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ブラック・スミス 〜探偵と妖精泥棒と馬の蹄鉄〜  作者: 雅楠 A子
《本編:探偵と妖精泥棒と馬の蹄鉄》

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52/77

25(1/2).ポケットいっぱいの嘘 - A Pocket Full of Lies

2024/02/02、改稿

一部内容を変更致しました。m(_ _)m


今回はデイヴの一人称で話が始まります。

 知っての通り、俺は20年前の誘拐事件について調べていたわけだが、その事件を解決したオーウェル保安官から直接話を聞こうと考えて、先日、保安局を訪れたんだ。ところが、オーウェル保安官は殉職していたことが分かった、それも20年前に。それからだ、あの三人組に付き纏われるようになったのは。


 最初は、俺が保安局を下手に刺激するようなことをしたから、奴らに監視されているんだろうと思った。殉職した保安官を部外者に調べられてるなんて、気分の良いものじゃないだろうしな。だが、よくよく考えてみれば、オーウェル保安官は"蹄鉄会"の会員だったはずだろ? なにせ、探偵社に調査協力を依頼していた男だ。それだのに、探偵社の俺が調べていて、保安局がここまで過敏になるか?


 そうこうしてたら、脅しめいた"トラブル"が(あれらを脅しめいたなどと言うなんて、恐ろしい奴だ、とジェムは思う)身の回りで頻繁するようになってな。これはなにかあると考えて、俺は会長に会って、真相を訊ねることにしたんだ。

 最初は警戒されて、とても話してくれそうになかったが、俺の事情を伝えると、会長は重い口を開いてくれた。


「オーウェル保安官は、エルヴェシア保安局の潜入捜査官で、20年前の誘拐事件で殉職された。誘拐犯と交戦中、犯人の銃弾が彼の胸を貫いたのだ」

「そのときも、彼は潜入捜査を?」

「……いいや。もし、そうだったら、あの事件は起こらなかったろう」

「犯人はスワイリーですか?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()。あれは私とアーヴィンが、58年前にマイヤーたちを裏切った人物を見つけるために、彼のサインを会員たちの家に書き残した――ただ、それだけなんだ」

「書き残した? では、5代目スワイリーの正体は――」

「それも、私が皆にスワイリーを調べられたくない理由のひとつだ」


 それから会長は、"メイガス"とかいう狂ったカルト集団について教えてくれた。奴らが"妖精の階段"のお抱え組織ってことや、そいつらに抗う"谷間の百合"って集団がいることも。スワイリー――M・スティールは、"メイガス"と戦う"谷間の百合"の精鋭だってこともな。そして、58年前、"蹄鉄会"に潜んでいた"メイガス"の手の者がマイヤーを裏切って、マイケル・スティールの息子を連れ去った事実についても語ってくれた。


「ここに入社する前、保安官だった私は、マイケル・スティール親子のことを知る機会があった。マイケルは刑務所内で亡くなり、その子どものマシューは、"メイガス"の研究の被検体にされて、本来できるはずのことが、できない身体になってしまっていた。だから、前会長から裏切り者の話を聞いた時、私はとてもやるせない気持ちになって、どんな手でもいいから、その裏切り者を見つけなければと思ったんだ。そして、私たちは58年前の連続窃盗事件を模倣した。それが5代目スワイリーの正体だ」


 実際は、ファイルに記録されていることと違って、なにかを盗んだことはなかったそうなんだが、会長たちがM・スティールの名前を(かた)って、裏切り者がなにかしらの行動を起こすようにけしかけたのは確かのようだった。……その結果があの誘拐事件だったのだから、決して良い策だったとは思えないが。


「ならば、最近現れたスワイリーは、なんなんです? あれも、会長たちが?」

「あれは、私たちではない。本物の"谷間の百合"だよ」


 会長と"谷間の百合"との関係については、聞いてもはぐらかされてしまった。どうやら、それだけは口にできないようだった。もしかすると、"メイガス"を恐れてのことかもしれない。探偵社にも"蹄鉄会"にも、"メイガス"のスパイが紛れているかもしれないから。


「……では、オーウェル保安官は、」

「最初は、彼も私たちの標的だったんだよ。しかし、いつからからか、彼は私たちの協力者になっていた。……皮肉だが、あの誘拐事件のおかげで、どこから"蹄鉄会"に"メイガス"の手の者が流れてきているか分かったんだ。オーウェル保安官には心から感謝している」


 会長の話を聞いて、俺は取り敢えず、納得した。それなら、あの三人組が少々過激なのもしょうがないのかもしれない、彼らは俺を"メイガス"だと疑っているんだろう、ってな。


 会長は、俺にもしものことがないよう、部下を寄越すと言ってくれた。それがまさか、お前たちだとは思わなかったが(ジェムは視線を逸らした。おそらく、会長の言う部下とは、ディガーのことだろう)。


「どうして俺に教えてくれたんです? 20年前のこと、本当は限られた人間にしか、知られたくなかったのでしょう?」


 俺が訊ねると、会長は少し間を置いてから答えた。


「罪の意識からだ。私たちの後始末が甘かったせいで、君を巻き込んでしまった。私は、君たち社員を守らなければいけない立場にあるのに……。本当に、申し訳なかった」


 俺には、それ以上、会長を問い詰めることなんてできなかったよ。


 だが、まだよく分からないことがあった。俺がオーウェル保安官を調べることに、なぜ保安局がそれほど神経質になっているのか。"メイガス"を警戒しているにしても、オーウェル保安官を調べることが、なんになるって言うんだ?


 だけど今朝、お前たちと話していて、ようやく確信を持てた。俺に付き纏うあの三人組は、保安局の人間のはずがない、ってな。保安官ならば、あんなまどろこしいことはせず、権力を使って、俺の調査を妨害してくるはずだ。そうでなく、俺の調査がそもそもの奴らの目的だとしても、もう少し自分たちの気配を隠す努力をするだろう。腐っても国の警察機関だからな。


 それに加えて、今日、たまたま会う約束を取り付けていたミズ・ハロンの話だ。


「誘拐犯のほとんどは、"妖精の階段"の信者でした。彼らが私たちを誘拐したのは、彼らにとって、大義のためだったのです。そしてオーウェル保安官は、確かに私たちを救ってくれましたが――これは、私たちのなかでも一部の人しか知らないことなのですが――もともとは、あの誘拐犯たちのリーダー格だったみたいなんです。ところが、彼は犯人たちを裏切り、そして殉職なされた。もし、彼が生きていたら、犯人たちにとって――いえ、"妖精の階段"にとって、知られたくない事実が公になっていたかもしれません」


 俺は三人組の正体が分かった――"メイガス"だ。それから俺は悟ったんだ。"蹄鉄会"に潜んでいた裏切り者は保安局の人間で、保安局には今でも"メイガス"の手の者がいる。俺が"メイガス"の奴らに追跡されたのは、俺が他でもない、スミスの探偵(ブラック・スミス)だったからだ。オーウェル保安官がいつから奴らを裏切り、"妖精の階段"と保安局の癒着を会長たちにどこまで知られているのか、連中はきちんと把握できていないに違いない。"メイガス"はそれらを俺を通じて探り出そうとしているんだ――とな。


 そして、お前も知るように、奴らは俺を勧誘してきた、というわけさ。



 * * *



「――ちょっと、待ってくれ」


 ジェムは、デイヴの話を中断させた。


 気になることは、山ほどある。だけど同時に、それがこの場で口にしてはいけない疑問だということも、分かっていた。ジェムは慎重に、デイヴなにを聞くべきなのかを考えながら、口を開いた。


「デイヴ、きみが調べていたのは、あくまで20年前の事件のことなのか? スワイリーじゃなくて?」


 デイヴは、何故そんなことを聞かれるのだろうと、眉を顰めながらも答えた。


「……そうだ。俺の依頼人は、会長がスワイリーを含め、特殊調査を承認しなくなった訳を知りたがっているんだ。それで、俺なりにこの事件が怪しいと思って調べていた」

「つまり、依頼人は会長じゃない?」

「当たり前だ、会長なわけがないだろう。ついでに言うと、会長の過去について調べている輩がいたら、そいつの目的がなにかを探るように指示もされていたぞ」


 だからあのとき、デイヴに尾行されたのか。ジェムは、げんなりした。これだけ聞けば、デイヴの依頼人とやらが誰なのか、その答えは明白だった。


 ――なんだかんだ、同じ組織で働く仲間だろ。これを機会に仲直りできるかもしれないぜ。


 あのとき、グレアムはそう言って、今回の依頼についてジェムとデイヴが手を組むことを望んでいた。デイヴがジェムと同様の依頼を会長から請け負っているなどと、嘘まで吐いて。嫌でもデイヴの協力を得たいとジェムが考えるように、いざとなったらデイヴがジェムの助けになるように、彼は最初から仕組んでいたのだ。


 ……あの義父め。最初からこうなることを予想して、ぼくに嘘を吐いたんだな。ほんと、嫌なやつで、――よくできた上司だ。


「俺からも聞きたいことがある」


 デイヴが言った。


「……どうぞ」

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