第5話 ビコーオ2:ステータスが見れないのである
転生したら、とりあえずステータスオープン。基本ですよね?
「はい、こちらナーロッバ転生者コールセンター、担当のカノンです」
「吾輩である。ステータスが見れないのであるが、どうしてなのであるか?」
うぉっマブし。
この神々しい頭は、先程お生まれになったばかりの、ハゲマッチョのビコーオさんですね。
「ビコーオ様、どうなさったのですか? まずは状況を説明してください」
「吾輩、異世界に転生して、再び長い友に去られたのはショックだったのである」
「増毛は無理です」
そうとう根に持ってますね、毛根の話だけに。
「だが、いつまでも落ち込んではいられないのである。そこで早速ステータスを開こうと思ったのだが、開かないのである」
前向きなのは良いことです。
なるほど、転生したらまずはステータス確認。転生者のテンプレ行動ですね。
「それに関しては、転生者様全員に説明があったはずなのですが、またあのボケ老神が説明し忘れたのでしょうか?」
「聞いた記憶はあるのだが、3年も受精卵をやっていたら忘れたのである」
無理もない話です。
「結論から言うと、ステータスはありますが、ありません」
「……意味が分からないのである」
「とりあえず、『履歴書閲覧』と唱えていただけますか?」
「りれきしょえつらん……、おお何か見えるのである……?」
ハゲマッチョさんの目の前に、半透明なスクリーンが空中に浮かんでいます。
名前 ビコーオ・アッフェ
続柄 アッフェ家三男(未認知)
父 カールハイト(未認知)
母 ハール(未認知)
年齢 0歳(肉体年齢25歳)
状態 ハゲ
職業 大魔導士
祝福 不老長寿 魔法の適正
財産 なし
「これがいわゆるステータスですね」
「……項目が少ないのである。HPやMPとか、体力、知力とかはないのであるか?」
「むしろなんで、能力を数値で表現できると思ったのでしょうか?」
「例えば、筋力を数値化したりできないのであるか?」
「仮に、同じ筋肉量の人が二人いたとしましょう。Aさんは大胸筋や上腕二頭筋などの上半身がムキムキ。Bさんは大腿四頭筋やハムストリングスなどの下半身がムキムキ。腕相撲したら勝つのはどっちですか?」
「上半身ムキムキのAであろうな」
「では、スクワットの回数を競ったら?」
「Bであろうな」
「この二人を、同じ一つの数値で評価できますか?」
「……難しいのである」
「あるいは、Aさんが130㎏のバーベルで8回ベンチプレスができたとします。風邪をひいてても同じことができますか? あるいは、疲労していたら?」
「なるほど、筋力を数値で表すのは無理であるな」
まあ、厳密には、全身の筋肉量と発揮できる力をリアルタイムで数値化して把握することは可能ですが、神ならぬ身でその膨大なデータを理解するのは無理でしょうね。
「ほかの能力値も同じです。刻々と状況に応じて変化する能力を、一つの数値で表現するのは無理があります」
「では、経験値やレベルは無いのであるか?」
「むしろなんであると思うんですか?」
「……冷静に考えてみると、モンスターを倒すと、身体能力が上がったり、使ってもいない能力が上がったりするのは意味が分からないのである」
「というわけで、経験値やレベルといったものもありません」
「この職業というのは?」
「ああ、それはボケ老神が適当に決めています」
「……適当に?」
「はい、適当です。収入を得る手段というよりは、称号に近いです。まあ、あまり意味はありません」
まったく、なんでこんな項目を作ったんでしょうか。
「では、この祝福というのは?」
「転生者に与えられる、ボケ老神からのプレゼント、いわゆるチート能力ですね」
「吾輩の場合は、あの忌々しい不老不死と、魔法の適正というわけであるか」
「結局、ステータスを見ても、ほとんど意味がないのである。『ステータスはあるけどない』というのは、こういう意味であるか」
「いえ、重要な役割が一つありますよ」
「ほう。というと、この最後の財産という項目であるか?」
「この世界は地球と違っていて、所有権というものが明確になっているんです。ありとあらゆるものに、所有者のタグがつけられて、基本的に所有権のないものは、最初に所有権を主張した人の財産となります。所有しているという意識がなくなれば、所有権のタグ付けは消えます」
「ふむ。例えば、この拾った小石を吾輩のものだと意識すると……」
「ステータスが変化しましたね」
名前 ビコーオ・アッフェ
財産 小石×1
「なるほど」
「ちなみに、小石の方も、触った状態で『所有権閲覧』と言えば、小石のステータスを開けますよ」
「ふむ。しょゆうけんえつらん」
名称 路傍の石
所有者 ビコーオ・アッフェ
「このように、その物の所有権がだれにあるかがはっきりわかります」
「ちなみに、他人の物を盗むと天罰があったりするのか?」
「あの面倒くさがりのボケ老神がそんなに勤勉なわけありません。単に、盗まれたものだとわかるだけです。逆に、盗賊だと疑われても、自分の持ち物が盗品ではなく自分の所有物だと証明するのは簡単ですけどね」
「いろいろ抜け道がありそうなシステムであるな」
「そうですね……、残念ながら『世に盗賊の種は尽きまじ』といったところです」
「ちなみに、所有権を放棄するにはどうすればいいのだ?」
「所有しているという意識がなくなるまで放置するか、意識的に所有権を放棄すればなくなりますよ」
「なるほど。小石の所有権を放棄するのである」
名前 ビコーオ・アッフェ
財産 なし
「財産が、なし、になりましたね」
「……なし、になったのである」
「…………」
「………………」
「あの、つかぬ事をお聞きしますが、もしかしてビコーオ様は、服とかはお持ちでないのでしょうか?」
「吾輩、さっき生まれたばかりなので、当然、全裸なのである!」
初期装備セットを渡し忘れていました!
言い訳するのではないですが、ハゲマッチョさんのあまりの神々しさに目が眩んで、頭から下に意識が行ってませんでした。暑苦しいマッチョな肉体から目を逸らしたかったというのもありますが。全裸だというのに、堂々としすぎて全裸に違和感がありません!
というかハゲマッチョさんも、ステータスとかの前に、そっちを相談しましょうよ!
……冷静に考えたら、初期装備を渡すのは、ある程度成長した肉体に魂を憑依させる転移者だけで、異世界で産まれなおす転生者に渡すことは無いので、私の責任ではありませんね。
結論、だいたいボケ老神が悪い!
よし、脳内責任転嫁完了。
「上司の創造神が大変失礼をいたしました! すぐに初期装備と、当座の生活費をお渡しいたします」
「はっはっは、構わないのである!」
おお、なんという寛大な紳士でしょうか。
「吾輩、前世では、家の中でいつも全裸だったのである」
まさかの裸族!?
「と、とりあえず、こ、こちらが初期装備セットになります。それでは私はこれで失礼いたします!」
思わず、初心者セットを押し付けると、逃げるように念話を切ってしまいました。
いや別に、他意はないですよ?
しかし、地球からの転生者さんたちは、変態が多い気がします。地球人にまともな人はいないのでしょうかね……。
いえ、別にハゲに特別な感情があるわけじゃないんですよ?
本当に、ストーリーの都合なんです。