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ブラック・スミス 〜探偵と妖精泥棒と馬の蹄鉄〜  作者: 雅楠 A子
《本編:探偵と妖精泥棒と馬の蹄鉄》

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21(2/2)

2024/02/02、改稿

一部内容を変更致しました。m(_ _)m

 クーペの運転席から現れたのは、ふたりの待ち人、デイヴ・モーズリーである。


「やぁ、デイヴ」

「……カヴァナー」


 デイヴは大仰に溜め息を吐いた。


「何の用だ、一体」

「約束、忘れたわけじゃないだろ?」

「当たり前だ」


 それにしては、デイヴから剣呑な空気が漂っている。


「悪いがカヴァナー、今は時期が悪い。しばらくは、会わない方がお互いのためだ」

「また随分勝手な話だな。弁明する気もないのか」

「お前たちの安全のために言ってるんだ。頼むから大人しくしていろ」

「気に触る言い方だ。きみには対処できて、ぼくたちにはできないと? なにを基準に決めつけてんだよ。それとも、自分が一番じゃなきゃ満足できないとか?」

「――いいから一度くらい俺の言うことを聞け、カヴァナー!」


 この程度で大声を上げるとは、どうやら、かなり虫の居所が悪いらしい。あるいは、切羽詰まっている、と言うべきか。どちらにせよ、ジェムの期待していた通りの反応だった。


「……どうかな。最近、きみの身の回りで変わったことが起きてるんじゃない?」


 さっと、デイヴの纏う空気が変わった。そのとき、デイヴの目が辺りを窺うように動いたのを、ジェムは見逃さなかった。


 ……やっぱり、そうか。


「デイヴ、良ければこっちで話さないか? きみの、その態度の理由(わけ)を今度は話してくれるだろ?」

「……まあいい。約束は約束だ。今日のところは話してやるよ」

「そうこなくちゃ」


 デイヴの了承を得たので、ジェムは再び車の助手席に戻り、デイヴはセダンの後部座席に座った。そして、運転席に座る顔を見て、露骨に怪訝な顔をした。


「――そいつは?」


 初対面を相手に、随分とつっけんどんな言い方である。ヴィンスは、そんなデイヴに対して、得意の人好きのする笑みで言った。


「ジェムの相棒さ、()()


 ……こいつもこいつで、わざわざ煽るような物言いを……。


「ヴィンス、」

「分かってるよ」


 ジェムの催促を受けたヴィンスは、サイドブレーキを解除して、車を発進させた。

 駐車スペースから幾らか離れると、バックミラー越しにデイヴが睨みを利かせてきた。


「ミス・ベルトランは?」


 ミス・ベルトランとは、勿論、リリアーヌ・ベルトランのことである。


「依頼人の意向で、家で待機してる。今ぼくが抱えているのは、調査の依頼だけだよ」


 ジェムの話を聞いてデイヴは、そうか、と少しだけ安堵の表情を浮かべた。それからまた、剣呑な空気を纏って、ジェムを問い詰める。


「――それで、お前、俺の話を誰から聞いた?」


 ジェムは首を回して、デイヴを見た。


「話って?」

「とぼけるなよ。最近、俺の周りでおかしなことが起こってるって、さっき言ってたろ」

「ああ、そうだったな。心当たりはないか?」


 ジェムはデイヴの質問を質問ではぐらかした。相手の能力を測るような煽る質問は、ジェムの義父が最も得意とすることであり、負けず嫌いなデイヴに大変有効的な手なのである。

 デイヴはジェムの問いかけに、予想通り考え込むような仕草を見せ、そして、はっと、なにかに気付いた様子で目を見開いた。


「まさか、会長が話したのか……?」


 ……いや、会長とは話したことも、会ったこともなければ、顔も名前も知らないよ。


 デイヴの反応を額面通りに受け取るなら、彼は会長に会って、身の回りで起こる"おかしなこと"について既に話したようであった。ジェムはそれ以上この問答を続けられるの避けるため、デイヴに別の問いかけをすることにした。即ち、


「きみの口から詳しく聞きたい。なにがあったんだ?」


 デイヴはひとつ大きく息を吐いて、ちら、と自分の背後に目を遣った。


「――あの車が見えるか?」


 そう言って、親指を立てて特定の車を指差すが、その仕草だけでは、ジェムにもヴィンスにも、デイヴがどの車を指しているのか分からなかった。こういうところが、気取り屋な彼の悪いところである。

 目を細めて対象の車を探すジェムの表情に気付いて、デイヴは「青と白のクーペだ」と言った。


「あのカマロ?」と聞いたのは、ヴィンスである。


 そうだ、とデイヴが答える。しかし、車に詳しくないジェムは、デイヴの説明にあった色を頼りに、それっぽいものを探し出す他なかった。


「2、3日前から、あのカマロに四六時中尾けられてる」


 デイヴはうんざりした顔で言った。ジェムはただ、ふうん、と思うだけだったが、ヴィンスの方はその話に疑問を覚えたようだ。きゅっ、と眉間を寄せて皺を作った。


「あんな目立つ車で尾行だって? 相手は素人か?」

「尾行じゃない」


 ジェムはヴィンスの言葉を訂正した。


「牽制だよ。わざと注意を引いて、こっちの行動を制限しているんだ」

「ああやってついてきて、監視するのが牽制? もっと他に方法があるだろ」


 ジェムの意見に反論するヴィンスだったが、当事者であるデイヴは彼を「いや、」と否定した。


「カヴァナーの言う通りだ。なにか、俺に嗅ぎつかれると嫌なことが奴らにあるのは間違いない。俺に命の危機を感じさせて、調査を辞めさせようとしているのさ」


 デイヴは忌々しげに続けた。


「最初は保安局の人間だろうと思っていた。だが、本当に保安局の人間なら、こうもあからさまに自分たちの存在を匂わせたりしないだろう。奴らが俺のなにに腹を立てているのか、まったく検討もつかん」

「保安局に対してなら、心当たりがあるんだな」

「……まあな。だが、奴らが保安局の人間だとは、やはり思えない」

「だったら、ぼくたちに調べさせてくれないか?」

「なんだって?」


 ジェムの提案にデイヴは顔を顰めた。


「きみを尾行させてくれ。やつらがきみのなにに怒っているのか、保安局との関係はあるか、第三者のぼくたちなら分かるかもしれない」


 デイヴはしばらく黙り込んだ。正直なところ、彼にはどうしてジェムが手を貸してくれようとしているのか分からなかった。

 控えめに言っても、デイヴとジェムの仲は宜しくない。2歳年上のデイヴに対してジェムは同期だからか生意気で、時々舐めきった態度を取ってくるし、ボスの息子として扱われる立場に甘んじているようなところも気に入らない。それでも、デイヴはジェムのことを同僚として、まったく信用していないわけではなかった。探偵としての能力に限って言えば、彼のことを大いに買っていた。

 デイヴは決心した。


「……見失うなよ」

「そんなヘマしないよ」


 尾行する許可を取り付けたジェムたちは、港近くのフィンタンズ・ワーフと呼ばれる商業地区に車を停め、デイヴと別れることにした。デイヴはここで、とある人物と約束を取り付けているらしいのだ。彼の目的はともかく、人通りが多いが見通しも悪くないその場所は、尾行をするにも撒くにも最適な環境だ、とジェムは思った。


 別れる直前、デイヴは身体を前屈みにして念を押すように言った。


「相手は三人組だ――赤毛の白人女と、身体がでかい黒人男、それから小太りのラティーノ。いいな? 幸運を祈る」


 そらからセダンを降りたデイヴは、まるでタクシーを降りたあとみたいに、さっと顔付きを変えた。

 歩き去る彼の背中を見送りながら、ヴィンスはちら、とサイドミラーで例のクーペの様子を窺った。


「いいのか? これで。もし、モーズリーがヤツらとグルだったら――」

「それを確かめるためにも、これが一番手っ取り早い。お前はデイヴから目を離すなよ、ぼくはやつらの動きを探るから」

「りょーかい」


 ――さて、セダンから降りたふたりの青年を、遠目に窺う3人組がいた。


「……どうする?」


 シボレー・カマロのハンドルを握る小太りのラティーノ――ディエゴが訊ねた。


「なにが?」


 身体のでかい黒人男――ハーヴェイの膝に横乗りに座る、赤毛の白人女――ミアがぱちくりと目を瞬かせた。それに、ディエゴはやや語気を強めて言った。


「アイツ、アシュビーの家で会ったヤツだ、オレたちの顔も、目的も知られてる! あの派手な金髪の女の子とは訳が違う! なにか手を打つべきだよ!」

「……別にいいんじゃない? あの男、妖精でもなければ、"魔力"への耐性も全くないし、大した脅威にもならない。関わったって時間のムダね」


 ミアの言葉に、ハーヴェイは目を大きく見開いた。


「そうなのか?」

()()、って、なにが?」

「"魔力"への耐性がない、ってところさ。ミアの魔法を()()()()で済ませたんだから、てっきり耐性がある方なのかと」

「分かってないわね、あたしがかけたのは呪いじゃなくて"魔法"よ、姿形を変芸自在に変える"魔法"。"魔力"への耐性があるってことは、より大きな"魔法"をその身に受けられるってこと、つまり、"魔法"使いとしての適性があるってことよ。あたしの力は、"魔力"への耐性があればあるほど、髪の色や瞳の色だけじゃなく、顔形、身長に至るまで、外見の全てを変えられる、適性のない普通の人間には、大して効果のない"魔法"なの」

「だが、俺の"魔法"は効いた」

「そりゃそうよ。そもそも、アンタのとあたしのとじゃ、"魔法"の構造が違うから」

「なにが違うんだ?」


 ハーヴェイとミアの問答がなかなか終わらないので、ディエゴはやきもきした。「とにかく!」と、ふたりの会話を遮る。


「本当に放っておいていいの? もしもアイツが、オレたちと保安局の関係に気付いたら、」

「もう勘づいているかもね」


 焦った様子のディエゴとは対照的に、ミアはにこにこと笑みを浮かべながら言った。


「心配しないで、アイツらに知られたところで、あたしたちの計画が狂うことなんてないわ。既に"蹄鉄会"の内部分裂は始まってるんだから。スミスの探偵がいくら吠えたって、善良な市民である会員が保安局を疑うはずないわよ。そうして、彼らは保安局に唯一対抗できる組織を失うの」


 組織の計画を話すときのミアは、いつも楽しそうだ。その姿を眩しそうに見つめながら、ハーヴェイは提案する。


「だけど、少しでも俺たちの障害になりそうなら、排除した方がいいんじゃないか?」


 うーん、とミアは考える。人混みに紛れたスミスの探偵たちを目で探し出し、にんまりと微笑む。


「……まずは、こちらに引き入れられるか、試してからにしましょ」


 ディエゴはシボレー・カマロを路肩に駐車した(それでこの高級車がレッカーされようと、彼らには痛くも痒くもない。そもそも、彼らの所有する車ではないのだ)。そしてミアに言われた通り、ハーヴェイと共に3人の青年たちを追うことにした。

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