達『暁』は四人で一つのパーティーだ。誰一人欠けることなく、頂へたどり着いてみせる」
こいつは頼りになるリーダーのジェイン。
剣を使えば天下無双の剣豪で、ただ腕っ節が強いだけじゃなく魔法まで使える万能の魔法剣士だ。
地元では敵無しだったらしく、ゴブリン狩りぐらいしかできない田舎じゃ満足できずに上京してきた。
もっと難易度の高いクエストをクリアして成り上がりたいっていうよくいる口だな。
ただいくらでもいる口だけの輩とは違い、ジェインには本物の実力があった。
俺達がまがりなりにもCランク冒険者としてやっていくことができているのは、どんな逆境も跳ね返すことのできるジェインの力のおかげだ。
「あったり前じゃない! 私達はこのまま、押しも押されぬSランクパーティーへの階段を駆け上がるんだから!」
負けん気な魔法使いのマーサ。
いかにも魔法使いって具合のトンガリハットにローブを着け、手には杖を持っている。
細身でいかにも非力そうだが、パーティーの中で最も火力が出るのは彼女だ。
マーサが得意なのは火魔法。
魔法に門外漢な俺にはよくわからないが、その威力や精度はBランクパーティーからの勧誘が来るほどのものらしい。
マーサの放つフレイムウェイブは敵を一掃し、必殺技であるゴアフレイムを食らえば、重傷にならないモンスターはいない。
彼女はうちの貴重な後衛だ。
「ジェインさんは神に愛されていますから。きっと私達なら大丈夫です」
そう言ってジェインに笑いかけているのは、プリーストのナル。
常に神官服を身に纏っている彼女は、毎日一回は必ず祈祷をするほどの熱心な聖教徒だ。
ナルは幼い頃から教会育ちで、プリーストとしての教育を受けてきている。
そのため回復魔法や結界魔法、魔除けに除霊まで、教会の人間が覚えることのできる光魔法はほとんど全て覚えているほど。
ナルはジェインを聖教徒にしようとしきりに勧誘をし続けているが、どうやら未だ改宗の兆しは見られないようだ。
「ああ、俺達なら……きっとどこまででも行ける」
ジェインの声に最後に答えるのはこの俺――チェンバーだ。
パーティーでの役目はタンク。
重たい盾とメイスを使い、敵の注意を引き付けるのが俺の役目だ。
魔物と最前線でぶつかり合うのが俺の役目であり、俺がどれだけタンクとしての役割を果たすことができるかで、戦闘の運びが変わってくる。
ぶっちゃけ三人と比べれば……俺は弱い。
魔法も使えなければ、純粋な腕力すらジェインには負けている。
俺が『暁』のメンバーとして追い出されずに済んでるのは、他の奴らが引き受けない身体を張って傷だらけになる役割でも文句一つ言わないから。
そして付け加えるなら、このパーティーの現状を維持できる人員だからだ。
ジェインしか見ていないマーサとナルを見ればわかるように……二人はジェインに明らかに惚れている。
おまけに二人とも、見た目だけならかなりいい。
とりあえずタンクはいた方が、後衛の二人が楽になる。
けれど二人に懸想するような人材は困る。
そんな理由から、俺がパーティーに勧誘されたというわけ。
けど別に、嫌だとは思っていない。
何事も適材適所、俺にすっぽりとハマったのがタンク役だったってだけの話だ。
ジェインはすごく気分のいい男だし、Cランクという中堅どころのクエストがこなせるおかげで、一回の仕事でもらえる額だって悪くない。
そりゃマーサ達を見れば、時たま付き合ってみたいだとか、ワンチャンないかなとか思ったりすることもある。
けどすぐに心の中の冷静な俺が、そんなことをしたら全てを失うぞと教えてくれる。
それにあいつらの、ジェインがいないときの本性なんかそりゃ酷いもんだ。
仮に付き合うことができても、絶対にロクなことにはならない。
最近はもう、ジェインがかわいそうだと思うようになってるくらいだし。
本性をバラしたら何をされるかわからないから、下手に何も言えないんだけどさ。
ちょっと冷静に立ち止まることができるくらいには頭が回っていたおかげで、俺は今までこの『暁』で活動をすることができていた。
だがそれも、今日で終わりになってしまう……かもしれない。
――ジェインが俺達『暁』のメンバーを呼び出して決起集会をしているのには、理由がある。
明日、俺達を取り巻く全てが変わってしまうかもしれないのだ。
この面子で活動をすることが、二度とできなくなってしまうかもしれないからこそ、こうして顔を合わせる場を作ったんだと思う。
この俺たちが暮らすセブンステイル大陸では、十五になる年の元日に、神様からスキルを授かることができる。
スキル、というのは後天的に得ることのできる能力のことだ。
『剣術』のスキルを手に入れた人間は、まるで熟練の剣士のような剣捌きをすることができるようになり。
魔法系のスキルを手に入れた人間は、今まで使えなかったことが不思議に思えるくらい巧みに、魔法を操ることができるようになる。
後天的に得られる、神様から贈られた才能。
これによって多くの人間の人生は変わってしまう。
今まで自分達がしてきたものの延長線上にあるスキルが得られれば、万々歳。
もし全く逆のスキルが出れば残念賞。
更にそれが有用だったりしたら、悲劇の始まりだ。
今までしてきたことはなんだったのかと、何年も頑張って続けてきたものを辞める。
そして熟練者ばりのスタートを切れるスキルを使い、したくもない仕事をやらなければならない。
もちろん、スキルと関係ない仕事についたっていい。
けれど残念なことに、やっぱり一番成果が出しやすいのは、スキルと関連している仕事だったりするのだ。
スキルの補正は、それほどに偉大なのである。
俺は十二の時に冒険者ギルドの門を叩き、十三になる直前から『暁』の四人目のメンバーとして活躍することになった。
俺達は皆今年で十五になるから、もう二年以上にはなっているのか。
あっという間の二年間だった。
スキルがもらえない未成年の割には、良くやった方だと思う。
この街でランクアップの最年少記録を持っているのは、俺達『暁』だったりするし。
さて、今まではなんやかんやでやってこれた俺達にも、とうとう運命の日が――スキルをもらえる『天授の儀』を受ける時がやってくる。
俺達『暁』に起こるのは、果たして喜劇か、それとも悲劇か。
俺はなんとなく嫌な予感を覚えながらも――ジェインと一緒に、朝まで酒を飲み明かした。
「私は……『火魔法(極)』、今まで使えてた火魔法が達人級に上手くなるみたい。宮廷魔導師にスカウトされたけど、断ったわ。これでジェインに近付こうとするどんな羽虫も焼き殺せるわね」
「私は……『神聖魔法』スキルをもらいました。光魔法の中でも更に使い手の限られる神聖魔法を使えるようになるスキルだそうです。これがあれば、たとえ四肢欠損をしようともジェインさんを治すことができます。聖イェナ礼拝堂勤めのお誘いは魅力的でしたが……私が居る場所は、ここですから」
「僕がもらったのは……『勇者』スキルだ。身体能力だけじゃなく剣技から魔法まで、あらゆるものに極大の補正をかけるスキルらしい。王立魔法学院のスカウトと、なんとか伯爵の養子にならないかという誘いをもらったけど……全て断ったよ」
三人がスキルを口にするその表情は明るかった。
どうやら皆凄まじいスキルをもらっているらしく、スキルが判明した直後から色んなところからスカウトを受けたようだ。
俺が渋っているのを見て、ジェインが不思議そうな顔をする。
「チェンバーは何のスキルをもらったんだ?」
ほら、だからやっぱり……こうなると思ったんだ。
俺は諦めと苦笑を半々にした、ひきつった笑いを浮かべながら口を開く。
「俺のスキルは……『レベルアップ』。詳細は不明だが何一つ補正のかからない外れスキルらしい。皆俺から離れていったよ。スカウトなんざ、一つもこなかった」
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