表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラック・スミス 〜探偵と妖精泥棒と馬の蹄鉄〜  作者: 雅楠 A子
《本編:探偵と妖精泥棒と馬の蹄鉄》

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/77

20(2/2)

2023/12/24、改稿

一部内容を変更致しました。m(_ _)m


 フェリシアは過去を振り切るように目を閉じて、話を戻した。


「人間社会の中で何不自由なく暮らすには、私たちが人間に馴染む必要があるの。だから、もし、あなたを人間として育てることができたら、上手く正体を隠し通せるんじゃないかって。そうすれば、妖精たちの争いから、あなたを守ることができるんじゃないかって思ったの。オルトンに、いつもあなたの側にいてもらっていたのは、あなたを妖精らしく見せないようにするためだったのよ。それにあの子は……、この土地の子じゃ、なかったから」

「……オルトンは、それを知って?」


 フェリシアは後ろめたそうに視線を逸らした。


「妖精の血が薄い私には、人間の彼の考えていることは読めないのだけど、……傷付けてしまったんじゃないかと思う」


 リリーは母を憐れに思った。この人は他人の考えていることが読めるから、多くの場合、人と対話することを無意識に避けてきたのだろう。妖精の考えていることしか読めないのなら、尚更だ。彼女の最も身近な妖精の父親と、考えを読めるにも関わらず、理解し合えていないのだから。


 自分自身も同じだったから分かる。()()瞬間から読み取った、()()ときの相手の感情だけで、()()人を知った気になっていた。自分には、一生理解できない相手なのだと。

 実際には、残酷なほど純粋に恋をしていただけの、幼い少女だったというのは、彼女(キャスリーン)と対話したからこそ導き出せた真実だ。おかげで彼女の気持ちを完全に共有することはできなくとも、理解することはできたのだ。


 フェリシアは、そんなリリーの心情を読み取ったのだろう、些かむっとした様子で言った。


「私だってね、あなたより長く生きてる分、いろんな経験をしてるのよ。あまり見くびらないで欲しいわね」


 人を憐れむという行為は、時々――いや、多くの場合、失礼に値するのだろう。リリーは、ちょっと生意気だった、と自省した。


「――じゃあ、このペンダントは? どうしてスワイリーのサインがあるの?」


 ああ、とフェリシアはリリーの胸許のペンダントを拾い上げ、それをうっとりと眺めた。


「このペンダントは、私の家に古くから伝わる"妖精の遺物"らしくてね。かつての力は失ってしまった私たちでも、妖精の力を使えるように、潜在的な能力を引き出してくれるものだそうなの。そして、これを所持する者を護ってくれるのだそうよ。だけど、それでも絶対的に私を護ってくれるわけではなくって……。スワイリーはね、そんなピンチのときに私を救ってくれた、命の恩人なの」


 ……あのメッセージは、お祖母様に宛てたものじゃなくて、きっとお母様になのだわ。


「もしかして、」リリーはパウエル常務と話したことを思い返しながら訊ねた。「ホースシュー・カフェで起こった誘拐事件と、関係ある?」


 そんなことまで知ってるのね、とフェリシアは苦笑いした。僅かだが、表情が強ばり、瞳に灰色の影が落ちている。やはり"誘拐事件"は、どうしたって良い思い出にはならないのだろう。


「あの事件はね、妖精を狙う悪い人たちが、スワイリーの調査資料を探偵社から奪うために起こしたの」


 リリーは驚いて、ひゅっと息を飲んだ。もしや、とは思っていたが、あの誘拐事件がここまで妖精闘争と密接に関わっていたとは。


「スワイリーは妖精たちの味方だったから、あの誘拐犯たちからしたら、目の上のたんこぶだったみたい。それで、探偵社を通してスワイリーの正体を探ろうとしたのでしょうね。あのとき、お父さん――あなたのお祖父様は、スワイリーの事件を調査していてね。お祖父様は私と同じ緑の目をしていたから……、私が誘拐されたのも、多分、偶然じゃないだろうって言われたわ。お祖父様を脅すためだったんじゃないかって。そのペンダントも、お祖父様を脅すために使おうとしていたらしいの」

「ペンダントを?」

「ええ、私を攫ったってことが分かるように。だけどその前に取り返してくれたのが、"彼"だった」


 フェリシアは微笑んだ。蕩けるような、恋する乙女の微笑みだ。リリーもつられて、にっこりと口許を緩ませた。

 ああ、この表情を知っている。母の瞳に浮かぶ、この薔薇色の光も。


「――お父様なのね?」


 フェリシアは目を潤ませて頷いた。リリーは、きゅっと、胸が苦しくなった。

 どうしてそんな気持ちになったのかは、分からない。だが、ロケットペンダントに隠された真実を知って安堵したのと同時に、リリーは自分の心がなにかを訴えているのを感じた。この感情に敢えて名前を付けるなら、羨望、いや、渇望だろうか。


 フェリシアは「でも、」と先程までの恋する表情をさっと引っ込めると、今度は寂しげな様子で話を続けた。


「あの事件をきっかけに、お祖父様とはすっかり疎遠になってしまったわ。それまでは、どうにか保っていた家族の縁も、ぷっつり切れてしまった。でも、良心は残っていたんでしょうね。私たちがバーニーヴィルに引っ越したのは、実は、お祖父様の勧めがあったからなのよ。良い意味で、ここが閉鎖的だったから――誰も私たちのことを探ったり、干渉したりしない。それが、私たちにとっては、互いを守る方法だったの」


 リリーは再び眉を顰めた。事件後の祖父の行動について、母の説明では、理由が釈然としなかったからだ。


「……どうしてお祖父様は、お母様から距離を置いたのかしら?」


 そうねえ、とフェリシアは悩ましげに呟いた。


「お祖父様はもう、私のお父様であり、セドナ・サム・ストー二ーであった過去を、捨て去らなければならないってことに気付いたから、って言っていたわ。スミスの意志を継承するには、それ相応の覚悟が必要だ、って。結局、不仲な娘よりもスミスを選んだってことなんでしょうね」

「スミスを……?」


 リリーは驚愕した。まさか、まさか、そんな。リリーは思わずベッドの上に手をついて、フェリシアに詰め寄った。


「お祖父様って、エメリー・エボニー=スミスなの?!」

「……そうね。今も変わってなければ、そうなんでしょうね」


 ――なんてことだ。一度、情報を整理するとしよう。リリーの祖父は妖精で、"蹄鉄会"の現会長エメリー・エボニー=スミスで、即ち、マシュー・スティールということだ。しかも、父のクロード・ベルトランはスワイリーで、母のフェリシア・ベルトランは誘拐事件の被害者――。


 ……ううん、いくらなんでも、やり過ぎだわ。これじゃあ、わたしたち家族の問題に、多くの人々を巻き込んでいるようなものじゃない。探偵社や"蹄鉄会"の人たちから非難されたとしても、仕方がない……。ああ、どうしよう。今すぐにでもジェムに会って、謝りたい。


()()()、リリー」


 リリーの考えを読み取ったフェリシアは、怒ったように眉根を寄せた。実際のところ、彼女がまったく怒っていないという事実は、似た力を持つリリーにはすぐに分かることなのだが、母としての威厳を保つために、少しでも顔を顰めて見せる必要があったのだ。


「お父様から連絡が来るまで、あなたは外に出ちゃ駄目」


 フェリシアの言いつけに、リリーはしかし、これまで通り黙って従うつもりなどなかった。いくら敬愛する母の指示でも、納得のいく説明がなければ受け入れられない。そのくらいの反抗心なら、リリーにだってあるのだ。


「それって、いつまで? どうして今は外に出ちゃいけないの? ブランポリス(あの街)で起きていることと、関係があるの? お父様はどこでなにをしているの?」

「あなただけじゃないわ」


 今度は少し、怒気を含んだ声色で、フェリシアが言った。


「私も、しばらくは外に出ないように言われているの。……もともと出不精だし、今までそんなふうに私に言う必要もなかったのに、わざわざ言うってことは、私たちにとって今の状況はかなり危険なんだと思う」

「じゃあお父様は、それをひとりで打開するつもりなの?」

「いいえ」


 フェリシアは頭を振った。


「お父様には、仲間がいるもの」


 ――その仲間に、わたしは含まれていないのね。


 リリーは悔しくなって、唇を噛み締めた。

 今まで過保護にされてきた理由は、理解できる。彼らの一人娘というだけでなく、妖精の血を引いているのだから、そりゃあどうしたって過保護にならざるを得なかったのだろう。だけどもう、守られるだけの対象ではいたくない。


 ……強くなろう。お父様に守られなくても大丈夫なくらい、強くなって、今度はわたしがみんなを守れるように。


 リリーはそっと、左耳のピアスに触れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ