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第4話 ビコーオ1:異世界転生したはずなのに、まだ生まれないのである!

一体いつから「異世界転生したら生まれてくるはずだ」と錯覚していた?

「はい、こちらナーロッバ転生者コールセンター、担当のカノンです」

「……! ……! …………!?」

 んんん?

 微かに聞こえますが、はっきりとしません。

 念話と一緒に画像も送られてくるはずなのですが、画面が真っ暗で何も映っていません。

 ……とりあえず魂だけを、この転生者専用面談室に召喚しましょう。また前回のSランク河童さんのように、ミンチ肉で部屋を汚されては困りますからね。

 ちちんぷいぷいっと!

 幽霊のように半透明な30代ぐらいのオジサンが召喚され、目の前にフヨフヨ浮いています。

 魂の姿ということで、これは前世のお姿ですね。

 頭髪がとても寂しく筋肉だけがお友達の方……、端的に言えばハゲマッチョです。

 ハゲマッチョさんとでもお呼びしましょうか。

「ちょっとお尋ねするのである。吾輩は転生したはずなのに、3年たっても生まれないのである」

 転生したのに生まれてない転生者とは、なかなか矛盾していますね。

「とりあえず詳細な経緯の説明をお願いします」

「吾輩、創造神様の手違いで死んでしまったそうなのである。そこで、創造神様がお詫びに異世界に転生させて下さることになったのである、チート能力付きで」

「よくある話ですね」

 本当のところは、ボケ老神が地球の神からお勤め品の魂を二束三文で買って来ただけなのですが。

 とはいえ、身も蓋もない真実を教えるより、適当な嘘を教えておいたほうが、転生者もやる気を出しますから。

 ほとんどがハズレ魂なんでしょうが、このハゲマッチョさんはどうでしょうかね?

「それで、喜び勇んで異世界に転生したのであるが、いつまでたっても誕生しないのである」

「少々お待ちください、確認いたします」

 ステータスを確認してみましょう。


名前 ビコーオ・アッフェ

続柄 アッフェ家三男(予定)

 父 カールハイト・アッフェ

 母 ハール・アッフェ

年齢 0歳

状態 受精卵

職業 大魔導士

祝福 不老長寿 魔法の適正

財産 なし


 転生後のお名前は、ビコーオ・アッフェさん。

 魔法使いのアッフェ家の三男として生まれる予定っと。

 現在の状態は……、受精卵!?

 祝福が不老長寿……、ああなるほど、そういうことでしたか。

 あの創造神、いや、ボケ老神が原因ですか!


「原因が判明しました」

「分かったのであるか?」

「ビコーオさんは、転生前にチート能力を願いましたよね?」

「うむ、願ったのは二つ。不老長寿と、魔法を使えるようになることである。力については、自分で筋肉を鍛えればいいのである。しかし、鍛えた肉体を加齢で衰えさせたくないから不老長寿を願ったのである。そして、せっかく異世界に行くのだから魔法が使いたいのである」

 不老長寿に魔法とは、人類の夢(中二病的テンプレチート能力)ですね。

 まあ魔法の方は、一般人も普通に使える能力なので問題はないのですが……。

「問題は、不老長寿の方です」

「不老長寿の何が問題なのであるか?」

「そもそも不老長寿とは、どういう状態だと思いますか?」

「年を取らず、肉体が衰えず、寿命が長いということであろう?」

「そうですね。別の言葉で言うと、老化をしないってことです」

「なにも問題ないと思うが?」

「老化をしないってことは、常に同じ状態を維持するってことです」

「……まさか!?」

「はい、成長もしません」

「だから3年たっても生まれなかったのであるか!!」

「生まれないというか、受精卵のままですね」

 ボケ老神の書いた仕様書によれば、不老長寿といっても実際には、24時間経ったら自動的に肉体の状態を24時間前の状態に復元するだけの能力のようです。

 魂に保管される記憶だけはそのままなので人格は継続しますが、肉体の方は常に初期状態、つまり受精卵のままです。

 ちなみに、あくまで長寿なので、肉体が死んだら復元による復活は起きません。逆に言えば、手足が吹っ飛んでも首が飛んでも、復元時刻まで死ななければ、元に戻ります。

 腐っても創造神が与えた力、チートの名にふさわしい能力です。


「何とかするのである! 吾輩は異世界に転生したいのである!」

「え~と、チート能力の付与のような世界改変をした場合、一度付与した能力は変更することはできません。しかし、別の改変を追加することはできます」

 与えた能力の取り消しは、復元処理が面倒くさいから、創造神が禁止しているんですよね。

「どういうことであるか?」

「不老の能力はなくせませんが、受精卵から成長させることはできます」

「ほうほう、では大人まで一気に成長させるのである!」

「それはおやめになったほうがよろしいかと」

「なぜであるか?」

「いえ、母親の子宮内に、成人男性が出現したらどうなると思いますか?」

「……なかなかグロいことになりそうであるな。しかし、いまさら赤ん坊なんかやりたくないのである」

「でしたら、受精卵を母体から取り出して、外で成長させましょう」

「ほほう、そんなことができるのであるか」

「これなら何歳でも可能です。何歳ぐらいに致しますか?」

「そうであるな、吾輩が一番フサフサしていた……いや、一番筋肉が充実していた25歳ぐらいにするのである!」

「なるほど。承知いたしました」

 ちょっと視線を顔の上の方に向けながら、妙に納得してしまいました。

「人と話すときは、目を見て話してほしいのである!」



「えっと、裏山にちょうどいい岩があるので、それをくり抜いて疑似羊水で満たして……」

 酸素と栄養を送り込んで、筋肉を刺激して成長を促しつつ、あとは時間を加速っと。

 三分クッキングの応用です。

「はい、できました。これで25歳のビコーオさんの肉体の完成です」

「おお、さっそく魂を肉体に戻すのである!」

「はい、それでは魂を戻します。どうぞ異世界ライフをお楽しみください。お誕生おめでとうございます」


 岩山の頂上にあった等身大の卵のような岩が真っ二つに割れると、中から鍛え上げられた肉体を持つ成人男性が生まれてきました。

 おりしも朝日が昇るのと同時であり、神々しくも眩しい情景です。

 いや、本当に神々し……、眩しっ!


「……なあカノン殿、なんで吾輩はハゲ……、神々しい頭をしているのだ!?」

「…………転生先の父母の遺伝による若ハゲでしょうかね?」

 そういえば、アッフェ家のお父さんは、ツルツルですね。

「むろん、髪は生えてくるのであろうな!?」

「不老長寿で固定された肉体ですから、一生そのままです」

「……若返らせることはできないのであるか?」

「無理です。一度成長させてしまったら、元に戻すのは創造神の法則に反します」

「……」

「……スキンヘッドのマッチョとか、かっこいいと思いますよ?」

 促成栽培する際に、筋肉に刺激を与えすぎたのか、前世と同じぐらいのマッチョになってます。頭も前世と同じようになってしまいましたが。


「転生すれば、フサフサに戻れると思っていたのである……」

 この世の終わりでも来たかのような表情をしています。ちょっとフォローしておきましょう。

「頭髪が無いことをそんなに気にする必要はないと思いますよ。人間は進化の過程で体毛を失っていったわけですから、頭の体毛も無くなった状態は、人間の進化系ともいえる存在だと思うんですよ! ほら『髪の毛が後退しているのではない。 私が前進しているのである』って言うじゃないですか」

「そんな現実頭皮の慰めはいらんのである」


 どうしたものでしょうか。

 ……そういえば、ボケ老神から魔王討伐に関する通達が来てましたね。

「ビコーオ様、魔王討伐者に任命されれば、追加チートがもらえるそうです。願うチート能力次第では、髪を生やすこともできるかもしれませんよ」

「頼むのである! ぜひ創造神様にお願いして欲しいのである!!」

 おおっと、すごい勢いで立ち上がりましたね。ハゲマッチョが近づくと暑苦しいので、少し離れてほしいものです。

「承知いたしました。推薦しておきますね。それでは私はこれで失礼いたします」

 ボロが出ないうちに、早々に念話を切ってしまいましょう。



 ちなみに、後で成長過程のログを確認したら、18歳で成長を止めていれば、筋肉は細いものの、フサフサな線の細いイケメンだったんですよね……。

 永遠にハゲマッチョ……、強く生きてほしいものです。

 せめてものお詫びに、ボケ老神への推薦状は気合を入れて書くことにしましょう。

別に、ハゲの人に恨みがあるとかじゃないんですよ?

全体のストーリーの複線的に、ハゲである必要があっただけですので。

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