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第8話 ケンレン2:ウ○コが火薬にならない!

異世界で無双と言えば、ウ○コから硝石作って黒色火薬の火縄銃でヒャッハー。基本ですよね?

「はい、こちらナーロッバ転生者コールセンター、担当のカノンです」

「おい、どうなっとるんや! ウ○コ集めてんのに、火薬にならへん! なんでや!」

 この耳障りなエセ関西弁は、Sランク河童のケンレンさんですね。

「ケンレンさま、落ち着いてください。まずは事情をお聞かせ願えますか?」

「落ち着くもモチ突くもあるもんか! 漫画で読んだ硝石の作り方をマネしたのにできんのんや」

「排泄物を集めて、硝石を作ろうとしたと?」

「せや。ウ○コと、枯草と、モンスターの死骸を、浅い穴掘って積み上げといたんや」

「いわゆる硝石丘法というやつですね」

 漂流者のノブノブ方式ですか。

「せやけど、ウ○コ臭いばっかりで硝石が出来んのや! なんでや!」

「少々お待ちください。確認いたします」

 原因はおそらく……、ああやっぱり。


「原因がわかりました」

「早いやないか」

「原因はそこです(次にお前は『そこってどこや』と言う)」

「そこってどこや……ハッ!?」

「単純に早すぎて、反応時間が短すぎたんですよ」

「せやかて、三か月ぐらい放っておいたで?」

「普通、硝石丘法で硝石を作るには、2年から5年ぐらいかかります」

「な、なんやて!?」

「それから、ただ排泄物を集めて穴に放り込んで放置していたようですが、それでは効率が悪すぎます」

「どういうこっちゃ?」

「硝石丘法では、糞便などの分解物に含まれるアンモニアが、硝化菌によって分解されることによって、硝酸イオンが作られるのですが、問題は硝化菌が絶対好気的化学栄養細菌であることです。」

「なるほどわからん」

「要するに、酸素がないと硝酸を作れないんです。だから、ただ放置しただけですと、硝石丘の表面でしか硝酸が生成されないので、効率が悪いのです。ときどき硝石丘を切り返して酸素を混ぜてやらないと、いけませんね」

「ほっときゃできるんじゃないんか……」

「あと、地面に穴を掘って、そこに放置してましたが、これも悪手ですね」

「何が悪いんだ?」

「硝酸イオンは、水に溶けやすいんです」

「それが何か問題か?」

「雨にあたると、溶けて流れます」

「ダメじゃん!」

「あと、温度が低いと硝化菌の働きが鈍るので、ある程度温度を維持してやらないと効率が悪いです。雨除けと保温を兼ねて、簡易的な小屋を建てて覆ってやるのが良いと思いますよ」

「……やめた! そんなんやってられるか!」

 アホは気が短いですね。ちょっと小屋を建てて、排泄物を一杯集めてきて、臭い中時々かき混ぜたり、臭い液体を煮詰めたりする作業を、5年ぐらいかけてやるだけですのに。

 ……よく考えたら、私も嫌ですね。


「硝石丘法で時間をかけて硝酸イオンを作る以外にも、あらかじめ硝酸イオンが生成されている場所から集めてくるという方法もありますよ」

「集めてくる?」

「古い家の床下などは、雨が当たらないので、土に硝酸イオンが溜まっています。それを集めてくるのが、古土法というやり方です」

「……他人の家にいきなり押し入って『床下を掘らしてくれ!』とか言うのか?」

 確かに、不審人物として即座に衛兵さんを呼ばれそうですね。

「トイレや家畜小屋の、糞尿が染みた土壁を削ってくるという方法もありますよ」

「なおさらハードルが高いわ!」

「フランスでは、王様直々の命令で硝石採取人が集めてたらしいですが、一般人では難しいかもしれませんね」

「なあ、何とかならんか? スキルでパパ~と作るとか」

 ふむ、困りましたね。

 錬金術師のチート能力を与えれば可能ですが、この方には既に身体強化魔法のチート能力を差し上げてますから、ポイントが足りませんね。


「そもそもなんで火薬を作ろうと思ったんですか?」

「ワシはどっかの誰かさんの陰謀で、魔法戦士からカッパにクラスチェンジしたやん」

「あれは不幸な事故でした……」

 最後のクチバシとお皿だけは、ちょっと意図的でしたけどね。

「まあその件はもうええ。おかげでワシは、カッパの恰好をすれば、接近戦で負けることはのうなった」

「普通の格好だと、戦うどころか走ることも難しいですけどね」

「せやけど、戦いの度にいちいちカッパに変身するのが恥ずかしゅうてな」

「まあ……、そうでしょうね」

「そこで、遠距離攻撃できれば、カッパにならずに済むと閃いてな!」

「ああ、それで銃を開発しようと」

「せや。で、火縄銃は鍛冶屋に言って作ってもらったんやが、よく考えたら火薬がないとただの鉄の筒やん」

「よく考えなくても、先に火薬を作ると思いますが」

「そこで、火薬を作らなあかんと思って、まず硝石を作り始めたんや」

 さすがアホのSランクさん、なんという泥縄。

「そもそも、技術難易度が高い銃ではなく、普通の弓を使えばいいのではないでしょうか?」

 身体強化魔法を使えば、どんなに強い弓でも引けて、思考加速でじっくり狙えて、超速度で連射できると思うのですが。

「いや、銃ってカッコええやん」

 ……さすがSランクさん、アホな理由でした。


「遠距離攻撃なら、魔法で攻撃するのは?」

「いろいろ試してみたんやけど、才能が無かったのか、水魔法が少しだけ使えるようになっただけやな。水を出すのと、洗濯物を乾燥させることぐらいしか出来へんかった」

 水魔法ですか……。

「では、魔法と銃を組み合わせてはいかがでしょうか?」

「そうか! 火薬の代わりに、小爆発の魔法を使うんやな!」

「火薬代わりに小爆発の魔法を使うのは、なろう定番のチートですが、あまりお勧めできませんね」

「なんでや?」

「いろいろ理由がありますが、一番の理由は、感覚で爆発力を制御するため、威力の調整が難しいところです」

「バ~ンと全力でいったらええやん」

「爆発力が強すぎると、銃身が破裂しますよ」

「……それはアカンな」

「逆に、弱すぎても弾が飛びません。それに、毎回爆発力が違うと、飛距離も変わるので、命中精度が下がります」

「どうにかならんか?」

「第一、ケンレン様は、火魔法が使えるんですか?」

「そういや使えんかった!」

 アホのSランクさんと話すのは疲れます。


「そもそも、爆発とはどのような現象なのか、わかりますか?」

「火ぃつけたら、ぼーんってなるやつやろ?」

 期待はしてませんでしたが……、小学生並みですね。

「極論すると、体積の急激な変化です」

「たいせきのきゅうげきなへんか?」

「火薬に引火すると、化学反応によって大量の熱と共に、固体の火薬が気体に変化します。これによって、一瞬の間に火薬の体積が1000倍以上に膨れ上がるんです」

「ほうほう」

「この膨れ上がった気体によって、弾を押し出すのが銃というわけです」

「なるほどなるほど」

 絶対に欠片も理解してないですよね?

「ですから、固体から気体になるような、急激に体積を変化させる魔法を使えばいいわけです」

「そんなん使えんで?」

「さっきご自分で『使える』とおっしゃったじゃないですか」

「言っとらんやろ」

「洗濯物を乾燥させる魔法のことですよ」

「……え?」

「洗濯物を乾燥させるということは、衣類の中に含まれる水を消滅させている訳ではなく、水を水蒸気に変化させているだけなんですよ」

 仮に、水を消滅させているとすると、E=MC^2の莫大なエネルギーが生じてしまいます。広島型原爆は、わずか0.68gの質量欠損でアレだけの威力でした。洗濯物の水分を10gでも消滅させようものなら、国が消滅しかねません。

「そういや、洗濯物を乾燥させると、部屋の湿気が上がるような気がしてたな」

「つまり、乾燥の魔法とは、水(液体)を水蒸気(気体)に変化(相転移)させる魔法なんです」

「それで?」

「水を一瞬で水蒸気にさせれば、体積が一瞬で1700倍以上に膨れ上がります」

「1700倍!? そういや、気合を入れて洗濯物を乾燥させると、ぶわっと風が吹いてたな。水魔法なのに風が吹くから不思議だったんやが、そういうことやったんか」

「閉鎖空間でそれが急激に起こると、いわゆる水蒸気爆発という現象になります」

「ああ、フクシマの原発で起きたという」

 いや、あれは水素爆発なんで別の現象です。まあ今はスルーしときましょう。

「重要なことは、水の量を一定にすることによって、爆発力も一定にできるということです。これで、飛距離が一定になり、命中精度も上がるはずです」


「ふ~ん、で、具体的にどうすりゃいいんや?」

「火縄銃もどきの銃は完成しているんですよね?」

「せやな」

「では、火薬の代わりに、水を入れればいいんですよ」

「せやかて、水を入れても、傾ければこぼれてまうで?」

「そうですね……、水分の多い植物でも使いますか」

「そんな都合のいいもんあったかいな……」

「ああ、そこの畑にちょうどいいものがありますね。その植物の実は、95%以上が水なんですよ!」

「ほう、ちょうどええやないか。じゃあこれを一定の大きさに切って、銃に詰め込んで、弾を込めて、乾燥魔法を全力でかければ……」

 スパーンという音とともに、銃弾が飛んでいきました。ついでに点火のための火門孔からも勢いよく水蒸気が出ていましたが、まあ問題ないでしょう。

「体積当たりの威力は、黒色火薬よりも劣りますが、量を調整すればその辺はなんとかなると思います。火縄で点火する必要もなくなったので、火門孔もいらなくなりましたから、塞いでおいたほうがいいと思いますよ」

「ありがとな。まあ、これで何とか頑張ってみよか」

「はい、頑張ってくださいね。それでは私はこれで失礼いたします」

「ありがとな、カノン!」

 今日もいい仕事をしました。


 さて、その後下界では、数か月前からみられるようになった、背中に甲羅、水掻きのある手足、顔にはクチバシ、頭に皿のようなものを乗せ、棒状の武器を持った人型モンスターが、野菜を求めて出没するようになったそうです。

 突然凄まじいソニックブームと共に農民の前に現れ、「なあ、アレないか? 緑色で細長くて水分の多い野菜」といって、野菜を求めるそうです。

 農民がキュウリをあげると、嬉しそうにどこかに去っていくとかなんとか……。


「……オイこれ、カッパやん!」

 さすがStupidランクさん、気が付くのが遅いですね。

カッパの好物がキュウリというのは、「瑞々しいキュウリは水神様へのお供えに良いだろう。カッパは落ちこぼれた水神様のようだ。だから河童はキュウリが好きに違いない」という連想らしいです。

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